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釣るベリアル 67


 時村先輩の魂が俺の方を振り向いた。

 本体が見る前に、俺は時村先輩を視るのをやめ、歩き出す。

 時村先輩は『再構築者(リビルダー)』ではなく、『遠隔操作体(ドローン)』だ。

 その魂の本質は、今視たように、すでに変質してしまっている。


 時村先輩は「望みが叶った」と言っていたが、あの飢えた表情の魂を視る限り、とても満足しているようには思えない。

 『遠隔操作体(ドローン)』になったことで、言わされているだけなのかもしれない。


 だとしたら、円の中央に立つ願いを叶えたい人間というのは、ただの生贄、もしくは『遠隔操作体(ドローン)』のための体に過ぎない。


 では、『雨糸様(あめいとさま)願誓盤(がんせいばん)』という儀式は、ただただ『雨糸様』の『遠隔操作体(ドローン)』を作る儀式だということになる。


「なあ、『雨糸様の願誓盤』って、本当は七芒星じゃなくて、六芒星って可能性はないか?」


 エルヘイブンの自称天使たちが、人間と並び立つことが有り得ないのならば、この儀式は七人で完成しているように思える。

 だから、異世界の知識に精通しているベリアルに聞いてみる。


───六芒星……それは我らエルパンデモンのやり方だな。

 もしそうだとすると……なるほど、いたな。

 『狂おしいほどの熱望』を好物とするヤツが───


「狂おしいほどの熱望……つまり、願いを叶えたくてしょうがない人間……」


 なんとなく繋がった気がする。


───名を『アマイモン』という───


 近い。『雨糸様』と『アマイモン』。

 正確な発音は分からないが、似ていると言っていいと思う。


───儀式は角度を定めて、延々と回るものだったな。それならば、疲れて角度が乱れることもあろう。

 自然と自分の位置を確かめるべく対角線の相手を求めたりな……。

 そうして、六芒星ができた瞬間ならば、小さなエネルギースポットができる。

 そして、そのエネルギースポットの中心には、自分と相性の合いそうな土くれの魂がある訳か……自らの魂の欠片を投げ込んでやればドローンの完成か。

 くくく……儀式による召喚など古臭くて廃れたかと思っていたが、なるほどどうして、この大祭で魂を集めるには良策かもしれぬ……───


「儀式でエネルギースポットができるのか?」


───生贄は周囲を回る六人であろうな。

 土くれの魂をひとつ丸ごと使う方が効率はいいが、テラの戦士に嗅ぎつけられやすい。

 六人から少しずつ集めているはずだ。

 土くれの魂は脆いが、一時的に衰弱する程度だろうよ。

 その程度の穴でいいのだからな───


「それって、あのバイトの時の穴とどう違うんだ?」


───そうだな……アレは綻びだ。

 簡単には直らぬ。結び直す必要がある。

 それに比べて、儀式で作る穴はひきつれのようなものと考えるといい。

 時と共に塞がる場合がほとんどだ。運が悪ければ綻びになるがな。

 ここの裏山の神社、だったか……アレはもう穴だ。直らぬと思った方がいい───


 異世界との境はボロ布一枚、だったか。

 儀式の穴は、バイトの穴より小さいと考えて良さそうだ。


「ただ困ったな……」


 極小の穴で塞がる可能性が高いというのは朗報だが、時村先輩ほど変異が進んでいたら、大元の『再構築者(リビルダー)』に辿り着きたくても、話してくれない可能性が高い。

 つまり、今の調査方法が間違っていることが確定してしまった。


 今の調査方法は、儀式に成功した人を辿って、大元の『再構築者(リビルダー)』を探すというものだ。

 俺たちの考えでは、儀式の最初の発信者こそが『再構築者(リビルダー)』であるというものだ。

 おそらくは推定『大物悪魔』の子飼いの部下だというのは、ベリアルの言動からの予想だ。


 こうなると、儀式に失敗した人を細かく当たるくらいしか、大元に辿り着く方法が分からない。


「どうやって探したらいいか……」


───おそらくは運び屋……セアルの系譜か……望みを叶えるというというのも、あやつらの特性に近い。

 ふむ……セアルの系譜であれば、ひとつ使えそうな手があるぞ───


 俺は詳しく話を聞くのだった。




 神話・伝説というのはある種、この世界を護るための結界であり、異世界から来る神や悪魔・天使の名を冠する者たちにその特性を濃くするフィルターの役割があるらしい。


 つまり、例えばベリアルであれば、異世界に居る間はここまで無意味、無価値に対して執着することはなく、好みはするが、つい笑い声が漏れるほどの執着はないというのだ。


 まあ、これは嘘だろう。

 コイツは絶対、異世界でも変わらず同じような調子だろうと思う。


 まあ、それはそれとして、俺たちの世界と異世界との隔たり、ボロ布一枚には神話的フィルターの役割があるのだと言う。

