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春日部隊長に頼る日生満月 64


 駅前に黒塗りのバンが停る。


「すいません、確証がないまま協力していただいて……」


「遠慮するな、日生想士。

 訳の分からん相手だ。訳の分からんことくらいするだろうさ。

 それに怪しいのは確かだしな」


 春日部隊長が首を捻る。


 俺はバイト前に、春日部隊長に協力をお願いしていた。


 黒塗りバンの中に無線が響く。


『───隊長、例のブツを確保しました〜!』


「よし、他の班と合流して、山を降りろ」


『───了解しました〜!』


 黒塗りバンが動き出す。


「……そういえば、外林ほかばやし研究員から、コレを渡すように言われていた。

 詳しくは分からないが、カムナブレス弐式だそうだ」


 春日部隊長が取り出したのはアタッシュケースだ。


「外林さんから……」


 アタッシュケースを開ければ、少しゴツさがマシになったカムナブレスが入っていた。

 弐式にしきということは新バージョンということか。


 説明書も何もない。

 まあ、基本は同じだろう。

 今度、外林さんにお礼を言わねば。


 俺がカムナブレス弐式を眺めていると、車は予定位置に着いたらしい。

 ドアを開けて、一人の隊員が入ってくる。

 先ほどの無線の相手、岸井隊員だ。


 岸井隊員は箱型ケースを俺たちの前に出した。


「他ふたつは先に研究所に持って行きました〜!」


「うむ、見せてみろ」


 箱型ケースを開ければ、中には俺がバイトで置いてきた乳白色のつぶつぶボールが入っている。


「ごほんっ……なんとも言えず、嫌悪感があるな……」


 春日部隊長からしても、やはり湧き上がる嫌悪感は抑えられないらしい。


 俺は脳内でベリアルに話し掛ける。

 今回も直接『再構築者(リビルダー)』が関わっていないからと、高みの見物を決め込んでいる。


───おい、感覚をくれ───


───切れと言ったり、くれと言ったり、相変わらず自分本位なことだ───


 ベリアルは文句を言いながらも感覚を入れてくれる。


 ツン、と鼻に刺激臭が当たる。

 耳には鈴の音を長く長く引き伸ばしたような音が微かに響いていた。

 そして、目にはつぶつぶボールが二重写しに視えていた。


「生きてる?」


───くっ……この耐え難い匂いは……糞便に集るクソ虫の魔力か!───


 二重写しは魂の脈動だ。だとすると、このつぶつぶボールには魂があることになる。

 そして、ベリアルの言動からすると、思い当たる悪魔の名前が浮かぶ。


「ベルゼブブ……」


「何っ!? まさか例の日生想士の中のリビルダーか?」


───ふん……考えたものだ……そうだ、これは恐らくベルゼブブの仕業だろうよ。金をばら撒くのも、いかにも奴がやりそうな下衆の計画だな───


 やはり、そうらしい。

 だが、そうなるとこのつぶつぶボールは……やはり、ゲームなどでも良く語られるように、ベルゼブブと言ったらハエだろうか。


 俺はベリアルと話す。


───なあ、これってやっぱり、蝿なのか?───


───奴が眷族化した、その卵だろうな。

 この異世界と響き合う音は分かるか?───


───リィィィィィーって鳴ってる?───


───ああ、これは近くに異世界と繋がりやすい穴がある証拠だ。

 おそらく、この音からすれば、転生する魂が通れるほどの大きさはなく、しかし、エネルギーが少し漏れ出る程度であろうよ。

 つまり、あの糞便好きは生み出したきんを与えて土くれの魂を操り、おのれの眷族をエネルギーの近くに置いて、自らは学校に居なくても変異を進められるだけのエネルギーを得られる状況を構築しているのだ……浅ましいことにな……───


───ちょ、待ってくれ!

 つまり、学校の裏山にある神社だけじゃなくて、エネルギーを得られる場所がある?───


───当然であろうよ。だから、TS研究所に支部があるのだろう。

 異世界とこの世界の繋がりはボロ布一枚で隔てられているようなものだ。

 大きな綻びがあれば、小さな綻びだってある───


 それは大きな問題だった。

 俺は口を開く。


「春日部隊長。この山にも微弱なエネルギースポットがあるみたいです」


「なんだと!?

 おい、研究所に連絡、解析班を呼べ!

 この近辺にエネルギースポットがあるかどうか調べるんだ!」


「はいっ!」


 運転席の隊員が慌てて『TS研究所』に連絡を取った。


「それから、このボール……どうやら『再構築者(リビルダー)』の眷族になった蝿の卵みたいです……」


「ううむ……羽化して本体にエネルギーを送る役割といったところか……くそっ……」


 春日部隊長はすぐにその役割に気付いたようだった。


「隊長、コイツが卵で、どれくらいで羽化するか知りませんが……もしそうだとしたら、かなりヤバいんじゃないですか?」


 岸井隊員が押さえつけるように言った。


「分かっとる。そのバイトとやらは既に何度か行われた後だ……どうにか場所を知りたい。

 できるか?」


 春日部隊長が俺を見る。

 できる、できないではなく、やらなければならないだろう。

 ユキユキに聞いて、すんなり教えてもらえるだろうか。

 少し難しい気もする。


 今日は『転生者診断アプリ』を使えるような状況じゃなかったが、やはり尾野田先生は怪しい。

 早めに写真を撮るという仕事もある。


 もどかしい。


 俺は掌に拳を打ちつけて、どうするか考えるのだった。



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