出動する日生満月 52
学校、時刻は夕方六時。夏が近くなり、ようやく陽の出ている時間が伸びて来たが、既に陽は落ちる間近だ。
バスが着く。
「担当箇所ローテーションはB。
各員、保護メガネチェック。ヒュプノライトチェック。ハンドシールドチェック。電磁警棒、バッテリーチェック。安全靴チェック」
春日部班長の掛け声に合わせて、バスの中で最終確認が行われていた。
俺も合わせて、確認をしていく。
初めて持った『瞬間催眠装置』はそれなりに重い。
春日部班長のチェックは続く。
「対一般人用笑顔、チェック。にぃ〜!」
全員で「にぃ〜!」と笑う。
はたから見たら随分とファンキーな絵面だ。
厳つい強面のおっさんたちが……組手になると容赦なく弱点を突いてくるおっさんたちが……少しでも爽やかに見せようと笑う。
「貴様ぁー! それは、にぃ〜ではなく、にちゃあ、だ!
一般人を怯えさせるつもりか!
笑顔チェック不備、帰ってから全隊員チェック行脚だ!」
一人の隊員が怒られていた。
帰ってから、『TS研究所』の全隊員からOKをもらうまで、笑顔で各隊員の部屋を回るらしい。
「文言チェック。
すいません、現在、撮影中なので、回り道をお願いしまーす!」
春日部班長が揉み手をしながら、申し訳なさそうに頭をへこへこ下げる。
「「すいません、現在、撮影中なので、回り道をお願いしまーす!」」
なるほど、日頃の弛まぬ努力はこういう細かい部分にも出るらしい。
こういう大人たちの努力によって、俺たちDDは邪魔されることなく戦えているのだと考えさせられる。
恋や愛について考える時間は、少しずつ国防のために働く大人たちの努力に塗り潰されていく。
いざ、『再構築者』に相対した時、DDではない大人たちは無力だ。
だが、無力ながらも自分たちを高めることを怠らない大人たちは、とてもカッコよく俺の目には映った。
「来い、日生想士」
春日部班長に連れられて、組木さんのところに行く。
組木さんは無線を使い、現場指揮をしている。
「組木キャプテン。
日生想士をお連れしました!」
春日部班長が敬礼して言う。
組木さんは、ひとつ頷いて、俺へと視線をやった。
「日生くん、亜厂たちは総合運動棟、二階、体育館で戦闘に入ったわ。
御蔵のデザイアは室内ではまだ汎用性が低い。
貴方の特別な力に期待します。
行きなさい!」
特別な力、ベリアルのことだろう。
俺は力強く答える。
「はい!」
俺は走り出す。
誰だろうか。まあ、どちらにせよ知り合いが少ないから、聞いたところで分からないというオチだろう。
そう思っていたが、体育館の扉を開けて、俺が見たのは、知っている相手だった。
体育教師の中野だ。
人気はないが、真面目で堅物、依怙贔屓をしないからマシと評される先生だ。
その中野先生が、獣のように這いつくばって、凄いスピードで動いていた。
「ぐがあああああっ!」
───エルパンデモンの匂いがせぬな。
他世界から来たものか───
ベリアルが途端、興味を失ったように言うのだった。