 こちらの世界で『再構築者(リビルダー)』がやったことが神話・伝説となり、次に来訪した時にそのフィルターによって、ある程度の行動が制限される。

 自縄自縛の罠という側面があるらしい。


 そんな説明の元、俺は裏山で穴を掘っていた。

 誰にも見つからないように、こそこそと辺りを注意しながら穴を掘る。

 五十センチメートル。

 まだ足りない。

 コレを隠そうとするなら、もっと深い方がいい。

 一メートル。

 せめてこれくらいは必要だろう。

 ジェラルミンケースを慎重に降ろす。


 ベリアルの予想が正しければ、宝の在処を知るために、ヤツは現れる。

 それが神話的強制力によって課せられたヤツの使命だからだ。

 相手を予想した上での、一本釣り。


 俺の鼻がその匂いを認識した。

 耳には羽音が残る。


───さて、代わろうか───


 俺の髪が白く変化していく。


「こちらの世界の神話、伝説はなるべくチェックするようにしているのだ。

 このように誰かの動きを無駄にできるかもしれないからな」


 俺の視線が一際大きな栗の木の上を捉える。

 そこには、翼の生えた馬に乗る中性的な顔立ちの女子生徒が居た。

 制服からして三年生なのは分かる。

 しかし、その翼の生えた馬は異様なことに、女子生徒の腰辺りから生えていた。


「くっ……急に匂いが……」


 ベリアルの予想通り、相手がセアルという悪魔なのだとしたら、セアルは宝の隠し場所を教えてくれる悪魔としての特性を持っている。

 つまり、宝を隠そうとすると、どこからか嗅ぎつけて、それを見に来るのだ。


「くくくっ……やはり釣れたか」


 俺は笑った。


「貴様……大祭参加者は互いに傷つけ合わないのが、不文律だぞ……」


 セアルが俺に向けて言う。

 たしか、悪魔同士は特定の匂いで分かるはずなのだが、普段の俺は匂わず、ベリアルと身体の主導権を代わった時にソレは出てくるものらしい。


「しかも、分かるのだな……貴様程度では我に歯が立たないということを……」


「息巻いたところでこのセアルに貴様は近づくことすらできん!

 ほざいていろ!」


「よせよせ、安い挑発は高くつくぞ、このようにな!」


 俺の指先は、セアルを見つけた瞬間から細かく動いて、空中に紋様を描いていた。

 そして、それは完成する。


 途端、セアルの周囲にいくつもの魔法陣が浮かび上がる。

 セアルは馬の翼を大きく動かして、移動しようとした。


「なっ……風が……」


「……動かないか?

 今の我には魔力が貴重でな。

 風を翔ける運び屋程度でも、小細工をせねばならん。

 そのまま落ちるがいい」


 俺の宣言通り、セアルが落ちてくる。


「ははは、貴様の魔力をもらおうか!」


 獣の如き疾走をして、俺は落ちたセアルの背に乗って、その馬から生える翼に手を掛けた。


 ぶちぶちぶち……!


 一瞬で、力任せに翼をいだ。


「や、やめ……ぎゃあああっ!」


 分かる。相手の戦意を喪失させ、封印を受け入れさせるには、ある一定以上のダメージを負わせなければならない。

 正直、見ていてこうも一方的だと、少々思うところがなくもないが、地球を守るという使命のためだ。

 仕方がないと自分に言い聞かせる。


 俺が相手の背中に自分の腕をぶち込んだ。


 ぞぶり、と俺の腕がセアルの体内に埋まる。


「ぐぷっ……な、にを……」


「言ったはずだ。魔力を貰うと」


 セアルの体内の熱が俺に伝わってくる。

 熱い。

 その熱は俺の腕を伝わって、俺の身体に火を着ける。


───おい、ベリアル、何を……───


「くくく……魔力を奪っている。

 生贄でもなく、大量の食事でもない。

 これならば問題なかろう」


 セアルの腰から生えた馬が悲痛にいなないて、痩せ細り、身体に吸収されていく。

 そして次にセアル本人にも影響が出ていく。

 腕がしわくちゃの老人のようになり、足も枯れ木のように……中性的で端正な顔も、身体も、次第に精気を吸われているようにしわだらけになっていく。


───おい、殺すな!───


 俺は俺に叫んだ。


「残念だな。それは契約に含まれていない!」


 俺はそう言うとセアルの熱の最後の一滴までを吸い上げた。

 木乃伊のようになった三年生が腕から、べちゃりと落ちた。


───なんで……───


「特約中の日生満月はデリュージョン・デザイナーではない。

 故に我が持てる力の全てで力を貸してやったまでのこと。

 テラの戦士としての力も証明できた。

 問題はないはずだが?」


 ……俺はこの日、はじめて責任の重さを知った。

 組木さんから言われていたはずなのだ。

 俺の責任は、俺にしか取れないと。


 無計画にベリアルと謹慎中の特約として新たな契約を結んだ結末だった。



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