諭す組木麟《くみきりん》 65
翌日曜日。
学校で調査を進めるはずの俺は、『TS研究所』で組木さんに事情聴取を受けていた。
俺は勝手にベリアルとの融合を進めた。
そのことで怒られるかと思っていたが、組木さんは小さく嘆息しただけだった。
「……つまり、今の日生くんならパワースポットが探知できるのね。小さなものでも……」
「はい。鈴みたいな音は特徴的なので、分かると思います!」
俺は融合を進めたことによる有用性を必死に訴えた。
「……そう」
あれ? 返事が芳しくない。
「ちゃんと訓練すれば、転生者診断アプリに頼らずに転生者の識別もできると思います!」
「……そう」
こちらも返答が薄い。
「ベリアルも協力的で、俺が死にそうになれば、魔法で回復を……」
ばんっ!
組木さんが机を手の平で打った。
「日生くん。当分の間、貴方を謹慎処分にします。リビルダーに関わらないように!」
俺は困惑した。
「や、役に立てます!
たしかに『欲望』は使えませんが、亜厂や此川さんの『想波』と俺の『想波』が混ざると爆発的に威力が増すことも分かったし、カムナブレスを使えば、『欲望』がなくても戦えます!」
「はぁっ……違うわ……問題は貴方の心の有り様なのよ……」
「戦闘訓練もちゃんとやってます。
もう少し頑張れば、ちゃんと……」
「違うのよ。
いい、日生くん。ウチに自殺志願者はいらないの。
役に立ったとしても、意味はないわ……」
「お、俺は別に自殺しようなんて……」
「同じよ。生きる意味も戦う意味も持たないのなら、迷惑な味方なの」
「はっ? いきなり何を……」
「なら聞くわ。
何故、戦うの?」
「それは選ばれたから……そもそも拒否権はなかったじゃないですか!」
「将来の夢は?」
「まだ、そんなの分かりません」
「好き娘はいる?」
「……そ、それってセクハラじゃないんですか?」
「任務の中で、もし死んでしまうとしたらどう思う?」
「元々、命懸けの仕事ですよね」
組木さんは机の上で組んでいた手を離して、ぐったりとしたように椅子にもたれかかった。
「最初から危ういな、とは思ったのよ……。
でも、『想波』を持つ人間は貴重で、国の方針からも、デリュージョン・デザイアーにするしかない。
日生くん。貴方は聞き分けが良過ぎるの。
命懸けの仕事なのよ。しかも、強制の……」
「ヒーローになりたかったんですよ……。
バカなガキの妄言かもしれないですけど、そういう夢があってもいいでしょう?」
「本当にヒーローになりたかった?
将来の夢を聞いた時は、分からないって言ったわよね?」
「そりゃ現実を見たら、ヒーローなんてテレビやゲームの中の存在だってことくらい分かるじゃないですか!」
「でも、ヒーローになる力があったじゃない」
「それは……」
俺は言葉に詰まってしまう。
『欲望』が発現しなかったから?
それは後付けの理由だ。
バカなガキの妄言。それが全てだった。
自分でそう思っていたから、そう言ったのだ。
つまりはただの羨望に過ぎない。
「ベリアルについてもそうよ。
自分が異世界の肉体に置き換えられていく状況で、契約を私に任せたわよね。
なんで?」
「組木さんなら……信頼できると思った、から……」
何故、こうまで責められなければいけないのか、俺には理解できなかった。
どうしてだか、俺の瞳には涙が溢れて来た。
「分からないのね……」
「なんで……俺は、言われた通りに、し、しただけなのにっ……」
「それが問題なのよ。
いい。貴方は誰かの決めた道を歩いているだけよ。
それが崖に向かっていようが、海の底だろうが、考えていない。
良く考えなさい。
貴方の決定権は貴方にあるの。
流されるな、という話じゃなくて、貴方の道の責任は、貴方にしか取れないのよ……。
それが分かるまでは、ただの学生でいなさい」
俺は逃げ出した。
意味が分からなくて、どうしようもなくなって逃げた。
その日は一日、家でぼーっとしていた。




