ファルモロス吉岡 49
予約ミスったー!
すいません。遅くなりましたm(_ _)m
「はははっ、土くれの命は脆いなぁ……魔術めいた力で我らの真似をしようと足掻いているが、生来の脆さがその足を引っ張っている。
さあ、次に落ちたいのはどっちだ?」
吉岡先輩が格闘系漫画みたいな、肥大した筋肉ダルマのような姿で笑う。
「勝ち誇るのは、私の『北風の竜巻』を打ち破ってからにしなさい!」
御倉が操る竜巻に更なる『想波』を込める。
吉岡先輩は竜巻に閉じ込められているのだ。
しかし、それまで吉岡先輩を傷つけていたカマイタチは、今では吉岡先輩の筋肉を裂くことはできなくなっている。
吉岡先輩の超再生が鋼のような筋肉を生み出したのだろう。
少しずつ足元を凍らせているが、それだけだ。
「打ち破る? 馬鹿を言うな。
超再生で生まれた熱を冷ますのにちょうどいい。もう少し続けてくれ」
「こんのぉ……北風よ、荒れ狂え!」
「はははははっ……さらにパワーアップしろとでも言うつもりか?
それならば、下に投げ落とすまでもなく、拳ひとつで汚い雑巾みたいに潰してしまうか」
吉岡先輩は力を誇るように笑う。
「くっ……ひなせくんのカムナ、使わせてもらうで……貫け! 『彫刻刀槍』!」
此川さんが『彫刻刀槍』を投げる。
俺の『想波』は此川さんや亜厂に有効利用してもらうためにある。望むところだった。
『彫刻刀槍』に書かれた此川さんの名前が赤く光る。
投擲と同時に、ギャウッ! と空気を切り裂く音がして、ソレは吉岡先輩を貫かんと迫る。
「パワー、スピード、共に充分。
当たればだがな!」
吉岡先輩が『彫刻刀槍』を掴み止める。
握力という牢獄に捕まった『彫刻刀槍』は、絞首台を前にした死刑囚のように微動だにしなくなってしまった。
膠着状態だ。
俺は亜厂を抱えたまま、屋上入口に立つと高らかに宣言した。
「騎兵隊の到着だ!」
「それ、ひなせくん馬やんか!」
此川さんからありがたいツッコミをいただいて、俺は亜厂を降ろした。
それはそうとして、俺には隠し球がある。ここに来るまでで脳内会議は終わっている。
吉岡先輩に取り憑く『再構築者』はファルモロスかそれに連なる者、こいつらは医術魔法と呼ばれるものを使うらしい。
ゲーム的な解釈で言うと、バフ・デバフ魔法だろうか。
怖いのは、半端な攻撃でどんどんパワーアップされること。
これは、現時点で既にどうにもならない領域な気がする。
しかし、ベリアル曰く、近付かなければどうとでもなる、とのことだった。
到着した時点で、吉岡先輩にそもそも近付けないことが分かる。
吉岡先輩は余裕で御倉の『北風の竜巻』を浴びて涼んでいるが、あの中は暴風とカマイタチと冷気の渦だ。
───余裕そうに見えるか?
過度の超再生は高温の発熱を伴う。
奴は出て来ないのではなく、出て来られないのだ。
あの中で、超再生により作られた身体が馴染むのを待っているに過ぎぬ。
さて、そろそろ代わって貰おうか───
「よーし! そろそろ俺の『欲望』を、み、見せてやる!」
俺は大見得を切った。
同時に、此川さん、亜厂との繋がりを無理やり断ち切る。
繋がりを切るのは簡単だ。
ただ、そう願えばいい。
そうして、俺は孤独になった後、叫ぶのだ。
「『審判』!」
俺はヒーローになりたかった。
それは俺の力じゃない。そのことを歯痒く思いながら、おそらくは白髪になった俺の髪をかき上げる。
「北風が努力して、努力して、それを嘲笑うかのように成果を奪う存在を知っているか?
……そう、それの名は、太陽と言う」
俺の指が複雑な紋様を描き出す。
その紋様は空へと打ち上がると、光と熱波を放った。
「ぐ……貴様……まさか……」
吉岡先輩の肥大化した筋肉が膨張し、あちこちから血が吹き出す。
吉岡先輩は逃げられなかった。
『彫刻刀槍』を押さえ込んでいたからだ。
此川さん渾身の『想波』増強版『彫刻刀槍』だ。
簡単に止まるはずもなかっのだ。
吉岡先輩は、超再生しながら『彫刻刀槍』を止めていた。
つまり、発熱していた。
そこに、ベリアルの魔法陣から光と熱波が降り注ぎ、吉岡先輩の筋肉は悲鳴を上げた。
亜厂が動き出す。
「我が剣よ、燃えよ! 『ホノカグツチ』!
……舞え!」
亜厂の『木刀ボールペン』が燃えた。
動きを拘束され、自身の内部から発生する熱を増幅させられ、内部崩壊が始まった吉岡先輩には、傷口を焼かれ、超再生を阻害されてしまうと、後は封印を受け入れることしか選択肢がなかった。
「わ、分かった! 封印を受け入れる。
やめろ! これ以上、貴重な器を壊すなーっ!」
俺は厳かに言った。
「契約だな?」
「ぐぅっ……やはり……エルパンデモンの……はっ!
もしや、詐術のベ……」
「良いのか?」
「は!?
あ、あああ、いや、良くない!
契約する!」
───どうやら、気付かれたようだ。余計な事を話す前に、素早く封印してしまえ───
俺の肉体が俺の手に戻って来る。
俺は携帯から『人払いアプリ』を起動すると、反転、吉岡先輩の中にいる『再構築者』を封印するのだった。
「契約……?」
亜厂が小さく首を傾げた。




