合宿する春日部班長 51
恋と愛。
俺は悩みながらも、全てを正直に組木さんに説明していた。
吉岡先輩に取り憑いたファルモロスを封印した経緯の説明は必要で、それを説明するためには、此川さんとの『フリッグの約束』、亜厂との『生太刀・生弓矢』の説明は不可欠だからだ。
「……つまり、二人とキスして、二人とも自分に惚れているから問題ないと?」
「問題は……あると思います……」
「そうよねぇ……」
「ただ、もう俺もどうしたらいいのか、分からなくて……」
「はあ……ウチは中学校じゃないから、そういう問題を持ち込まれてもねぇ……」
「すいません……」
「まあ、心のケアも私の仕事の内だから、やるけど……日生くんがねぇ……」
組木さんが車の中で腕組みをして、嘆息する。
意外なんだろう。俺も意外だ。
「もしもよ。もしも、此川も亜厂も納得しているんだとしたら、日生くんの命を守る行為に、ダメとは言えないのよ。
別に日生くんに死ねって言う気はないし、日生くんは国防のために命懸けの仕事をしている訳だしね。
ただ、同じ女として、この状況を利用したセクハラなんだとしたら……」
「いや、そんなセクハラなんて……」
「私が君を殺すわ。社会的に」
俺は思わず息を飲む。
マジだと思ったからだ。
そして、異世界からの国防を担う『TS研究所』の権力を使えば、それは容易なことだ。
『想波』があっても『欲望』が使えず、さらに厄介な『再構築者』に取り憑かれている俺を守る価値は低い。
貴重なエルパンデモンやその他異世界の知識を報告することで、俺の価値も多少は高まったかと思っていたが、別にそんなことは大した事じゃないんだと分かる。
ベリアルが『妄想☆想士』をテラの戦士と呼ぶように、俺たちは戦士であって、兵士なのだ。
半端な力しかない俺は、研究が進んで『想波』の保存方法が分かってしまえば、切り捨ててもいい人材になり下がる。
もしくは、充電器程度の価値になるかもしれない。
つまり、守るべきは『欲望』が使える戦士であって、中途半端な位置にいる俺は、最悪捨ててもいい戦士崩れに過ぎない。
「肝に銘じます……」
「そうね。それがいいと思うわ。
此川と亜厂の話はこれから聞くけど、しばらく日生くんは学校を休んで『TS研究所』に来なさい。
考える時間があった方が良いでしょ。
もちろん、契約の問題があるから、リビルダーを見つけ次第、学校に処理に出ることにはなるけれど……勉強もこっちで教えるから問題ないわ。
そうだ、親御さんに学校の勉強合宿ということで、一週間くらいこっちに来る?
自分を見つめ直して、基本的な訓練を施すにはいい機会よね!」
拒否権はなかった。
ただ、考える時間はたしかに必要だった。
俺は家に帰って、親に勉強合宿の許可を取る。
プリントには『特進科設立のための、希望者を募った勉強合宿について』とあった。
好きにしていいと親は言った。
お前の人生だから、好きにやってみろと送り出された。
翌日、何枚かの下着と寝間着、合宿の準備を整えて、俺は『TS研究所』に行くのだった。
そうして俺を迎えてくれたのは、機動隊・TS専従班、春日部透班長だった。
「よく来たな、日生想士。
今日から貴様は私の班と共に行動してもらう!
組木キャプテンからは、最低限、戦えるように作れと命じられている。覚悟するように!」
筋骨隆々な肉体でポージングしながら春日部班長は、白い歯を見せて笑う。
まさか、この一週間が地獄になるとは、俺はまったく予想していなかったのだった。
最初に持ってきた荷物を全て取り上げられた。
それから、下着からなにから、全てが支給品になった。
いきなり体力作りのランニングが始まる。
しかも、ランニングマシンで低酸素状態での運動だった。
ほんの二十分で倒れた。
いや、逆に言えば、よく保ったと思う。
「はっはっはっ! 一週間しかないからな。
無理は承知、限界を超えてみせてもらおう!」
気絶したら、無理やり起こされて、またランニングだ。
最初は理不尽さに怒りを覚えたが、それどころではない。
怒る体力まで、根こそぎ奪われた。
目から涙を零す余裕もなくなった。
倒れたら化学療法と異世界式特殊療法とやらで起こされ、また走る。
最初の三日は、延々と走らされた。
何かを考える余裕もない。
四日目、他の機動隊員と千本組手をやらされた。
動きの基礎も何も教わらずに、いきなり実戦練習だった。
観て盗め、と言われた。
他の隊員たちから、一撃と同時にアドバイスをもらう。
たしかにアドバイスは大事だが、身体の動きは言葉より観て学ぶものが多かった。
合間に何度かベリアルによって回復させられた。
もう吐く物は無いというほど吐いた。
新たに二体、『再構築者』の侵入が感知された。
これで、四体になった。やきもきする。
五日目も千本組手。
しかし、途中で中断。『再構築者』発見の一報が入る。
「全員、鎮圧装備で乗車ー!」
春日部班長の号令で一斉に動き出す。
黒いプロテクターに黒いヘルメット、カムナブレスを着けて、バスに乗る。
遅い、と怒られる。
気力も体力も空だ。しかし、反抗する気も起きない。
バスが発車する。
通い慣れた通学路を見る。
なんだか、ほんの五日前がものすごく遠い日のように感じる。
「着いたら、日生想士は私に着いて動くように」
春日部班長に言われ、俺は無言で頷くのだった。




