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日生《ひなせ》満月《みづき》 8

今日は少し余裕があるから、二話目の投稿です!

まだの方は一話目からお願いします!


 『デザイア』と『想波(カムナ)』の基礎を教わった俺は、コーヒー用の木のマドラーを見つめながら電車に乗った。


 亜厂あかりは自転車だ。


 大きくなれ……大きくなれ……これは俺の物だから、大きくなるはずだ……。


 俺は『デザイア』を発現しようと必死だった。

 力が使えなくちゃ、ヒーローにはなれない。

 このチャンスを無駄にしたくなかった。


 亜厂に奢ってもらったとは言え、このコーヒー用の木のマドラーは、俺の物になったのだ。

 俺の物なら、操れるはず。


 そう考えて、マドラーを握りしめて、じっと見つめながら念じていたが、マドラーはウンともスンともいわない。


 『強い想い』を超えた先にある、『もっと強い想い』。

 それが『想波(カムナ)』。

 組木さんはそれを『葛藤』と表現していた。

 どういう意味だろうか。

 そもそも『デザイア』は認識を変えることで発現する。

 認識を変え、そこに俺の精神エネルギーを流し込むことで自在に操ることができるはずだ。


「ふんぐぬぬぬ……」


 あまりに集中したせいか、声が出た。

 ざわめいていた電車内が、一瞬で静寂に包まれる。


 おう……やっちまった。


 周囲の目が俺に刺さる。

 電車内でやるもんじゃなかった……。


 ちょうど、俺の家の最寄り駅だったので、俺は逃げるように電車を降りた。


 家に帰り、食事やら、風呂やらを済ませて、机に向かう。

 机の上には、例のマドラーが置いてある。


 何か違うんだろうか?


 俺はマドラー片手に思い悩む。

 おそらく、認識を変えて、精神エネルギーを流し込むこと自体は間違いではないと思う。

 もう一度、ゆっくりやってみよう。


 世界は循環している。

 その流れの中に俺は存在している。

 どこまでが俺のものなのか……変えるべき認識はココだ。

 『妄想(デリュージョン)想士(デザイアー)』は我儘だと亜厂は言った。

 つまり、どこまで俺のものとして認識できるかが鍵なのだ。


 もう少し、思い入れのある物の方がいいんだろうか?

 いや、考えてみるものの、より思い入れのある物、もしくは自分のものとして認識している物とこのマドラーでそう大した違いがあるとは思えない。

 例えば歯ブラシ、お気に入りのマグカップ、部屋の小物……どれも俺のものだが、親に買ってもらったか亜厂に買ってもらったかの違いだけだ。


 自分で稼いだ金なら認識も変わるだろうか?

 公安部外事第六課職員として今後、給料が出るらしいから、そうなれば違うかもしれない。

 でも、それも難しい気がする。

 そもそもお金という存在自体が、誰かの考えた信用の在り方のひとつに過ぎない。

 物質的な何かに拘ること自体が、間違いなような気がしてならない。


 物質的な何かに拘らないのならば、このコーヒー用マドラーでも問題ないはずだ。


 亜厂の話では、飲み物とオシッコの話にしていたが、全てが繋がっていると思えば、循環の中にいることは分かる。

 俺が生きてきた十六年。

 それは、親の世代、祖父母の世代、さらにその前と繋がっていて、それもまた循環の中にある。

 つまり、どれくらい生きたかは重要ではない。


 そう考えていくと、さらに認識の世界は拡がる。

 何かが掴めそうな気がする。


 逆に考えてみよう。


 一滴の水から始める。

 それが例えば、動物の飲み水になる。

 水の意識が動物の意識に拡がる。

 そして、その動物を俺の遠い遠いご先祖さまが食べるのだ。

 動物の意識が俺のご先祖さまにまで拡がる。

 ご先祖さまから子供が生まれて、さらに子供が生まれて、さらに、さらに……。

 そうして、生まれたのが俺だ。


 意識が拡がっていく。


 動物が生きる上で関わった全ての物、ご先祖さまが関わった全ての物、俺に至るまでに関わった全ての物。


 地球が、宇宙が循環していく。

 俺の意識はその全てに拡がって、俺という存在がその全てに溶け込んでいく。


 ああ、(うちゅう)は……。




 電子音が鳴った。


 耳から入ったその音によって、俺の意識が急速に縮んだ。


 あとひと息で俺は全てを理解する、その手前で、俺は俺になった。


 一瞬、何が何だか分からない。


 机に突っ伏していた?


 じゃあ、寝ていたのか?


 携帯が光っていた。亜厂からメッセージが届いていた。


───今日はファガナインまで付き合ってくれてありがとうございます!

 男の子と二人っきりでお茶するのとか初めてで、実はすっっごく緊張してました。

 でも、日生くんとお茶できて楽しかったです。

 DDの訓練は始まったばかりで、分からないことも多いと思うけど、気軽に連絡してくれると嬉しいです。

 あと、良ければまたお茶に付き合ってくれると嬉しいです!───


 夢を見ていたようだ。

 早く力を得たくて、脳みそを使いすぎたか。

 俺は、亜厂にお礼と、こちらこそ奢ってもらってありがとう、今度は俺の方からご馳走すると返して、その日は早めに寝ることにした。


 もしかしたら、さっきの全てを理解する全能感の夢の続きが見られるかもしれないと思ったからだ。

 まあ、そんなことはなく。

 代わりに、夢の中では亜厂が出てきた。

 デートしている夢だ。


 目が覚めて、なんだ夢か、とがっかりする夢だ。

 夢の中が幸せであればあるほど、現実との差異に打ちのめされる。


 昨日のファガナインでのやりとりは、別にデートじゃない。

 終始、DDとしての教えを受けていただけだ。

 亜厂からすれば、狙っていた新商品を飲むついでの話だ。


 俺は、浮かれ気分の俺をそっとたしなめるのだった。




 翌日、授業中、俺と亜厂の携帯にメッセージが届いた。


───見つけたかもしらん。昼休み、屋上で。此川このかわ───


 俺と亜厂は、思わず目を見合わせたのだった。



物事を色々な角度で見てみると、意外な発見があったりします。

DDは世の森羅万象を自分のモノとして認識します。

では、森羅万象にとってのDDとは?

ここに『葛藤』があります。

やらかしたね、日生くん。

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