真相を語る組木麟 85
すいません。遅くなりましたm(_ _)m
亜厂と真名森先生が救急搬送された後、組木さんから集合の合図があった。
此川さんと御倉は結果的に三体目の『再構築者』を見つけられなかった。
素早く学校から脱出したのか、俺たちが思いもよらない場所に潜伏しているのかは分からない。
ただ、ゼタルとの会話で三体目と思われるハルポナという名前が出ていたので、今回の転生でやって来た可能性はかなり高い。
いちおう、報告はしておいた。
元来、『TS研究所』から警告が来てすぐに『再構築者』が見つかることは稀だ。
ゼタルを見つけたのは、アマイモンの『遠隔操作体』だし、アバクタは転生と同時に殺人を犯すという失態を演じた。
それがなければ、気づけなかったかもしれない。
そして、二人死んだ。
今日だけで『再構築者』関連で六名の死者が出た。
ベルゼブブの殺人蝿で四人、アバクタによって一人、俺がゼタルと共に殺した二年生男子は山本という人らしい。
死者たちの顔がチラつく。
だが、一歩間違えれば亜厂や真名森先生、羽田先輩や斎藤先輩、用務員の立花さん、死んでいたかも知れない人がたくさんいるのだ。
六名で済んだとは言えない。
六名も死んだ。
その責任は重い。
『妄想☆想士』として、力を持つ者としての責任だった。
そう考えていた矢先、組木さんからの話が始まる。
「今日はここまでにしようと思う。
それから、此川、大事な話があるの。聞いて欲しい」
「私だけですか?」
「ああ、二人にも居てもらうけど、それはこの話に関係しているからよ」
「え……なんか怖いですね……」
此川さんは、冗談めかしてそう答えた。
「ここに居る日生くんは、リビルダーよ」
「えっと……それはどういう……?」
此川さんは意味が飲み込めないのか、キョトンとしていた。
それに比べて、俺と御倉は、ハッとして息を飲む。
「そのままの意味よ。
少し説明は難しいけれど、日生くんの中には、ベリアルと名乗るエルパンデモンのリビルダーと日生くんが同居しているの。
今まで、みんなの動揺を抑えるために秘密にして来たけれど、亜厂が気づくのが時間の問題になってしまった……訳も分からず日生くんがリビルダーだと知るよりも、せめて秘密にしていた理由を知った方が、まだ動揺は少ないと判断したわ。
だから、全員で情報を共有することにしたの。
生憎と亜厂、真名森の両名は緊急搬送されてしまったから、そちらは後でフォローすることになるけどね」
「え……じゃあ、琴子ちゃんは?」
此川さんは組木さんから御倉の名前だけ出ていないことに気づいたらしい。
正直、この時点で、俺と御倉は怖くて此川さんの顔を直視できなくなっている。
「知っていたわ。御倉は元の日生くんを知らなかったから、こちらに部署が変更された段階で全てを伝えていたわ。
これらの問題は全て、私の判断によるものよ。
日生くんに黙っているよう指示したのも私だし、御倉に日生くんの相談役を任せたのも私よ」
組木さんは、全ての責任は自分にあると説明してはいたが、此川さんの視線は、自ずと俺と御倉に向かう。
「相談役……」
「言えなくてごめんね、松利さん……」
バツが悪そうに御倉は謝った。
「……そうやって、自分だけ日生くんのこと、分かってあげられる、とか思ってたん?」
「え、違う。違うよ……」
「日生くんも、組木さんに止められたからって……それで、私やほのちゃんのこと、受け入れたフリして、わろてたん?」
此川さんの顔が見る間に真っ赤に染まっていく。
俺は慌てて否定する。
「いや、笑えるはずないだろ?」
「嘘や!
そんなん言われても、信じられへん……」
此川さんの目から、涙がポロポロ、と零れて来る。
「日生くん……組木さんが命令したら……なんでも聞くんか?」
「いや、それは……」
「それはも、これはもあるかあっ!
それじゃあ、まるで操り人形やないのっ!
死ね、言われたら死ぬんか!
……もう、いやや……うぅ……」
此川さんは、取り乱して、怒って、泣き出してしまう。
組木さんは静かに言う。
「此川。お前たちの気持ちは聞いている。
何度でも言うが、これは私の命令によるものだ。
日生くんにどのような意思があろうと、此川や亜厂の気持ちを優先するために、私は日生くんに口をつぐむように命令する。
日生くんは、たしかにかけがえのない存在だが、前に説明した『ヒルコ』というのは本当だ。
デザイアが使える者と使えない者、その優先度は、残念だが、火を見るより明らかだ。
日生くんも、そのことは日生くん自身が一番承知しているはずだ」
組木さんの言葉は正しい。だが、こうもはっきり言われると、傷つくものは傷つく。
「だって、克服したやんか……日生くんが頑張ったから、デザイアが発現して……」
「それが、ベリアルだ」
組木さんがはっきりと告げた。
「……。」
此川さんは、まさしく絶句した。
「日生くんは未だデザイアに目覚めていない……。
便宜上、ベリアルに身体を譲った状態を、デザイアが発現したと言ったに過ぎない。
これは過去に似た事例がある。
DDがリビルダーになった事例だ。
私はリビルダーと交渉した末、日生くんを差し出して、戦力を増強する道を取った。
今の状況はその結果だ。
私には、この国を、ひいては世界を守る責任がある。
そのためには、泥を被るし、お前たちに泥を食わせることも厭わない。
それが地球に選ばれたものの運命だからだ。
今日だけで、この学校で二人、死んだ。
此川、貴女もリビルダーの脅威は理解しているはずよね……?」
最後は少しだけ砕けて、組木さんはゆっくりと此川さんの肩に手を置いた。
此川さんは、無言のままその手を振り払って、駆け出した。
「待って、松利さん!」
慌てて御倉がそれを追いかけて行く。
俺は……。俺は動けなかった。
言い訳のしようもない。
此川さんや亜厂に、酷いことをしたのだという罪悪感が、俺の足に巻きついて、重い枷になっていた。
嘘で塗り固めた俺を好きだと言った彼女たちに、俺は嘘を貫き通した。
組木さんからの命令だったから、というのは簡単だが、此川さんの言う通り、それを受け入れて黙っていたのは俺だ。
俺はこの日を境に、学校を休学した。




