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綺麗なモノほど壊したくなる日生満月 60


 亜厂と御倉、真名森先生は別行動で、此川さんと二人、雨糸様あめいとさま願誓盤がんせいばんで利益を得た人を当たることになった。


「ええと……一人目が三ーAの時村悠里ときむらゆうりさん。

 最近だと一番最後に願いを叶える予兆が出たって人で、料理部所属やから、家庭科室にいるはずやわ」


「願いってなんだったんだろうな……」


 当然の疑問だが、此川さんは首を振った。


「それがな……他人に言ったらアカンのやって。

 まあ、ありがちやけどな」


「倒れたら予兆が出たってことだよな。

 だから、願いを言う必要はないってことか……」




 時村先輩は静かに微笑んだ。


「そうね。私の願いは叶ったわ……」


 不思議な雰囲気の先輩だった。

 そこに居るだけで光を感じるというか、妙にカリスマ性を感じる。


「わぁ、やっぱり!

 あの……詳しいやり方をお聞きしてもええですかね?」


「ええ、もちろん。

 ノートにまとめてあるから、それを持ってくるわ。

 待ってる間、良ければ食べていって。

 キッシュが美味しく焼けたのよ」


「わぁー、ありがとうございますー!

 あ、せっかくなんで、写真撮らせて下さい!

 先輩がキッシュを持ってる構図で!」


「ええ、構わないわよ」


 此川さんは上手く『転生者診断アプリ』での撮影に成功する。

 後で見せてもらったが、七十二パーセント。

 数値としては高いが、取り憑かれているとは言えない状態だった。


 その時の俺は初めて見る食い物に興味津々だった。

 なんだか三角カットされたチーズケーキのような物が出される。

 ほかほかと湯気が出ていて、たまごの良い香りが鼻腔をくすぐる。

 フォークを使って食べるものらしいが、食ったことがないものはマナーも分からない。


 中央にフォークをぶっ刺して、ガツガツ行くのが違うだろうということだけは分かるので、ケーキ気分で食す。


「あま……くない。けど、美味い」


 パイ生地で包んだおかずだ。

 たまごとベーコンとナスなんかが入っていて、パイ生地のバターのコクが他の食材を引き立てていた。


「ひなせくん、キッシュは初めて?」


「親は基本、仕事で、家にいる時も凝った料理とかしないしな……こういうオシャレっぽい料理とは無縁だからなぁ」


「そうなんや。キッシュ、気に入ったんなら、今度、焼いてあげてもええよ!」


「マジで! ……あの、ちょっとお願いがあるんだけどさ。こういうの両手に一個ずつ持って、わしゃわしゃ食ってみたいとか言ったら、怒る?」


「ふふっ、なんやの、その夢……もう、かわええなぁ……」


 此川さんが笑う。


「いや、ウチって放任主義の割りに、汚い食い方するな、とか、そういうとこだけ厳しかったからさ……」


「それじゃあ、いっぱい焼いて来てあげるね!」


「おお、ありがとう!」


 そんな話をしていると、時村先輩がノートを手に戻って来る。


「お待たせしたわね。はい、ノート」


「わぁ、ありがとうございます!」


 此川さんが受け取ったノートをパラパラとめくる。


「雨糸様は正しく揃った形がお好きなの。

 上手くいけば、必ず降臨なされるわ。

 ところで、どっちがお願いをするの?」


 時村先輩が俺たちを見て聞いた。


「あ、わ、わたし……です」


 此川さんが小さく手を挙げた。

 すると、時村さんは満足そうに頷く。


「そう……きっとお喜びになられるわ」


 話を聞く限りでは、『コックリさん』みたいだな、と思った。

 俺は此川さんからノートを借りて、それを見ていた。

 書かれているのは、最初に此川さんが説明してくれたことが全てと言っていい。

 ただ、そうなると時村先輩の言葉と矛盾するような気がする。


「あの……これ、八人じゃダメなんですか?」


 円を六人で囲み、その中心に願いがある者が立つ。

 しかし、円は七等分するのだ。


「ええ、空いている一席が雨糸様の席ですもの」


「ああ、だから……」


 此川さんは納得しているが、だとしたら円の中の願いを持った者というのは何なのだろう?

 雨糸様が円の中心に立つなら分かるが、これではまるで、雨糸様が他の六人と同列ということになってしまわないだろうか。

 特別な存在を特別な位置に置くのではなく、人と同じ位置に置いてしまって良いのだろうか?

 だが、疑問を口に出すまでもなく、時村先輩は他の後輩に呼ばれてしまう。

 料理部として、後輩を先導する立場なので、これで、と言われてしまえば、それ以上は何も言えず、俺たちは「ご馳走様」を言って、その場を後にするしかなかった。


 次に会った女子テニス部の羽田先輩、その次に会った図書委員の斎藤先輩と俺の疑問は深まっていった。


 羽田先輩も斎藤先輩も、最初の時村先輩に似た圧倒的なカリスマ性を持っていて、似た雰囲気をしていた。

 そして、同じような質問をしてくる。


「「どっちが願いを叶えたいの?」」


 なぜだろう。此川さんだと言うと、満足そうに頷かれるのだ。

 俺でも同じ反応をしてくれるんだろうか。


 結局、人と同列に立とうとする雨糸様の謎や、特別な位置に置かれる願いを叶えたい人たちの意味、何故か似た雰囲気を纏う予兆を得た人たちなど、疑問は膨らむものの、答えを得ることなくこの日の捜査は終わってしまったのだった。


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