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隙間から覗く人形 91


 外林研究員に渡されたインナーを着ている。

 内部に俺の『想波(カムナ)』を引き出し、鎧や噴流器などを形作るドライブが各所に仕込まれている。

 ドライブは特殊な素材で、インナーの布地と素材感が違うが、柔らかいシリコンのような肌触りなので、動きの邪魔にはならない。

 少し問題があるとすれば、上下一体型で全身を覆うため、インナーだけだと全身タイツを着た人みたいになるところだろうか。

 体育の時は着れないな、と思うが、学校を休学している今は、あまり関係ないことだった。

 あと、トイレの時も少々困る……。


 そういう余計な事を考えてしまうくらい、午後一発目の授業時間というのは退屈に思えてしまう。

 いや、これは午前中いっぱいTS専従班の面々と稽古をした結果、疲れているだけという説も充分に有り得ることだ。


 基本的には授業を受けている亜厂、御倉、此川さんに代わって、午後の授業中は俺が探索を進める時間だ。


 放課後になれば、DDのみんなも捜査を進められるので、俺は退散するが、放課後までのこのひと時は、俺の時間ということになっている。

 これはキャプテンである組木さんの命令だ。

 そもそもは外林研究員が作った『想波(カムナ)』保存技術のお試しのためでもある。


 もうひとつは、たぶん、組木さんの、俺が学校に行く気になるんじゃないかという期待が込められていると、俺は睨んでいる。

 俺の決めたこと、行動を阻みはしなかったが、組木さんなりに俺を心配してくれているのは、前にポロッと「日生くんは学校に戻る気はあるの?」と聞かれたために、なんとなく組木さんの望む姿が見えたからだ。


 俺たちDDに職業選択の自由はない。

 真名森先生は、都合の良い立場でDDに覚醒したから、今も学校の保健の先生がやれているだけで、これがどこかの会社員だったら、仕事は認められていなかっただろう。


 DDという職に着くしかないからだ。


 ドローンから送られて来る画像の横にあるエネルギーバーが点滅する。


 外林研究員が作った『想波(カムナ)』保存技術は、未だ実用段階とは言い難い。

 『想波(カムナ)』の特性は一部しか解明されておらず、今の段階ではペットボトル一本分の容器で一時間程度しか保存できない。

 しかも、『転生者診断アプリ』を起動しながらだと、三十分ほどしか使えない。

 一時間、放置しておくと無くなってしまう保存容器では、DDしか使えず、しかも、普通のDDなら自身の中に留めておけば消えない『想波(カムナ)』をわざわざ別の容器に入れる意味はない。


 だから、DDでありながら、そのエネルギースポットの中心地から離れて見守ることにした俺くらいにしか需要はない。


 残念ながら、俺の使うドローンは目立つので、遠くから望遠で見るので精一杯だ。

 ただ、学校というものは透明性を重視するからか、それとも少しでも自然光を取り入れたいからか、窓が多い。

 簡単にチェックして回るだけと思っていても、三十分では厳しい。


 俺はドローンを呼び戻し、『想波(カムナ)』を新たに充填、ふたたびドローンを飛ばした。


 ドローンで確認が難しいのは、『部室棟』だ。

 普段はカーテンが締め切られていて、中が見えない部室というのがたくさんある。


 ドローンのカメラを確認していると、窓が空いている部屋がある。

 あの位置は何部だろうか。


 窓を閉め忘れた部室というのは、そこまで珍しい訳でもない。

 ただ、この時は俺の中で何かが疼いた。

 虫の知らせとでも言うべきか、どうにも気になって、カメラをそちらへと向けた。

 カーテンは閉まっている。風でゆらゆら、と揺れていた。


 どうにか隙間から中を覗けないかと、ドローンを調節する。


 一瞬。ほんの一瞬だけ、少し強めの風がカーテンを大きく揺らした。


 目の錯覚だろうか。

 『転生者診断アプリ』の表示が八十パーセントを超えたような気がする。

 俺は録画していた画像を戻して、スロー再生してみる。


「人形?」


 カーテンの隙間から見えたのは、棚に置かれた緑の服を着た小さな人型の人形だ。

 それが見えた瞬間、たしかに八十九パーセントに表示が増えた。


 人形に転生するなどということがあるのだろうか?

 だが、見つけた以上は報告しないという選択肢はない。

 俺は『TS研究所』にメッセージを送る。


 組木さんから連絡が来る。


組木︰今まで人形に転生したという事例はない。

 現状維持で待機。

 校内のDDによって確認する。


 俺は指示通り、ドローンで確認しながら待機した。



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