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第二中隊第一班の日生想士 87


 『事務棟』は職員室や校長室、事務室、保健室、用務員室、会議室などが集まっている。

 職員室に残っている教師が八名ほど、名前を知っている人も知らない人もいる。

 余裕がありそうな体育教師は別の教師と談笑していて、教頭と難しい顔で話しているのは一年生の学年主任だろうか。

 教師同士でも、こうして見ると神経質な人、真面目なタイプ、孤立している人、色々な人がいるのが分かる。

 教師といえども人間なのだと実感させられる。

 普段はあまり見られない側面を見ると、その教師を尊敬したり、逆に嫌いになったりする。

 やはり目立つ教師は、授業を受けたことがなくても記憶に残るものだ。

 特に不審な動きをする教師は見当たらない。


 俺は用務員室を覗く。

 立花さんは、仕事でいないようだ。

 憑かれてすぐ解放されたため、用務員の立花さんは簡単な記憶操作と健康診断で解放された。

 侵食率が高まれば、肉体の変異が進み、そうなると変異部分を切除したり成形する手術が必要になる。


 俺の肉体は、かなり変異が進んでいて、ベリアルと同居している間はいいが、全てが終わってベリアルが俺から離れた後、大手術が待ち受けている。

 でなければ、俺は大量のカロリーを必要とし、身体に貯まる魔力を消費できず、幻覚と幻聴と幻臭に悩まされ、肉体的に様々な不具合が出ることだろう。


 ドローンが保健室を映す。

 真名森先生だ。

 いつもの検尿カップでお茶を飲みながら、書類を読んで考え込んでいる。

 指先の絆創膏は連日の『欲望(デザイア)』使用による代償といったところか。


 真名森先生なら俺のことを受け入れてくれそうな気はする。

 優しい人だ。


 ただ、それを言ってしまうと、亜厂や此川さんだって、充分以上に優しい心の持ち主だ。

 嘘つきの俺に、好きと言った手前、心のわだかまりはあるだろうが、受け入れてくれること自体は変わらないだろう。


 だから、問題は俺にある。

 今、戻ってもDDの末席に座ることはできるだろう。

 そして、優しい言葉を掛けられる。

 「裏切り者」「嘘つき」「私の恋を返せ」なんて言葉を飲み込んで、「日生くんは仲間だから」「また一緒に頑張ろう」とか言われるのだ。

 ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ……。

 それを享受している自分が許せない。


 彼女たちから支配(サポート)を受けて、どうにか戦える俺では、彼女たちの元に戻る資格はない。

 俺は一人で立って歩けるようにならなければ……。


 砂藤班長から無線が届く。


「ベルゼブブの蝿を発見した。動けるか? オーバー」


「了解。戻る。日生アウト」


 俺はドローンを戻して、撤収作業に入る。

 後ろ髪引かれる想いを断ち切るように、国家の操り人形として、命令に従う。

 自分で責任が取れないのならば、歯車になるしかない。

 俺はベルゼブブの蝿退治に向かうのだった。




 学校から車で一時間。

 前に俺の感覚で『綻び』としてチェックしたことがある場所だ。

 この三か月で学校を中心に、半径五十キロメートル圏内の『綻び』を春日部隊長の指示の元、できうる限りチェックしている。

 ベルゼブブの蝿は、少しチェックを怠るとあちこちの『綻び』で繁殖してしまうからだ。


 『綻び』は異世界からの転生者の魂が通れるほどではないが、異世界からのエネルギー〈これは主に『再構築者(リビルダー)』の安全な変異に使われるモノということが判明している〉が得られる場所という扱いだ。

 『穴』は異世界からの転生者の魂が通れる上に、異世界からのエネルギーが豊富な場所、俺たちの住む地域だと学校の裏山にある神社を指している。

 それから、『ひきつれ』と言うと、一時的な小さな穴で、異世界との交渉に使われたり、異世界の転生者の魂の欠片程度なら通れるといった特徴を持っている。


 つまり、ベルゼブブの蝿たちは変異のためのエネルギーを集めていることになる。


 ベルゼブブの魂は、最初に転生して取り憑いた男子バスケ部マネージャーの肉体を離れ、一匹の蝿に乗り移った。

 これは、蝿の肉体を変異させ、こちらの世界に顕現しようとしている企みではないかと言われている。


 ただでさえ、ベルゼブブの蝿はベルゼブブの魔力を受けて、巨大化、凶暴化している。

 これは、ベリアルからの情報によると、変異とは別の現象らしい。

 それが、『綻び』から異世界のエネルギーを得て、変異してしまうのは防がねばならない。


 第二中隊の面々が専用装備を手に、その場所に集まって来る。


 ベルゼブブの蝿と俺たち第二中隊の戦いの火蓋が今にも切って落とされようとしているのだった。



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