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完璧な仕事をする御倉《みくら》琴子《ことこ》 42


 放課後。真名森先生と御倉みくらを引き合わせて、それから捜索に入る。


 陽キャな御倉と人懐っこい真名森先生はすぐに打ち解けた。間に亜厂が入ったのも大きかったように思う。

 ただ今は、一条先輩ともう一体の『再構築者(リビルダー)』がいる状態、悠長に話している暇はなく、さっそくそれぞれに捜索に入ることになった。


 捜索に入ってすぐ、俺の携帯に何故か外林ほかばやし研究員から連絡が入る。

 校門の外にトラックで乗りつけたので、来て欲しいという連絡だった。


 『TS研究所』の機動隊員ではなく、研究員が来るというのは初めてだ。

 なにごとか分からないが、とりあえず此川さんにメッセージだけ入れて、行くことにする。


 トラックの中は何かの機材があれこれと置いてあり、中央に外林研究員が小さな机を前に座っていた。


「やあ、来たね日生さん」


 外林研究員は、相変わらずド派手なシャツにネクタイ、白衣姿に分厚い瓶底メガネ、寝不足であることを象徴するかのように、頭の中央に、ぴょこんとした寝癖がついていて、無精髭まで生えている。


「あの……なにごとですか?」


 質問しながら、外林研究員が目の前の椅子に座るように促すので、言われた通りに座る。


「日生さんにいいモノを持って来ましたよ!

 大丈夫、キャップの許可は取ってあります」


「組木さんの……」


 許可を取らなくてはいけないような何かとはなんだろうか?

 そう考えている間に、外林研究員がジェラルミンケースを机に置く。

 暗証番号と鍵という二重ロックを外してケースを開けると、俺に見せて来る。

 中に入っていたのは、二本のゴツイ、スマートウォッチのような何かだ。


「聞くところによると、日生さんは『ヒルコ』と呼ばれる、いわゆる『デザイア発現不全』なのだとか……そうなると今後の戦闘に支障をきたすことも多いかと思いまして……まだ試作段階ではありますが、こちらを用意しました。

 名付けて『カムナブレス』。

 日生さんは『想波(カムナ)』の量が他のDDたちと比べて、桁違いに多いにも関わらず『デザイア発現不全』な訳ですよね。

 そこでピーンと来た訳です。

 無駄に余っている『想波(カムナ)』ならば、消費は嵩みますが、攻撃と防御に使えるコイツが使えるんじゃないか、と……」


「え?」


「簡単に説明しますと、こちらが直径一メートルの円形カムナバリア発振器で、こちらがそれを円錐型に発振する、カムナスビアとなっています。

 最終的には、鎧のように着るカムナバリアになる、予定ですが……こちらは試作なので、まだそこまでは到らず、それでも最低限の防御と攻撃はできる代物です。

 まあ、『想波(カムナ)』について研究してきたものの副産物的なモノですが、ぜひ使ってリポートをお願いします!」


 カムナブレス。左手の盾と右手の槍というか、形状的には突撃専用のランスといった代物らしい。

 ゆくゆくは『想波(カムナ)』を貯め込めるようになれば、『TS研究所』の機動隊員たちに装備させることでDDだけに頼らずに戦闘が展開できるようにと考えられたモノが発祥らしい。


 まあ、普通のDDは『欲望(デザイア)』が使えて、普段でも薄く膜のような『想波防御(カムナシールド)』が覆っているので、カムナブレスは完全に必要のない道具だ。

 燃費も悪いという話だしな。


 つまり、現状、カムナブレスを必要としていて、且つ使えるのは俺しかいないのだった。


 だが、このカムナブレスがあれば、俺単体でもDDとして役に立てる。


「最高じゃないですか!

 こんなモノがあるなんて……」


「使ってみて、要望なんかがあれば、それもレポートに上げて欲しい。

 技術力の許す限り、要望も取り入れていくつもりだからね」


「ありがとうございます!

 絶対に役立ててみせます!」


 俺はさっそくふたつのカムナブレスを装着してみる。


 ゴツイ……重い……でも、これがあれば、ベリアルに頼らなくても、組木さんから変態疑惑の目を向けられずに戦える。

 最高の贈り物だった。


「うんうん、じゃあ、戦果を期待しているからね!」


 そう言って外林研究員は帰っていった。


 俺はトラックの去り行く姿に大きく手を振りながら、学校へと戻るのだった。




 意気揚々と歩く俺。

 向かうは屋上だ。

 階段を上がっていると、結城裕貴(ユキユキ)が正面から階段を降りてくる。


「あれ? 満月みづき、まだ帰ってなかったのか?」


「そういうユキユキこそ、部活じゃないのか?」


「ああ、今日はもう終わり。

 なんか顧問の尾野田が飯奢ってくれるって!

