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ゼタル 77

活動報告にも書きましたが、濃厚接触者になってしまいました。

そのため、時間が取れず土曜日は急遽、お休みさせていただきました。すいません。

少し落ち着いたので、再開です!


 渡り廊下を走り抜けて『本棟』に入ったところで俺の感覚が警告を発した。

 それは視覚でも聴覚でも嗅覚でもなく、言うなれば第六感に近いものだ。


 その第六感に従って、俺はカムナブレス弐式のボタンを押した。

 カムナブレスは俺の『想波(カムナ)』を『想波防御(カムナシールド)』に置き換えて現出させてくれる『TS研究所』謹製のアイテムで、本来ならばDDが自然に身にまとうエネルギーシールドを攻撃や防御に使えるようにしてくれる俺専用装備だ。


 驚く。

 カムナブレスから発生した『想波防御(カムナシールド)』が複雑に折れ曲がり蒼い半透明の手甲ガントレットと胸部を覆う鎧を形成する。

 手甲ガントレットに張りつくように、五角形の盾が形成される。

 その盾に、ガツンと岩がぶつかった。


 よろける。

 盾に当たっていなければ、俺の頭は簡単に割れていただろう。

 片手で投げられる大きさではない。


 岩が来た方向へと視線をやる。

 逃げる人影が見えたような気がした。

 一瞬すぎて、はっきりとは分からないが、なんとなく女性のような気がした。


「くっ……誰だ!」


 人影が消えた校舎の角まで走るものの、人影はすっかり消えていた。

 今の攻撃は俺の真横からだった。

 人の力で投げられない大きさの岩なら、俺を攻撃したのは『再構築者(リビルダー)』か『遠隔操作体(ドローン)』だろう。

 そして、俺に、というかベリアルに恨みを持つのは『アマイモン』だけだ。

 『アマイモン』の『遠隔操作体(ドローン)』は時村先輩と斎藤先輩。

 その内の一人、斎藤先輩は『本棟』二階にいるはずだ。

 つまり、時村先輩に襲われたことになる。


 一瞬の迷い。

 追うか追わないか。

 『アマイモン』という本体を通じて、羽田先輩と斎藤先輩、時村先輩は繋がっているはずだ。

 ここで俺が襲われたのは、『本棟』に行かせたくないということだ。

 エルヘイブンのゼタルを探す斎藤先輩の邪魔をさせたくないという判断だろう。

 ここで時村先輩を追いたくなる気持ちを、グッと堪えて、『本棟』へと向かう。


 正体の判明している『アマイモン』より、誰に取り憑いたか分からない『ゼタル』を探す方が先決だからだ。


 俺は『人払いアプリ』を起動させながら走る。

 この半透明の光の鎧姿を見る人数は少ない方がいい。

 後で記憶を操作する必要を最小限に抑えた方が楽に決まっているからだ。


 階段を二段飛ばしで二階へ。

 廊下に出ると、トイレの入口に身を潜める亜厂と、廊下から教室を覗く女子生徒が見えた。

 俺は慌てて階段の方へ身を寄せ、隠れる。


「……。」


 女子生徒が何かを呟くと、空中に岩が浮かぶ。

 俺がくらったのと同じモノだろう。

 遠目ではっきりしないが、おそらくは斎藤先輩。

 つまり、斎藤先輩が狙う先に『ゼタル』はいる。

 だが、斎藤先輩の岩が飛ぶ直前、斎藤先輩を火炎放射器のような炎が襲う。


 あ、と思った時はもう遅い。

 斎藤先輩は火だるまになって、転がった。


 俺は慌てて『ゼタル』を確認するべく走り出す。


 亜厂も同じく走り出した。

 だが、亜厂の目的は俺とは違ったようで、廊下の火災報知器下に備え付けられた消化器を取り出した。


 何人かの残っていた生徒たちが、各教室から顔を覗かせる。

 『人払いアプリ』も万能ではない。

 彼ら彼女らには、後で記憶操作をすることになるだろう。


 俺は斎藤先輩が見ていた教室、二年B組に突入する。

