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聞きたい外林研究員 90


 俺は身体中に電極や変な線を繋がれ、ベッドに寝かされている。


「お、日生さん、起きたかな?

 気分はどう? また全部使い切ったって?

 たしかに使い切ると総量が増えるって実験結果が出てるけど、本番でやる?

 結果的に、また気絶して、帰って来た訳だけど、ベリアルが居るからって無茶し過ぎじゃないかな?

 それも織り込み済みの行動?」


「……質問多すぎます、外林さん」


「仕方ないだろ、疑問が多すぎて、全部知りたいんだから、当然、質問は増えるよ。

 それじゃ、まず気分は?」


 そうか、また気絶したのか。


───日生ひなせ満月みづきよ。

 想波で一掃されては、取り込むべき魔力が残らん。

 やり方の改善を要求する───


「ベリアルが怒ってます」


「ベリアルには、封印体の最終処分として、こちら側で利用価値のない封印体をもう三体も渡してる。

 たしか、他のリビルダーの魂を取り込むと、魂の質が上がるんだっけ?

 願望には応えてるけど?」


───肉体のない魂によって、我らの魂はより強靭にはなる。だが、問題は魔力なのだ。

 魔力は肉体に残る。

 肉体がなければ魔力の質は向上するが、うつわが満たされることはない───


「そのために日々の食事は、全部、ベリアルに任せているだろ……そろそろ俺だってみそ汁が恋しいよ……」


 ベリアルが食べれば、日々の食事から魔力を少しずつ摂取できる。

 そのため、最近の食事は完全にベリアルに任せっきりだ。

 感覚は共有できるが、ベリアル主体の時、俺に来る感覚にはタイムラグがある。

 これは食べた気にならない。

 どちらかと言うと、情報が押し寄せるのを、俺の魂が必死に処理している気分になる。

 なにしろベリアルは大食漢だ。

 胃袋がはちきれるんじゃないかという量が次々に送り込まれて来る。

 情報としての食事。


 ベリアルにしてみれば、魔力回復手段としての食事だ。

 そのほとんどは魔力に変換されるため、胃に残るのはその内の僅かだけらしい。

 だが、胃に入るのは入るのだ。

 俺は食事の度に謎の膨満感と味の奔流で訳が分からなくなっている。


 ただ、解消手段はある。

 命そのものを生贄として、ベリアルに捧げることだ。

 それならば、量が少なくても存分に魔力を回復できる。

 ただ、使えない。

 それが家畜だとしても、忌避感が凄い。

 外林さんがどうしてもと言うので、一度、試した。

 羊一頭。

 俺が手を翳し、羊の何かを吸い取っていく。

 それはその羊の根源的な何かだ。

 地球のサイクルに手を突っ込んで掻き乱してしまったのだと本能が叫んでいた。

 それは、地球のサイクルに寄り添い、自身の意志を反映させる『妄想(デリュージョン)想士(デザイアー)』として、やってはいけないことだと感じる。

 全てを吸い取る直前、俺は無理矢理に俺の手を引き剥がした。

 エルヘイブンの『再構築者(リビルダー)』を吸い取るのとは違う感覚だった。


 ベリアルもそれは理解したらしく、それ以降、こちらの世界のものには手を出していない。


「なるほど、魔力問題か……おそらく日生さんがカムナを使う量をセーブできれば、毎回、ベリアルが出張る必要もなくなって、ベリアルの魔力問題は時間経過と共に解消できそうだけど、今の日生さんは壊れた蛇口みたいなもんで、カムナを出す量の調節が効かなくなってるんだよね……そこでだ」


 外林研究員は俺の言葉から、ベリアルが魔力問題について怒っていると読み取ったらしい。

 正解だ。

 もっとも、ベリアルが文句を言うとすれば、今のところ魔力問題についてのみなので、読み取るまでもないかもしれない。


 そして、外林研究員が取り出したのは、新しいカムナブレスだった。


ろく式。新素材の導入と関節各部への特殊ドライブによって、カムナの伝導率をプラス六十六パーセントまで効率化させた新型だよ。

 ただし、特殊ドライブは主要関節部に取り付ける必要があるため、今のところ専用のインナーを着用する必要がある。

 これで、今までと同じ使い方でカムナ切れになることはないはずだ」


「外林さん……」


 俺が感動していると、外林研究員は続ける。


「もっとも、これとて日生さんが力をセーブする努力をしてこそだ。

 さっきも言ったけど、もう少し端的に聞こうか。

 力をセーブする気ある?」


 この三か月間、外林研究員は俺が『TS研究所』に入り浸りなのをいいことに、研究を前に前にと推し進めて来た。

 その中で分かったことのひとつが、『想波(カムナ)』は使い切ると、総量が増えるということだ。

 それと、もうひとつ。使い切ると気絶するというのもある。

 ただ、これは俺の体感だが、『想波(カムナ)』の総量が増えるのは、実戦の時に限る。

 練習で総量を増やせたのは、最初の三回くらいまでで、気絶するまで出し切ろうとしても、練習では身体が言うことを聞かない。

 たぶん、切羽詰まっていないからだ。

 最初の三回、気絶するまで『想波(カムナ)』を使えたのは、俺が無知だったからだ。


「俺だって、気絶したくないですよ。

 ただ、出し切らないとベルゼブブの蝿が倒せないから、必要な分の力を放つと勝手に気絶までいくってだけです……」


 日々、ベルゼブブの蝿は数を増している。

 今のところ五十キロメートル圏内より外に、ベルゼブブの蝿が出ていないから、発見できているが、これは大元のエネルギー源である学校裏山の神社に関係していると考えられている。

 おそらく異世界からのエネルギーがそれより外に出ないから、ベルゼブブの蝿も出ないのであって、そうでなければ発見も難しいだろう。

 ただ、そうした、いたちごっこを繰り返す内、ベルゼブブの蝿は数で対抗するようになっていた。


「うん、なるほど、なるほど……その必要な分の力はどうやって測っているのかな?

 目測? もっと感覚的なもの? あ、ベリアルが教えてくれるとか?」


「手応え、としか……」


「手応えか……つまり、放出したカムナに神経が通っている?」


「分かりません……なんとなくそう思うだけで……」


「うんうん。実際、全滅までは至らなかったし、第六感的に分かることもあるのかもしれないね」


 言いながら外林研究員はメモを取る。


「やはり、次なる問題はエネルギーの固定化か……」


 俺の『想波(カムナ)』は機械の力を借りないと固定化、つまり鎧やそれにまつわる噴流ジェット装置を物質化できない。

 これが『ヒルコ』である俺の問題点だ。


 亜厂たちのように、物質に『想波(カムナ)』を宿して操ることができない。

 これが、俺がすぐに『想波(カムナ)』切れに至る原因だと外林研究員は考えている。


「さて、もう少し聞き取りを続けるよ」


 それから小一時間、外林研究員の質問タイムが続く。

 ここから外林研究員は仮定を導き出し、実験を繰り返し、カムナブレスの更なる改良に取り組む。

 俺がそれなりの戦力になれているのは、この時間のおかげでもある。

 外林研究員に頭が上がらないなと思いながら、俺は細大漏らさず、感じたことを伝えるのだった。



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