表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/128

とける 74


 翌日、昼休み。

 ほんの短い間とは言え、謹慎処分を受けたことで入れなかった屋上の扉を開く。


「満月くん!」


「ひなせくん!」


「日生さん!」


 亜厂、此川さん、御倉の三人が待っていましたとばかりに寄って来る。


「みんな、ごめん……俺が考えなしに動いたせいで、謹慎なんてことになって……それから、みんなが俺を気遣って普通に接しようとしてくれていたのに、変な誤解をしてしまったのも、ごめん……それと、一人で飯岡先輩と対峙したのも、悪かった。ごめん……」


「……まあ、そうやね。謹慎も誤解も怒ってへんよ」


「そうだよ。こっちこそ、誤解を招くようなことしちゃって、ごめんなさい。

 満月くん、落ち込んでるだろうから、DDとして以外のところは、なるべく普段通りにしようって決めたんだけど、切り離して考えるべきじゃなかったね」


「いや、俺の自意識過剰が原因だから……」


「まあまあ。その辺りはお互いに悪いところあったからね。おあいこにしとこうよ」


 御倉が話をまとめてくれるので、俺も切り替えることにする。


「うん……とにかく謝っておきたかったんだ……」


「まあ、そっちは問題ないんやけどな……」


 此川さんがそう言って、タメを作る。


「なんで一人で無茶したん?

 これに関しては、全員、怒っとうからね!」


 此川さんの言葉に、亜厂と御倉も頷いた。


 俺は予め用意していた言い訳を口にする。

 御倉はともかく、未だ俺の中にベリアルが居ることは他のDDには秘密にしなければならない。

 飯岡先輩〈セアル〉との一件は、ベリアルの存在なしに説明するのは不可能だ。


「あ、いや、それは……みんなの役に立とうとしたのは確かなんだけど……裏山の神社は、少し独りになりたくて行ったんだ……そうしたら、『私の動きを邪魔するのはお前か』ってリビルダーが出てきて……」


