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事情聴取する組木さん 71


 火曜日。午前の授業に出て、午後は真名森先生の協力を得て、早退。

 俺は『TS研究所』に来ていた。

 ここで謹慎処分を解いてもらわないと、ユキユキとの秘密のバイトができない。

 ユキユキを守るためにも、バイトに参加しないという選択肢はない。


 刑事物のドラマで見るような取調室。

 事務机に事務椅子。

 薄暗い室内に据え置き型の白熱球ライト、部屋の一面は鏡張りで、やはりこれはマジックミラーなんだろうか、と考える。


 前はもう少し明るい部屋で事情聴取していたはずだが、だんだんと扱いが悪くなっているように感じる。


「悪いわね。今日はここしか空いてなかったのよ」


「いえ……」


「じゃあ、最初から聞かせてくれる」


 組木さんは俺を促した。

 俺は大きく息を吸う。

 ひと息で話そうかと思ったが、それは大きな嘆息となって出ていった。

 結果、俺はボソボソと話し始めた。


「……謹慎処分を受けて思ったんです。

 俺は『ヒルコ』だし、色々……その、問題とか起こすし……『リビルダー』に取り憑かれてるし……正直、役立たずなんだろうなって……」


「それは……」


 組木さんの否定の雰囲気を受けて、俺はそれをさらに否定する。


「違うんです。今は考え直しました。

 ただ、組木さんの言う謹慎処分の理由が分かってなかったんです。

 俺はこの世界を守る意味を持っていなかった。

 こう言ったら何ですが、なんとなくヒーローに憧れて、なんとなく流された結果、『デリュージョン・デザイアー』と呼ばれていただけなんです。

 だから、役に立つことをすれば、組木さんに認めてもらえると思って、『リビルダー』を一人で倒せばいいと考えたんです」


「そう……」


 組木さんの気のない返事。

 これだけで、俺の馬鹿さが分かってしまう。


「ベリアルと話し合いました」


「なんて?」


「謹慎処分中は『デリュージョン・デザイアー』として認められていないから、謹慎処分中の契約を新たに結ぼうと持ち掛けられました」


「なんですって! ベリアルと新たな契約……」


「契約は俺に力を貸すことで、ベリアルは魔力を貯めやすいように変異を進めることとして、契約しました」


「今、どれくらいなの?」


「計ってません。俺が役に立つにはベリアルの力が必要だったから、必要な分だけ進んでいると思います」


「日生くん、変異を進めるということがどういうことか、分かって言ってるの?」


「人間じゃなくなるんですよね。魂が視えたり、普通の人が感じられない音や匂いを感じて、身体が異世界の物に置き換わっていく。

 腕が無くなって、足が五本になったり、肉の塊になったり……さすがにそこまで行くのは避けようと思ってますが……見た目は普通ですよね、俺?」


「そうだけど……」


───案ずるな……我はエルヘイブンで最も美しいとされた容姿を持っている。それは人の似姿にすがたとそう変わりはせぬ───


「ええと、美人になれるみたいです。あまり人と変わらないとか……」


「そうベリアルが言っているの?」


「はい」


「……これは、脅したい訳ではないけれど……人の美醜は時代と共に移り変わるものよ……それに『リビルダー』の価値観は私たち人間とは異なる……人の形を保てるのは……良い意味と同時に、変異が分かりづらいという意味でもあるわ。

 此川に一度、侵食率を見てもらった方が良いわね……」


「はい……」


 自分がどれくらい変異してしまっているのかを考えるのは、辛い。

 今までの経験から行くと、二パーセントも違えば、明確に表面に出てきたりする。

 俺の場合、下手をすると、もう人間として残っている部分の方が少ない可能性だってある。

 返事に歯切れが悪くなるのも仕方ない。


「それで、雨糸様を広めた元凶を倒したと聞いたけれど?」


「あ、はい。時村先輩の話とベリアルの話で、おかしいな、と思う部分が出て来て……」


 俺は推理とも言えない思いつきの話をして、そこから『願いを叶えた人』たちが『遠隔操作体(ドローン)』になっている事実と、ベリアルから聞いた『神話・伝説フィルター』の話、そして、ベリアルの知識から出た『セアル』という悪魔の話までを述べた。


「では、ベリアルが言うには、ドローンはその『アマイモン』とかいうリビルダーの言いなりだと?」


「はい。『転生者診断アプリ』を使っても八十パーセントまでいかないんですが、魂が変なんです」


「そうよね……日生くんには視えるのよね……」


 そう言う組木さんの言葉は、なんだか複雑な想いが混じりあっているように感じる。


「ふぅ……それが、日生くんが役に立とうとした

結果、ということかしら?」


「……そうです。

 俺が馬鹿でした。エルパンデモンから来るリビルダーは悪魔と呼ばれていたって知っていたはずなのに……対して考えもせず、契約を結んで……飯岡先輩を殺しかけた……でも、御倉と話して思ったんです。

 自分の選択がどんな形だったとしても、その結果は自分にしか背負えないんだって……。

 まだ組木さんが求めている結果には遠いかもしれませんけど、俺は守りたい人を守るために『妄想(デリュージョン)想士(デザイアー)』にならなきゃいけないって」


「ええ、そうね。今はそれでいいわ。

 でも、覚えておいて。

 貴方が戦う意味は、生きる意味と同じなの。

 それは果てがなく、生きている限り永遠についてくる問題よ。

 常に自分に問い掛け続けるもの、それが責任というの」


「永遠に……」


 そうか、答えを得た気がしたが、ソレは永遠に続くのか。


「まあ、今はいいわ。

 はあ……ダメね。年を取ると、どうにも説教臭くなるわ……」


 組木さんの見た目は二十代前半。

 実は見た目よりも……と考えていたら、組木さんに睨まれた。


「まだ、これでも二十五よ。

 文句ある?」


「い、いいえ……」


 たしか『想波(カムナ)』とは『葛藤(カムナ)』だと聞いたはず。

 常に考え続けるモノか。

 先は長そうだと思った。


「それにしても『神話・伝説フィルター』か……。

 私たちは知らないことが多すぎるわね。

 ベリアルはこちらの世界にも精通しているようだし、なるべく報告はこまめにね」


「はい……」


 俺の微妙な返事にも関わらず、組木さんは少しだけ微笑んで、息を吸った。


「それじゃあ、今、現時刻をもって、日生想士の謹慎処分を解きます。

 春日部隊長も心配していたわよ。

 挨拶くらいはして行きなさいね」


 これで事情聴取は終わりということだった。

 俺は、組木さんに言われた通り、春日部隊長に挨拶に行き、ついでに外林ほかばやし研究員に新作のカムナブレス弐式のお礼を言ってから、ユキユキとの秘密のバイトのために『TS研究所』を後にするのだった。



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