オシャレに目覚めた結城裕貴 57
一週間ぶりの学校だ。
特訓に明け暮れた俺の何が変わったかと言えば、少しだけ自分以外のことを考えるようになったことだろうか。
「よう! 久しぶりだな満月!」
「おう、ユキユキ、おはよう!」
声に振り向けば、ユキユキが立っていた。
「え、なんだその格好……」
ユキユキはどちらかと言えばマジメなタイプで、制服の前を開けてTシャツを見せびらかし、あまつさえなんだか高そうなネックレスをジャラつかせるタイプではなかった。
だが、一週間ぶりに見たユキユキはすっかり変わってしまっていた。
「お、分かる?
このTシャツ、十万。アクセもいいだろ」
「じゅ、じゅうまん!?」
「ああ、ダサい、ダサい……金額じゃねえから。
デザインだから」
いや、最初に金額の話をしたのはユキユキだろう、とツッコミたいのを我慢して、ふと気になったことを聞く。
「例の実入りのいいバイト?」
「ああ。興味あるか?
しばらく人は増やさないって言われているけど、満月なら口聞いてやろうか?」
なんだか、心做しか口調がチャラついて聞こえる。
俺は辺りを気にして、声を潜める。
「……いや、それよりも、そのバイトって大丈夫なのか?」
ほんの十日かそこらで、十万のTシャツがポンと買える仕事……正直、危険な香りしかしない。
「大丈夫? 先生が紹介してくれたバイトだぜ。
まあ、最初は俺もびっくりしたけど、慣れれば問題ないし、体力作りにもなる。
バッチリだろ!」
「体力作り?」
「ああ、バスケットボールくらいのオブジェを指定された場所に置いてくる、宅配業者的な?」
「オブジェ?」
「ああ、いや、言わない方がいいな。
最初は俺もびっくりしたからな。
満月もびっくりするべきだ。うん」
少し悪戯っぽくユキユキは笑う。
どう考えても怪しい。
まるで人が変わってしまったかのような……。
はた、と気付く。
ある日突然、人が変わってしまう要因がある。
『再構築者』だ。
「それで、どうする?」
「バイト?」
「ああ」
「ああ、ちょうど欲しいものがあったんだ。
やりたい、かな……」
「オーケイ、任せとけ。
今晩にでも連絡するよ」
「おう、助かるよ」
「なーに、俺と満月の仲だろ。
んじゃ、また後でな」
「あ、ユキユキ。
せっかくオシャレに目覚めたようだし、写真一枚!」
「おお、俺のかっこよさに気付いてしまったか。いいぜ」
カシャリ。『転生者診断アプリ』の回答は六十二パーセント。
ユキユキに『再構築者』は憑いていない。
たしか、バスケ部顧問は尾野田志波。
ユキユキにバイトを紹介した男だ。
なんとか顧問を写真に撮る方法を考えないとな。
俺はDDの仲間たちに昼休み集まるようメッセージを送るのだった。
バスケ部顧問の名前間違いを修正しました。
安田→尾野田




