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顔面レシーブする日生満月 54


 一気に変異を進めた中野先生は、神々しさを纏った獣だった。

 亜厂の、俺の『想波(カムナ)』と混ぜたパワーアップサーブを受けきれなかったはずの中野先生が、パワー負けしなくなった。

 スピードとパワー、さすがに何らかの権能が使われているのだろう。

 トスからのアタック。

 亜厂と御倉のブロックは、多少、コースを限定する役に立つものの、中野先生の打ち分けで簡単に避けられてしまう。


 バシュッ!


 来た! 俺がレシーブに動くまでもなく、ボールは俺の顔面に吸い込まれるように伸びて来た。


 ゴリッ! と俺の首が嫌な音を立てる。

 中野先生のアタックは超豪速球で、俺はまともな反応すら許されない。

 ボールが上がる。

 それはいいが、何故、二度も顔面レシーブになるのか。

 命を刈り取るような一撃だ。


 首周りで、亜厂と此川さんの『想波(カムナ)』が踊る。

 一瞬で治ったものの、おそらく一度、俺の首は折れた。


───貞操の神の逆鱗に触れたか───


 あ……『フリッグの約束』と『生太刀・生弓矢』か。


 『小人の邪妖精(レッドキャップ)』が上がったボールをトスする。


「こんのっ!」


 ズドンッ! と此川さんの渾身のアタックが飛ぶ。

 中野先生は吹き飛ばされた。

 亜厂の精度重視のサーブは受けきれても、此川さんのパワー重視のアタックはまだまだ健在だ。

 これで二十対十六。


 次の亜厂のサーブも、レシーブされ、中野先生のアタックは、やはり俺の命を刈り取りに来た。

 自分の身体の内部から、危険な音を聞くのはいいものじゃない。

 俺の生命で確実にレシーブできるのなら、それはそれでいいのかと思うが、死ぬほどの音は怖い。

 あと、さっきから顔面レシーブするたびに潰れて治る鼻と吹き出る鼻血は以外とシャレにならない。


 二十対十七。


 中野先生が二回目のタイムを取った。

 俺が死なないのがご不満のようだ。


「アイツ、絶対に許さへん!」


「私だって、限界だよ!」


 此川さんと亜厂が気炎を吐いた。

 だが、御倉はそれを冷静に諭す。


「ダメだよ、ほのちゃん!

 このゲームに勝つことが一番大事なんだから、目的を忘れないで!」


「そうだ。ほら、俺は別に死んでない。

 それに、今の状況って逆に狙い目じゃないか?」


 実際、怖さはあるものの、即死さえしなければ、俺の身体は治る。

 此川さんと亜厂なら、絶対に救ってくれるという安心感がある。


 それから、中野先生の狙いが分かっているなら、それを利用できるというのも本当だ。

 俺しか狙わないのならば、俺がきちんとレシーブすれば問題ない。


「俺が絶対にレシーブする前提なら、確実にアタックまで繋げられる。

 どうやらふたつの『想波(カムナ)』を混ぜると、より強力な爆発力を生み出せるみたいだしな。

 アタックは此川さんと亜厂に任せたい」


 俺が提案する。


「急に此川さんのアタックが決まるようになったと思ったけど、なにかカラクリがあるってこと?」


 御倉が俺に向かって首を傾げる。


「ああ、『フリッグの約束』と『生太刀・生弓矢』。

 俺の『想波(カムナ)』は二人に預けている状態なんだ。

 二人の方が俺の『想波(カムナ)』を有効活用できる」


「『想波(カムナ)』を預ける?」


「ああ。俺はその……」


 ここで少し考える。御倉に説明する分には、俺が『ヒルコ』だから『想波(カムナ)』を扱えない前提でも問題ないが、此川さんと亜厂、真名森先生まで聞いている状態で、『ヒルコ』だから『想波(カムナ)』を操れないという説明は使えない。

 俺の『欲望(デザイア)』はベリアルに変身することとしているからだ。


「『想波(カムナ)』を使うのは苦手だ。

 でも、二人と繋がることで、二人に俺の『想波(カムナ)』を預けることはできる。

 それで、此川さんがやったように俺と此川さん、二人の『想波(カムナ)』を混ぜて使えば、普通よりも強力な『想波(カムナ)』になるみたいなんだ。

 使うのは苦手でも、俺の場合、量だけはたっぷりあるって外林ほかばやし研究員からお墨付きももらってるしな」


「なるほどね。つまり、こうすれば良い訳か……」


 言って御倉は、懐から俺の写真を取り出した。


「この写真は私のモノ。私の切り取った空間は私のモノ。自在に操り、自在に動く……」


 途端、俺の両足が動かなくなった。


「お、おい、御倉……足が……」


「ふうん……ほのちゃんと此川の『欲望(デザイア)』が干渉して、私が動かせるのは日生さんの足だけってことになるのか……」


 御倉が探り探り言う。


「ちょっと、琴ちゃん!」


 亜厂が抗議の声を上げた。


「大丈夫、これが勝つための道だから!」


 俺の足が勝手に動いて、御倉の前に立った。

 すると、御倉は俺の両頬を押さえて、少し背伸びするように唇を重ねた。


 少し薄めの唇は、思ったよりも柔らかく、しっとりしていた。


 そうして、俺と御倉は繋がった。


「うーん、技名は『私の王子様(トリスタン)』なんてね!」


「ちょお、御倉!」


「はいはい。そろそろタイムアップだよ、準備して!

 これで中野先生の狙いは、更に日生さんに集中するし、こっちは三人でアタックを打ち分けられる。

 文句は勝ってから聞いたげる!」


 ぞくり、と背筋が寒くなって、中野先生を見た。


 震えるほどの怒りを宿した瞳が俺を射抜く。


「……ふ、不゛逞゛の輩゛め……ご、ごろす……ル、ルルルォォォーッ!」


 より神気をパワーアップさせ、言語能力を獲得した中野先生がそこには立っているのだった。



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