狩人人形 93
ガチャリ!
鍵が外され、『目玉の邪妖精』が扉を開く。
亜厂、此川さんが部室に躍り込む。
御倉は表で待機のようだ。
部室の入口を望遠で捉えている俺からすると、中で何が行われているのか、細かい部分は分からない。
普段ならば、警告、又は説得、反抗するようなら実力行使という流れだが、相手は人形だ。
どうしたのだろうか。亜厂なら、杓子定規にまずは警告からやっているだろうか。
『部室棟』の壁が揺れる。
どうやら、始まったようだ。
真名森先生の『目玉の邪妖精』が一体は部室の中へ、残り二体が左右に別れて『部室棟』の裏側、窓側へと飛んでいく。
俺が人形を発見したのは、窓からだ。
窓はたしか開いていた。
その人形は緑色の服を着た木製の狩人、もしかすると妖精かもしれないが、それを模した球体関節人形みたいなやつだった。
大きさは棚に座らされている状態で二十センチメートルから二十五センチメートルくらいだったので、立ったところで五十センチメートルないくらいだろう。
真名森先生の『|赤いとんがり帽子の邪妖精』より、気持ち小さいくらいだろうか。
部室に突入する『目玉の邪妖精』と入れ替わりに、亜厂と此川さんが出てくる。
御倉は一葉の写真を掲げる。すると、御倉の周囲に風が渦巻き、御倉が飛んだ。
御倉は『部室棟』の屋上から反対側へと向かっていく。
どうやら、あの人形は逃げたのかもしれない。
俺もドローンを大回りさせるように、『部室棟』の反対側へと移動させる。
するとやはり、あの人形は逃げ出していた。
『部室棟』三階から飛び出しても、壊れた様子はない。
関節を、カチャカチャと動かす様子で腕を大きく振り上げて走っていく。
それを追うのは真名森先生の『目玉の邪妖精』だ。
人形は手におもちゃの弓矢を持っていて、時折、矢を射ってくる。
ひょろひょろとして、『目玉の邪妖精』の随分手前で落ちる矢は、おもちゃにしか見えない。
人ではなく人形に取り憑くし、いきなり逃げ出して、攻撃もおもちゃレベルとか、なんだかドジっ子『再構築者』なんだろうか。
校庭を突っ切って、サッカーグラウンドを抜けて、雑木林に向かっている。
雑木林というとエルヘイブンの『再構築者』と戦ったのを思い出すが、見た目だけでは、この人形がどこから来たのかは分からない。
それにしても、この人形は走るのが早いような気がする。
軽くてスピード重視、斥候タイプの『目玉の邪妖精』が追いつけずにいる。
その後ろからは亜厂たちも懸命に走っている。
雑木林。その一本の木に人形が抱き着いた。
此川さんが『彫刻刀槍』を振りかぶる。
ズドンッ! という轟音が聞こえそうなスピードで放たれた彫刻刀槍が人形を、抱き着いた木に磔にしたかと思った瞬間、人形は木に同化していく。
人形が消える。
此川さんが驚きに目を見張る。
人形と同化した木が、彫刻刀槍を吐き出す。
それから、木が変形していき、巨大な人形が現れた。
一本の木、枝や根がうねり、腕や足を作り、幹が伸縮しながら頭や身体になっていく。
巨大な人形の手の先から、これまた巨大な弓矢が生まれる。
矢の一本が四メートルほどある。長槍みたいだった。
人形が矢を番え、弦を絞る。
弦は光のラインだ。魔力か御業か奇跡の品なのだろう。
此川さんの彫刻刀槍よりも長い矢が此川さんに向けて飛ぶ。
亜厂が前に出て、『木刀ボールペン』を力強く振るう。
長槍の矢がへし折れて、地を抉りながら落ちる。
さすが亜厂だ。
見ていると、人形が次の矢を生み出す。
心做しか、矢の分だけ人形が縮んだような……。
矢を番えて、弓を絞る。
その間に『目玉の邪妖精』は突進を、御倉が風の刃を放つ。
『目玉の邪妖精』の突進は、人形に凹みを作り、少しだけ照準を難しくさせ、御倉の風の刃は人形に傷をつけるが、人形にとっては、あまりダメージになっていないように見受けられる。
人形が矢を放つ。
此川さんが『欲望』で呼び戻した彫刻刀槍を矢に向けて投げつける。
長槍より少しだけ短くなった矢がその先端から四方に裂けていく。
人形が頭を反らして、彫刻刀槍を避けた。
此川さんの『彫刻刀槍』はその名の通り、百発百中、しかも手元に呼び戻せる投槍として機能する。
矢を狙った以上、矢を粉砕できるが、人形には避ける余地があったということだろう。
人形が別の木に飛びついた。また、同化していく。
雑木林は木が豊富だ。さらに奥に行けば、裏山にもっと木がある。
あの人形が木を同化して、どこまでも巨大化するとなると、かなり厄介だ。
おそらく、御倉もそのことに気づいたのだろう。
別の写真を取り出した。
御倉の『欲望』は、写真に収めた物を自分の物として操る特性がある。
どこからか、炎が飛んでくる。
方向からすると、『部室棟』近くのボイラー室からだろうか。
木製ならば燃やそうというのだろう。
渦巻く炎が人形へと向かう。
人形を中心に炎がその全身を舐めていく。
人形が激しく身体を揺らし、身悶える。
「やったか!?」
俺は思わずそう叫んでいた。