 教室の外、ベランダから出て行こうとする男子生徒が見えた。


「待て!」


 俺が叫ぶと、そいつは振り返る。


「まだ悪魔の使徒が残ってたのかぁ……」


 俺はドキリとする。だが、俺の場合、ベリアルと身体の操作を交代しなければ、エルパンデモンの匂いはしないはずだ。

 それにこの二年の先輩とも面識はない。

 俺の鎧姿でそう判断したのだろうか。


 くせっ毛なのか、多少モジャついた髪をした男の子と言いたくなる風貌をしている。

 痩せ気味で身長は百五十七とか百六十いかないくらいだろうか。

 ただ、大きな瞳は剣呑に睨むように俺を見ていて、今にも掴みかかって来そうだ。


「死にかけた羽田先輩から聞いたよ。ゼタルだな」


「死にかけた? そうか、死ななかったのか、ざんねん」


 ゼタルはどちらでもいいような言い方で返す。


「何がしたくて、この世界に来た?」


「そりゃあ、もちろん、大祭を混乱させにだよ。

 僕はそういう天使だからね!」


「は? エルパンデモンの大祭を中止させに、とかじゃないのか?」


「何言ってんの?

 どうせ次の魔王を決めるのなら、なるべくくみしやすい悪魔が魔王になった方が、当分の間、楽できるでしょ。

 だから、僕の目的は大祭を混乱させて、大穴のしょぼい悪魔が魔王になることさ」


「お前、天使のくせにエルパンデモンの大祭に加担しようとか思ってるのか?」


「おや? 悪いかい?

 条件次第じゃキミに手を貸してやってもいいんだけどね?」


「ふざけんな! 人間の命は異世界の奴らの駒じゃないんだぞ!」


「あれ、羊の心配をするなんて、まるでテラの戦士みたいじゃ……」


「そうだよ。俺はデリュージョン・デザイアーだ!」


「ああ、今はそんな呼び名になっているのか。

 でも、大祭を知っていて、現実的な思考をしていれば分かるんじゃない?

 小さな犠牲で、この先千年の平和が買えるんだよ。

 アマイモンやベルゼブブ、アザゼルやリリトも今回の大祭に動くって話もある。

 そいつらが魔王になりでもしたら、こちらの現世にどれだけの影響が出るか……。

 僕は君たち羊のこれからの千年を守るために動いているんだよ。

 さあ、分かったら、ひざまずいて礼を持って迎えるべきだろう」


「……バカなのか?」


「分からないのかい?

 それなら、邪魔だ。キミの魂は後で有効活用してやろう」


 ゼタルが俺に掌を向ける。


「【浄化の炎】」


 エルヘイブンの奴らは自分たちがこの世界の主人とでも言うような思考をしている。

 気に入らなければ、壊して、殺して、好きに弄ればいいとでも思っているのだろうか。

 かなり短絡的に攻撃してくる。


 俺は十字受けの要領で盾を掲げる。


 ゼタルの手からは炎が吹き出した。


 俺がカムナブレスの盾に最大限の『想波(カムナ)』をぶち込んで炎に備えようとした時、その炎を斬り裂くように亜厂が教室に突っ込んで来た。


「満月くん!

 【トツカノツルギ】!」


「なんだ、羊らしく群れていたってことか」


 ゼタルは軽く肩を竦めた。


「ダメですよ、無茶したら。

 斎藤先輩の一命は取りとめました。

 それから、みんなにも連絡してあります!」


「すまん、助かる」


 盾で守れない部分は焼かれる覚悟だったから、ここでの亜厂の援護は本当に助かった。

 しかも、斎藤先輩の救助に仲間への連絡と、そつがない。

 本来ならば、ゼタルが二年B組の生徒であることを確かめた段階で、俺は引いて、一度機会を待つべきだったのかもしれない。

 つい、気がはやってしまった。


「仕方ないなぁ。話が分かりそうな羊なら、飼ってやろうと思ったのに……。

 まあ、群れごと焼いて、いただいておこうか」


 言ってゼタルはニヤリと笑うのだった。



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