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あやす、みゃーこ先生 69


 『セアル』に取り憑かれていた三年生を保健室へ運ぶ。


「あ〜、満月くんじゃん。どうしたの?」


 真名森先生が友達のように聞いて来る。

 真名森先生にも、今回の俺の謹慎処分の話は行っているはずにも関わらず、やはり態度は普通だ。


「ええと……」


「あ、まずはベッドの用意だね!

 保健室にはシングルしかないけどいいかな?」


 俺が抱き抱える三年生の女子を見て、真名森先生は冗談か本気か分からないトーンで聞いて来る。


「良いも何も、俺は問題ないですから!」


「ふーん……まあ、とりあえずここに寝かせてあげて……」


 言われるがままに、三年生をベッドに寝かせる。

 真名森先生は三年生のことを調べながら聞いた。


「まだ全員と仲良くなってないから、この子のこと知らないんだよね。

 ……それで、何ちゃんなのかな?」


 真名森先生は一年生である俺たちより後に学校に来ている。

 普段から保健室を利用する生徒ならともかく、そうでない生徒は知らなくて当たり前だった。


「えっと……分かりません……」


 幸い保健室の中は他に誰もいない。

 謹慎処分の身だから、罪を自白することにする。


「実は……リビルダーに取り憑かれていた人で……」


「えっ!?

 ……うーん、そっか。そうなっていたってことは、中身は?」


 真名森先生は少し中身をぼかして聞いてくる。

 俺が謹慎処分中なのと、いつ誰が入って来るか分からないことへの配慮だろうか。


「もう、抜けてます」


 そう言うと真名森先生はもう一度、驚いた顔をする。


「……え、ええ、ということは、もしかして満月くんが?」


 俺は頷いた。


「ええっ! そ、それは確かにあっちの白満月くんなら、イケるだろうけど……今、満月くんって、ほら、アレでしょう?

 大丈夫なのかな?」


 真名森先生は、俺の中の『ベリアル』を『白満月(しろみづき)』と呼んでいるようだ。


「分かりません。でも……少なくとも俺がお荷物じゃないという証明にはなったと思います」


 俺はきっぱりと言った。

 すると、真名森先生はぐい、と俺に顔を寄せる。

 ち、近い……。ちらり、と真名森先生の瞳を見ると、途端にその大きな瞳に吸い込まれそうになる。

 俺は自制心をフル動員して、なんとかソレに耐える。


「……もしかして、組木さんから、またセクハラ問題とかでいぢめられた?」


「いぢ……いえ、そういう訳じゃ……」


「ちょっと、そこに座って、みゃーこちゃんとお話しましょ!」


 真名森先生はそう言うと、俺を処置用の丸椅子に座らせる。

 それからPCを立ち上げて、何やら作業した後、画面を俺に見せた。

 それは、たぶん教員用の生徒ファイルか何かで、そこには今、ベッドで寝ている三年生の情報が載っていた。


「彼女は飯岡里穂いいおかりほ。三年C組、部活なし。二週間前から不登校ね。

 うーん……彼女はどっち?」


 秘密のバイトか、雨糸様かを聞いているのだろう。


「雨糸様の発信元ですね」


「一人で見つけたの?」


「ええ、まあ……」


「随分、無茶したんじゃない?」


「いえ……」


「あーあ、せっかく満月くんに負担をかけないようにって、みんなでなるべく普段通りに接しようって決めてたのに……何が辛かったの?」


 その言葉を聞いた途端、俺は自分の勘違いにようやく気付くのだった。

 俺が迷惑ばかりで役にたたないから、居ても居なくても同じだから亜厂や真名森先生の態度が変わらなかったのではなく、俺が謹慎処分を受けた理由が分からなかったため、これ以上、俺の負担を増やさないようにと、わざと普段通りに接してくれていたのだ。


 自分の馬鹿さ加減にようやく気付いた。


「たぶん……自覚のなさ、ですかね……」


「そっかあ……組木さんは満月くんに、早く大人になって欲しいんだね……でもそれって、裏を返せば、それだけ満月くんに期待してるってことだよね……」


「そう、なんですかね……」


「満月くんって、まだ高校一年生だもんね。

 みゃーこちゃんは、もう少し悩む時間をあげたいところだけど……組木さんにも立場があるから、そう言わざるを得ないんだろうね……」


「俺……」


 真名森先生なら、俺のことを分かってくれるかもしれない。

 一瞬、そんなことを考えたが、俺自身が『再構築者(リビルダー)』に取り憑かれている事実は、余りに重い。

 それは、今まで積み重ねてきた嘘を全て告白する行為だからだ。


 真名森先生が言うところの『白満月』は、実はエルパンデモンの『ベリアル』であり、俺には『欲望(デザイア)』が使えず、『ヒルコ』という事実を奇跡的に覆した男というレッテルが消える。

 亜厂も此川さんも、きっと幻滅するだろう。

 好きだと言ってくれた事実も、消滅してしまうかもしれない。


 俺は言葉を呑み込んだ。


 言えなかった。


 真名森先生は、そんな俺の頭を、子供をあやす様に優しく撫でた。


「辛かったら、言わなくていいよ」


「俺は……う、ぐぅっ……」


「大丈夫、大丈夫。みんな待ってるからね!」


 俺は泣いた。

 何も言えないまま、真名森先生に頭を撫でられながら、泣くのだった。



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