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三か月後の日生満月 86


 あれから三か月。

 夏休みも終わり、操り人形の俺は『転生者診断アプリ』を組み込んだドローンを飛ばして、学校内を見回っている。


 この三か月、俺は学校を休学して連日『TS研究所』での訓練と学校の監視、蝿退治に明け暮れた。

 亜厂たちのグループメッセージは抜け、連絡は取っていない。

 携帯のメッセージは溜まっているが、俺はソレを見られないでいる。


 騙していたのだ。


 その状態で、亜厂と此川さんと御倉の感情を受け取って、リア充になったと喜んでいた。

 普通に考えても最低だし、普通に考えなくても最低だった。


 そんな俺が、何も言う資格はないし、何かを言えば、全てただの言い訳になってしまう。

 俺は、ちゃんと強くなって、『ヒルコ』の俺を受け入れなければ、一歩も前に進めなくなっていた。


 俺は『ヒルコ』で『再構築者(リビルダー)』のベリアルとひとつの身体を共有していて、それでも『妄想(デリュージョン)想士(デザイアー)』として、この世界を守ろうとしているのだと、俺自身に証明する必要があった。


 だから学校を休学して、亜厂たちとも連絡を取らず、ひたすら自分のできることに専念した。

 馬鹿な俺には、それくらい集中する何かが必要だった。


 この三か月の間、亜厂たちは、ベルゼブブを宿した男子バスケ部マネージャーの一年生女子からベルゼブブを退散させることに成功、ベルゼブブは例の蝿の一匹に乗り移って逃げたので、今は俺がそれを探しているのが一点。

 ハルポナは学校内で見つけることができず、未だ逃走中と思われるのが一点。

 アマイモンの『遠隔操作体(ドローン)』は時村先輩だけになって、『雨糸様の願誓盤』の儀式はすっかり廃れてしまい、時村先輩はそれ以上侵食されることもなくなり、『TS研究所』の監視下で大人しくしている。

 亜厂たちが封印した『再構築者(リビルダー)』は三か月で十五体になった。


 たくさんの自称悪魔や天使、さらには大祭に便乗しようとした神々が封印されている。


 『TS研究所』に通い続けて分かったのは、意外と異世界との交渉があるということだ。

 たくさんの異世界があり、その異世界ひとつの中にもいくつかのグループがあったりする。

 封印した神々を特定のグループと交渉して、何百年の間はこちらに来させないなどの約束の元、異世界に送り返したり、技術供与を求めたりといったことが行われている。

 そして、それは特定の宗教組織が仲介していたりするのだ。

 宗教組織には、意外とDDデリュージョン・デザイアーが居る。

 それは名称こそ違うものの、DDと同じ力を持つ人たちだ。

 そんな宗教組織のDDは、自分たちの崇める異世界との繋がりが強く、交渉の術を持っていたりするのだ。


 それは国の組織であるDDが一枚岩ではないことの証明でもあったりするが、とにかく複雑に絡み合って今の状況が保たれているらしいことが分かった。




 そういった状況がどうあれ、俺は俺のできることをするしかない。

 今、学校では新たな『再構築者(リビルダー)』が一体、居ることになっている。


 外から何度も教室を見渡していると、俺の憧憬があるからか、目立つ生徒はなんとなく覚えて来る。

 いつも空を眺めている生徒、ずっと隠れて携帯を弄っている生徒、クラスの中心人物、クラスのつまはじき者……。

 そういう人をクラス名簿と照らし合わせ、少しずつ覚えていく。


 勉強は『TS研究所』で詰め込みながら教えてもらっているので、少ない時間だが最低限、赤点を取らないくらいにはできている。

 研究所というだけあって、職員には頭が良い人も多い。

 そういう人は要点を掴むのが、上手いので、俺でも分かるように教えてくれたりする。


 正直、自分をDDとして認められるようになるまでと頑張っているが、慣れてしまえばこれはこれで面白いとも言える。


 友達との青春やリア充イベントはないが、大人たちの間で日々、新しい経験を積み、充実した日々ではある。


「こちら日生。教室内で不審な点は確認できない。ドローンを校庭に回す。オーバー」


「コントロール了解。

 どうだ、日生想士、復学する気になったか?

 オーバー」


「……また連絡する。日生、アウト」


 俺のフォローに動いてくれている第二中隊、新一班〈第一小隊のメンバーは全滅したため、新たな人員で組まれた第一小隊〉の砂藤さとう班長に、俺は何も答えられず通信を切った。

 

 春日部隊長や砂藤班長、外林研究員に組木キャプテン、事務方の真武まなぶさんなど、俺に復学を勧めてくれる人はそれなりにいるが、全員が俺の選択を尊重してくれているのは、ありがたい。

 そういう意味では、いい大人たちに囲まれているな、と思う。


 俺はドローンを校庭に回す。


 校庭では、一年生女子が長距離走をやらされていた。

 走る御倉が見える。

 どちらかと言えば、文化系女子の御倉は、長距離走に苦戦しているようだが、先に走り終わった女子生徒から応援をもらっている辺り、ウチの学校に馴染めたようで、安心する。


 俺は小さく自分の首を振る。

 御倉は俺に幻滅していないかもしれない。

 元々、俺の嘘に付き合ってくれていた御倉は、全てを承知の上で、俺を好きだと言ってくれた相手だ。

 だが、逃げるように休学してしまった今となっては、どうだろう?

 逆に幻滅されてしまったかもしれない。


 余計なことを考えるな。


 自分で自分を律する。

 希望を抱くことすら烏滸おこがましい。

 俺はクラス全体を眺めて、不審者を探す。

 不審者がいれば、御倉が気づくだろうに、未練がましく、御倉のクラスを眺める。

 しかし、それが未練だと気づいて、俺は報告と共にドローンを別の場所に回す。


 男子はサッカー場でサッカーらしい。

 こちらでも不審者は発見できず、俺は『事務棟』へとドローンを回すのだった。



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