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混乱の天使 78


「【火の剣】悪いね、まだ転生したばかりで半端な奇跡しか使えないんだ。

 ここで無理する必要もないし、適当にその薄汚れた魂だけ置いていってくれる?」


 ゼタルが笑って言う。

 その手には、いつの間にか剣が握られている。

 見た目は金属製の両刃の剣だ。

 ただ、これが『奇跡』である以上、ただの剣ではないのだろう。


 『木刀ボールペン(トツカノツルギ)』を両手で構えた亜厂が、フッと身体の力を抜く。

 春日部隊長たちに稽古をつけてもらったから分かる。

 力みは動きを固くする。


 それを見て、俺もゆっくりと息を吐きながら、身体の力を抜く。


 ここでベリアルに身体を譲るという選択肢は取るべきではないと思った。

 テラの戦士、いや、『妄想(デリュージョン)想士(デザイアー)』として戦うべきだ。


 真っ先に動く。

 左腕の盾と右腕の刃。

 無理はしない。

 未だ春日部隊長たちから一本も取れない俺だ。

 『再構築者(リビルダー)』は身体能力が高い故に技は未熟だ。

 俺が隙を作れば、亜厂が決めてくれるはずだ。

 だから、右腕の刃で牽制しつつ左腕の盾で受けることを優先する。


「ははっ、遅いな、羊!」


「うおっ……」


 ゼタルの大振りな一撃。

 しかし、俺はそれをなんとか盾で受けることに成功する。


 カキンッ!


 速い、が軽い。おそらく【火の剣】はほとんど重さがない。

 一撃で吹き飛ばされるかもと、足を大きく開いて堪えるつもりだったが、これなら受け止められる。


「イヤアアアアアッ!」


 亜厂が突きを放つ。

 教室には机があるので、スペースは狭い。

 その狭いスペースを有効活用する手として突きは最善だ。


「チィッ!」


 ゼタルは身体を捻って躱そうとするが、その瞬間に俺は盾で押す。

 バランスを崩したゼタルは、頬に一筋の傷ができる。


「くっ……羊どもがぁっ!」


 怒りに顔を歪ませたゼタルが俺を力任せに足で押す。

 俺はよろけて尻もちをついた。

 空いたスペースにすかさず亜厂が入り、袈裟懸けの一撃を放つも、ゼタルはそれを両手持ちにした剣で受け止めた。

 その隙に、俺は急いで立ち上がる。


 ゼタルと亜厂の鍔迫り合いになる。


 その時、俺はようやく気づいた。


「転生したばかりで、侵食が進んでない?

 ご自慢の身体能力も変異が進んでいなければ、そこまで脅威じゃないな」


「知ったような口をぉぉぉっ!」


「きゃあっ!」


 鍔迫り合いに負けた亜厂が転びそうになるのを後ろから支える。


「亜厂、大丈夫か!」


「うん」


 一瞬の間に、ゼタルは背を向けて駆け出した。


「この、逃げるのか!」


「はははっ!

 追って来てもいいよ!

 追いつけるのならね!」


「上等だ!」


 俺が駆け出そうとした瞬間、亜厂が俺の腕を掴んで止めた。


「亜厂?」


「待って。何か変だよ……」


 そう亜厂が言うと同時に、連続して『TS研究所』からメッセージが届いた。

 新たな『再構築者(リビルダー)』の反応が同時に二体、現れたというものだった。




 学校の封鎖。

 学校関係者が続々と保護されていく。

 おそらくゼタルは新しい『再構築者(リビルダー)』の元へ向かったのだろう。

 この時間、学校内に残っているのは、既に敵か味方か、どちらかのみだろう。


 全員と情報を共有しておく。


日生︰童顔、くせっ毛、身長百六十以下、二年男子がゼタルというエルヘイブンのリビルダーだ。

 新しいリビルダーが二体ともそうかは分からないが、おそらくそいつらと合流しようと動いているはずだ。


亜厂︰斎藤先輩は侵食率八十パーセント以下で魔法が使えたの。特殊なリビルダーだと思う。

 時村先輩も可能性があるから、気をつけて!


此川︰時村先輩は家庭科室にはいなかった。

 今、御倉と探してる。


真名森︰イビルアイで探索中。本棟には他に生徒は残ってなかったよ。専門学習棟の探索に向かうね。


日生︰亜厂と事務棟に行ってみる。

 雨糸様関係者は岩を飛ばしてくる。気をつけて!


御倉︰私たちは総合体育棟に行くね。


亜厂︰そっちもね!


 臨時でチーム分けしたまま、行動することにする。

 メッセージを送りあってから、俺は亜厂と頷き合い、『事務棟』に向かおうとする。


「満月くん!」


「どうした?」


「あの……」


 亜厂が言い淀む。


「何かあったか?」


「うん。【生太刀・生弓矢】しておこう……」


「あ、ああ、そうだな」


 俺と亜厂は繋がるためのキスをした。



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