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洞穴の中のベルゼブブの蝿 88


 そこは深い森の中、誰を祀ったものか分からない小さな祠がひとつ。

 その裏手に、茂みに隠されるように洞穴がある。


 俺を含む機動隊、TS専従班、第二中隊総勢二百数名が対ベルゼブブの蝿専用装備に身を包んで、洞穴の入口を取り囲む。


 対ベルゼブブの蝿に使うのは高圧電流を流した網を撃ち出す電磁ネットバズーカに、電磁警棒、それだけだ。

 ベルゼブブの蝿は、近隣市街で猛威を振るい、ニュースにもなった。

 世間的に『ベルゼブブの蝿』とは言えないので、突然変異の巨大人食い蝿などと呼ばれているが、これに対処するのは警察の機動隊ということになっている。

 中でも普通の機動隊より規模が大きい上に内実を知る俺たちが対処するのが基本だ。

 市街地での作戦行動もあるため、基本的に銃などは使えない。

 電流で焼き殺すことになっている。


 俺たちの中でも、電磁ネットバズーカを専門に使う班が前に出て、洞穴へと向ける。

 春日部隊長の無線の合図と共に、電磁ネットバズーカが洞穴内部へと撃ち込まれる。

 それが開戦の狼煙代わりだ。


 蝿の羽音が洞穴内に、うわあああんとこだまする。

 かなりの量が生息しているらしい。


 初めはユキユキなどバイトを使って、生息域を拡げていたベルゼブブの蝿だが、今では人間を使うことを諦め、蝿たち自身が生息域を拡げようとしている。


 元々、人間に卵を運ばせていたのは、ベルゼブブの魔力に触れさせ、ベルゼブブと相性の良い肉体を作るためにやっていたことだと、今は分かっている。

 ベルゼブブを追い詰めた時、バイトをしていた男子バスケ部の面々は、全員保護されていた。

 つまり、ベルゼブブにとってのスペアボディを『TS研究所』が押さえてしまっていたのだ。

 仕方なくベルゼブブは、使い魔として育てていた蝿に乗り移って逃げた。

 そして、その蝿たちは俺たちに追われながら、なんとか繁殖しようとしているのが現状である。


 ベリアル曰く、蝿からベルゼブブが本来のエルパンデモンの肉体まで変異するのは、かなりの時間とエネルギーを必要とするらしい。

 元来、エルパンデモンの住人は人間とかなり近い肉体を持っているため、『再構築者(リビルダー)』は人間に取り憑く。

 それを、いくら自分の魔力が馴染んでいるからと、巨大蝿に取り憑いたところで、変異は並大抵のエネルギーでは起こせないということだった。


 ましてや、俺たちにその存在が知られている今、ベルゼブブは追われる者だ。


 こうして、蝿は見つけた端から駆除されていく。

 ベルゼブブが追い詰められるまで、時間の問題だと言えた。


 洞穴から一斉に飛び出しくるベルゼブブの蝿に、電磁ネットが次々と浴びせられる。

 バチバチと音が鳴り、辺りにえたような嫌な匂いが立ち込める。


 だが、ベルゼブブの蝿もただやられていくだけではない。

 電磁ネットを避けた個体は、俺たちを養分にしようと襲いかかって来る。


 これはベルゼブブの蝿の習性のようなもので、ほとんどの蝿が自分たちに敵対した人間を殺そうと襲いかかって来る。

 しかし、蟻などにも見られる習性だが、一部は逃げを選択するやつらがいる。


 俺は電磁警棒を振り回し、ベルゼブブの蝿を叩き落とす。

 逃げるやつらは、電磁ネットバズーカを持った隊員に任せて、俺たちは降りかかる火の粉をひたすら叩き落とすのだ。


 正規隊員ほどではないが、三か月間みっちり稽古をつけてもらっている。

 俺も少しは動けるようになってきている。


 拳大のベルゼブブの蝿は、大きいくせに動きは異常に早い。

 だが、実際のところある程度パターンを持って襲いかかって来るのだ。

 そのパターンさえ見極められれば一匹、一匹を倒すのはそれほど難しくない。


 小さく息を吐きながら、脇を締め、最少の動きでインパクトの瞬間に力を込める。

 意識だけは一人前のつもりで、蝿を叩く。


 バヂッ!


 電磁警棒に当たった蝿が落ちる。


 いける!


 俺はなるべく広く視野を持って、次に備えるのだった。



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