どうしようもない、僕ら 58
昼休み。
話さなければならないことはふたつある。
ひとつめが、ユキユキのバイトによって人が変わってしまった事例は『再構築者』によるものかを調べたい、という話と、もうひとつは俺が三人とのくちづけを介した儀式をどう考えているのかだ。
ひとつめの話をした結果、すぐに調査が決定した。
前例として、イミエルに取り憑かれた天田能斗が日本史教師、殿田を操っていた件があったからだ。
ある特定の『再構築者』は、裏でコソコソと動く。
正直、厄介、極まりない。
ただ、今回の場合、裏で動くバスケ部顧問、尾野田が見え隠れしている。
秘密のバイトの理由も突き止めたいところだが、分かるなら早く対処したい。
ユキユキが心配だ。
そして、ふたつめ。
こちらは、なんと言うか、俺の心の問題だ。
しかも、未だに答えがないままに話そうとしている。
バスケ部の話をした後、動き出そうとする皆を呼び止める。
「もうひとつ、話があるんだ!」
亜厂、御倉、此川さんと三人がこちらを振り向く。
「例の……皆と繋がるやつの件で……」
三人の視線が痛い。いや、痛く感じる。
「ええと……私らは気にしてへんよ……」
此川さんが言う。
それに追随するように亜厂も頷いた。
「うん。あのね……満月くんがTS研究所に行ってる間に、私たちも話し合いがあって……組木さんからは自分を大事になさいって言われたけど……私たちは自分を大事にした結果、満月くんとしたいって思った訳だし……あ、ええと、変な意味じゃなくて……あ、ううん……変な意味も含まれてるか……」
変な意味も?
つい、健全な男子として追及したくなるが、それを遮るように御倉が亜厂を一歩、下がらせた。
「ちょ……亜厂。
とにかくさ。繋がるのって、意外と悪い気はしないんだよね。
みんなとひとつになれるっていうかさ……。
日生さんだけじゃないんだよ。
日生さんを通して、亜厂や此川とも繋がって……二人が日生さんを好きな気持ちとか、なんとなく理解できるっていうかさ……」
それは初耳だった。
「いや、待ってくれ。
それじゃあ、俺を通して三人は意思疎通ができるってことなのか?」
「ん〜、ハッキリと言葉が聞こえるってのとは違うねんけど……大まかな感情の波とやりたいことが伝わってくるって感じやねんな……」
此川さんが補足してくれる。
「俺には伝わって来ないんだけど……?」
「それは分からへんなぁ。私らにもひなせくんのソレは伝わってこぉへんし……」
「満月くんを中心にすると、私たちってもっと強くなれる気がするよね!」
亜厂が拳を握りしめる。
「その……気持ち的には、どうなんだ?
自分で言うのもなんだけど……此川さんや亜厂は、こんな俺に好きって言ってくれた訳だし……浮気、とか……」
自分で言っていて、格好悪いと思う。
でも、三人の言葉を聞かずにはいられなかった。
「まだ、付き合ってないやん」
「うん。でも、これ以上は増やしたくないよ」
「……私も。私も恋人候補で考えて欲しい、かな……」
「み、御倉!?」
「琴ちゃんの気持ちも、私たちで確認しあったよ。
満月くんは誰にでも優しいから、みんな好きになっちゃうのは分かるもん。
それで、満月くんがちゃんと考えてくれてることも、分かるし……」
「亜厂……」
考えてみれば、亜厂は隣りの席で俺を見ているのだ。俺が悩んでいるのは感じていたのかもしれない。
「こんな可愛い三人なら、こん中から選ぶしかないやろ?
だから、ひなせくんの心が定まるまでは、三人とも恋人候補ってことにしとこ。なっ!
お願いっ!」
此川さんが俺を拝んだ。
「甘え、だよな……」
俺は、つい、それでもいいかと思ってしまう。三人が三人とも魅力的で、自分の心が決まらないのをいいことに、つい、甘えたくなってしまう。
だが、それを耳聡く聞きつけた御倉が言う。
「ううん。甘えさせてって言ってるの。
どうしようもなくなるまでは、このままがいいって、甘酸っぱい青春の一ページだと思って、私たちを甘えさせて欲しいの……」
「そや、私も、ひなせくんに甘えたいねん!
……ほら、亜厂も」
「あぅ、えっと……ごろにゃーん!」
なんか亜厂だけ違う……。
ただ、俺が何かを言うまでもなく、三人の中で方向性は固まっているようだ。
「……いいんだろうか」
三人が頷いた。
どうしようもない、青春の一ページ。
もう少しだけ、この悩みの渦中で流されようと思った。
優柔不断で申し訳ないけれど、これが自分の青さなんだと、もう少しだけ悩むことにした。
バスケ部顧問の名前間違いを修正しました。
安田→尾野田




