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急速変異する中野先生 55


 咄嗟に俺はカムナブレスで顔面を守った。

 カムナブレスは俺でも使える『想波防御(カムナシールド)』の発展版と言えるブレスレット型アイテムで、半透明の盾と槍を作ってくれる。

 ただし、出力の割りにエネルギー効率は悪いのが玉に瑕ではある。


 神気溢れるパワーで俺の顔面を狙い、生命を刈り取ろうとアタックを放つ中野先生だが、ふたつのカムナブレスで十字受けすれば、吹き飛ばされつつも、どうにか上にボールを弾くくらいはできる。

 形としては、レシーブというのも烏滸がましいほどの、グダグダな打ち上げられたボール。


 全力アタックをする中野先生は、ほんの少しだが動きにズレが生じる。


 そこに、三人掛りのアタックだ。

 誰が打つのか、一瞬の迷いが明暗を分ける。


 中野先生は、おそらく中野先生とアルテミス、つまり元の人間の意識と『再構築者(リビルダー)』の間で齟齬が生じている。


 元来、バレーボールで決着をつけたいのは中野先生で、しかし、アルテミスは俺の不埒な行い〈此川さんと亜厂、御倉とのキスが原因なのは言うまでもない〉によって、このバレーボールというルールの中で俺を殺すことに固執している。

 そこが付け目だ。


 俺が死なず、どういう形であれボールを打ち上げ続ける限り、こちらが有利なのは変わらない。


 二十対二十二。


 逆転。だが、ここで中野先生は動かなくなった。

 ただ、集中して、先のタイムアウトと同じく、侵食率を上げているだろうことが分かる。


 もうタイムアウトが取れないことに対する苦肉の策という感じがする。

 例え中野先生が動かなくなったとしても、ゲームは進む。

 『狩りの掟(カノナスキミギ)』はどうやら一方的に中野先生有利という訳ではなく、お互いをある一定のルール下に置くという権能らしい。


 ただ、考えてみると、変なことがある。


 バレーボールのタイムアウトは一回、三十秒。

 それが二回分でも、たったの一分だ。


 たったの一分で、さっきまでただのけだものみたいな動きをしていた中野先生が、カタコトながら言葉を扱えるほどまで成長している。

 これは、ただ事じゃないのではないだろうか。


 たしかに、短時間で侵食率を上げる『再構築者(リビルダー)』はいる。

 ただ、そうなると他の『再構築者(リビルダー)』は何故、時間を掛けて侵食率を上げようとするのか、という問題が出てくる。


 そして、その答えはすぐに出るのだった。


 二十対二十四。


 マッチポイント。連続してもう一点取れれば、俺たちの勝ちだ。


 中野先生が動き出す。

 未だに続く亜厂のサーブを中野先生は軽々と上げた。

 一人トスからの一人アタック。

 ヤバい。首。


 未だに俺の首が危ない。

 しかし、中野先生の身体が卵の殻を割るように、ポロポロと崩れ始めた。


 はじめてのまともなレシーブ。

 『小人の邪妖精(レッドキャップ)』がトスを上げる。

 三人がそれぞれに跳んだ。

 此川さんのアタック。

 中野先生はそれをどうにかレシーブした。


 もう一度、俺の首を狙ったアタック。

 今度は超豪速球だ。

 ギリギリで上げる。

 真名森先生の『小人の邪妖精(レッドキャップ)』は献身的にトスを上げる。

 亜厂がバックアタックする。


 再度、中野先生がレシーブする。

 また、中野先生から小さな殻のような破片が零れた。


───アルテミスめ、自らの魂を傷つけてまで日生満月を殺したいらしい……おそらくは大祭に紛れて、土くれの魂をくすねるつもりだったろうに、なんと無意味な。ふはは……あっはっはっ……なんと心地よい憤怒か!───


 俺の中でベリアルが子気味よく笑う。

 やはり、あれだけ急速に侵食率を高めるには、それなりの代償が必要なようだった。


 ラリーを繰り返しながら、中野先生の身体が崩れていく。


「まずい、中野先生が死んじゃう!」


 亜厂が叫ぶ。

 たしかにそうかもしれない。

 パラパラと少しずつ、だが、確実に中野先生は破片を散らしているのだ。


「殺す、コロす、ころす……我が前で肉欲を晒し、あまつさえ、愚行を繰り返す輩を呪うっ……」


 中野先生のアタック。

 だんだんと精度が落ちて来て、俺の首から逸れていく。


「くっ……落とすかぁっ!」


 逆に取りづらくなったアタックだが、威力は落ちている。

 俺はカムナブレスの盾を大きく展開、どうにか落とさずに済んだ。


 しかし、ヘロヘロと上がったボールは相手のコートへと向かっていく。

 中野先生が跳んだ。ネット際で叩くつもりだ。


「あっ……」


 御倉が小さく呻いた。

 そこに一筋の影が差す。


 『小人の邪妖精(レッドキャップ)』だ。

 『小人の邪妖精(レッドキャップ)』がネット際の攻防に挑んだ。

 その小さな手で、ほんの少しボールを押す。

 中野先生が叩く寸前のことだった。


 ブンッ、と中野先生の腕が振られ、ボールはポトリ、と中野先生側のコートに落ちた。


 俺たちの勝利だった。



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