「ええ、そうなの!?」


「そんな……」


 亜厂と此川さんは驚いたような顔で見ていた。

 特に此川さんは俺と動いていた関係で、驚きが大きいようだ。


「ちょうど、その前に校舎内で、時村先輩と目が合ったんだ。

 時村先輩はリビルダーじゃないけど、何かしらの影響があるような気がする……もしかしたら、羽田先輩と斎藤先輩も……」


 現状では『遠隔操作体(ドローン)』の話が『TS研究所』から出ていないので、注意を促すには、こうでも言わないといけない。

 俺の話を元に『TS研究所』の方で『遠隔操作体(ドローン)』に対する影響等をまとめてくれることになっているが、正直、研究が追いついていないようだった。


「たしかに、あの三人の先輩はちょっと変というか、もっと学校内で目立ってもいいくらいの雰囲気があった……ほのかちゃんは直接の知り合いやったりする?」


「ううん。

 知り合いの知り合いって感じかな?」


「やよね。私もそうやわ。

 私らが入学して、目立つ人らには声掛けて回った以上、あれだけ雰囲気あったら、もっと早く耳に入っててもおかしくあらへんよね……」


 二人の話ぶりだと、学年で目立つやつは大体友達って感じなんだろうか。

 さすがだ。


「それってつまり、最近になってカリスマ化したってこと?」


 御倉が聞く。


「そうかもしれへん……」


「それが『雨糸様の願誓盤』の影響なのかな?」


 亜厂が首を傾げる。


「とりあえず、その三人に出た影響がどんなものか、調べた方がいいかもね」


 御倉が考えながら言うのに、亜厂が応えてから、話は俺の方に移った。


「うん。それと、満月くんが調べてる男子バスケットボール部の秘密のバイトの件はどうなってるの?」


「ああ、リビルダーが関わっているらしいことは確定なんだけど……まだ、誰がリビルダーかは分からない」


 運んでいるのが、巨大な蝿の卵で、『再構築者(リビルダー)』の関わりが濃厚だということと、関わっているメンバーの話などをしておく。

 秘密のバイトに関しては、俺が春日部隊長たちと動いていて、女子である亜厂たちが入れない話だ。

 『再構築者(リビルダー)』との関わりは、俺や春日部隊長にしてみれば確定だが、説明するには、ベリアルの存在を明かせないので、まだしばらくは、言葉を濁すしかない。

 話せるのは『TS研究所』で判明した事実だけになる。

 これもまた、もどかしいが仕方のないことだ。


「うぅ……大っきいハエかぁ……」


 亜厂が薄ら寒いという感じの声を出す。


「まだそれがどういう役割かも分かってないしな。

 ただ、春日部隊長たち、DD以外でも対処が可能らしい」


「どれくらい危険なモノなのかによるよね……」


 御倉は冷静に言っているが、その顔はなるべくなら関わりたくないと言っている。


 俺は『転生者診断アプリ』での男子バスケットボール部関係者へのチェックの協力を取りつけてから纏める。


「どちらにせよ、もう少し調べないとなんとも言えない。

 いつでも動けるように準備だけはしておかないとな」


 昼休みのミーティングを終え、放課後は春日部隊長たちとユキユキが行ったと思われる場所がどうなったかを見てみるため、俺は一人、先に帰った。


 帰り道の途中、黒塗りのバンで来た春日部隊長たちと合流する。


 まずは近場の○○駅からだ。


 ベリアルに感覚のスイッチを入れてもらって、俺は音に集中する。

 駅前では、分からない。

 ならばと、春日部隊長が地図を広げる。


「この辺りは都会で山もない。だが、今までの状況から考察すると、自然がある場所ほどパワースポットになりやすい」


「……それなら、ここの国立自然公園とか?」


「もうひとつ、パワースポットになりやすい条件は、聖域や神域といった場所だ」


「自然公園の端に寺のマークがあります」


「よし、ここから調べてみよう」


 春日部隊長と隊員たちが目星をつけて、車をそちらに回す。


 リ、リィィ……ン……。


「あります! たぶん、綻びクラスのパワースポットだと思います!」


 俺は叫ぶ。


 黒塗りのバンの後ろには、やはり隊員たちの乗る黒塗りのバンが数台連なっている。


「よし、一班を捜索に向かわせろ。

 地図で見る限り、この近辺にあと二か所の神域がある。

 俺たちはそこへ向かう」


 車が二か所目の神域〈神社だった〉に向かう途中、一班から連絡が入る。


───こちら一班。いました。すでに羽化してます───


 春日部隊長が無線を取って応答する。


「どんな感じだ?」


───一匹が拳大くらいあります。動きはありません。触覚だけ忙しなく動いてます。木の上、四メートルくらいの位置に止まっています。はねに模様のようなもの……こんなもの見たら、一般人は卒倒しますよ……うっ……待ってください……うわ、そこら中に居ます。おそらく百以上……───


「捕獲はいけそうか?」


───ええ、通常の虫取り網が破られなければ、ですが……───


「よし、サンプルを捕れ。慎重にな」


───了解です。捕獲を試みます……───


 普通の蝿で、一週間から三週間ほどで成虫になる。

 秘密のバイトが三日に一回ほどの頻度だ。

 成虫になっていてもおかしなことではない。

 俺たちは一班の成功を固唾を呑んで見守る。


───……よし! 捕獲に成功……う、うわっ……一斉に動き……くそっ、よせっ、やめろ! うわあああっ……ドクロ……───


「一班、どうした?

 報告しろ! 誰でもいい、応えろ!」


 無線から喧しいほどの、ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ……という翅音が響く。


「くそったれ! おい、自然公園に二班を向かわせろ! 状況確認させろ!」


 春日部隊長が叫ぶ。


 そうして俺たちが乗った車は予定通り、二か所目の神域に近づく。

 ここは綻びではなかった。


───二班、報告します……一班、四名……おそらく全員分の衣服の切れ端と思われるものを残して、消えました……───


「なんだと!?」


───蝿どもは木の上、四メートルほどの位置で、一班の報告と同じように動き、ありません……いや……コイツら……腹が膨れてやがる……───


「それって……」


 おそらく、この無線を聞いた全員が思った。

 一班は全滅したのだと。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