 そろそろ春の大会が始まるから、部員全員で連帯感を強めるとかなんとか……まあ、奢りならなんでもいいんだけどな!」


「へぇ、高校になるとそんなのもあるのか……」


「いや、なんか今回は特別だって。

 先輩たちが鬼の霍乱だ〜って盛り上がってたぞ」


「じゃあ、普段はそういうのが無い?」


「まあ、ケチで有名らしいけどな」


「そうなのか……」


 部活内でケチとして通っている尾野田先生が、急に全員に奢る?

 大会が近く、部員同士の連帯感を強めるためとはいえ、バスケ部って結構な人数がいたはずだ。

 なんだか怪しい……。

 ただ、『再構築者(リビルダー)』なら、なるべくエネルギースポットの学校から離れたがらないような気もする。

 もし尾野田先生が『再構築者(リビルダー)』に取り憑かれていたとしたら、学校に留まる時間を長引かせることはあっても、部活途中で学校を出て行くようなことをするだろうか。

 だとすると、違うような気もする。


「どうかしたか?」


 ユキユキが怪訝そうにこちらを見てくるので、俺は笑顔を浮かべる。


「ああ、いや、なんでもない。

 最近は部活も楽しくやれてるんだろ?」


「ああ、ばっちりだ。満月に相談して正解だったよ」


「まあ、真名森先生と亜厂の尽力があったからこそだけどな」


「ああ、二人ともいい人だからな」


「うん、ユキユキがまともに喋れる女子ってのもポイント高いか?」


 俺は少しおちょくる感じで言った。


「ああ。でも、安心してくれ。

 亜厂さんに手を出す気はないからな」


「はあ? いや、別に亜厂とは特に何かある訳じゃねえけど……」


 すると、今度はユキユキがおちょくる感じで言う。


「親友の好みは分かるよ。

 協力はしても、敵対はしない。俺の優先順位は満月の方が上だからな!」


「いや、ユキユキ、それ恥ずかしいから……」


「俺は恥ずかしくない。それじゃ、またな!」


 俺はユキユキを見送ることにした。

 期待のルーキー、ユキユキがバスケ部に入ったことで尾野田先生が今年こそは、と気合いが入っている可能性もある。

 それに、今から部員全員と尾野田先生が連れ立って下校するなら、屋上で写真を撮って確認すればいい話だ。


 ユキユキと別れてから、大急ぎで屋上へと向かった。


 『転生者診断アプリ』で校門を監視する。

 ちょうど校門前には尾野田先生と何人かの部員が集まっている。

 よし、今の内に……そう思った瞬間、俺の携帯がメッセージを受信した。


 DD同士の全体SNSだ。

 発信者は御倉で、そこには校庭の隅に置かれた卒業生寄贈の石碑とその脇に咲く一輪の小さな花の写真が載っていた。

 しかも、それは『転生者診断アプリ』で撮ったものらしく、九十三パーセントの文字がある。


───なるほど、フォラスだな。石や植物の隠された魔術要素を取り出し使う変わり者のエルパンデモンの住人だ。

 野球部の部室の爆発もフォラスの魔術ならば納得だ───


「それって、一条先輩がいるってことか?」


 しかし、写真をいくら拡大して確認しても、人の姿はなく、ただの風景写真にしか見えない。


───おそらく、石碑の中か花の中にでも隠れて居るに違いない。ヤツめ、魔術で隠れていたか───


亜厂︰どういうこと?


御倉︰分かんない。私のカメラにアプリが入ってるんだけど、いきなり反応したから……。


真名森︰故障?


此川︰とにかく一回、集まって確認やね。


日生︰御倉さん、この写真に写っている石碑とか、花とか個別に撮れる?


真名森︰日生くん?


此川︰どういうこと?


亜厂︰きんちゃんの写真、気に入った?


御倉︰ちょっと待ってて。


御倉︰〈写真1〉〈写真2〉


亜厂︰石碑?


日生︰うん。故障じゃなくて、石碑の中にリビルダーが居るってことじゃないかな?


御倉︰そういうこともあるんだね。


 ゴウッ!

 途端、大気が渦巻いた。


 校門側ではなく、校庭側だ。

 俺は屋上を横切り校庭側を確認する。

 竜巻が起きていた。

 その中心には、一人の女子生徒が居る。

 御倉だ。


 竜巻は石碑に当たって、石碑を砕く。

 同時に石碑が一瞬、光ったかと思うと人型の何かを吐き出した。

 それを竜巻が追う。逃げ出そうとした人型は竜巻に捕まって、御倉がカメラを構えると同時に消えた。


 竜巻はそのまま校庭の運動部員たちギャラリーの見守る中で、ゆっくりと散っていく。

 後には、人型、溶けかけた一条先輩の身体が横たえられるだけだ。


 その頃にはもう御倉の姿は見えない。


御倉︰封印完了! みゃー子ちゃん先生、元の生徒の身体は置いてあるので、お願いしてもいいですか?




 上から一部始終をそうと理解して見ていた俺だから分かるが、アレを普通の人が見ても何がなんだか分からないだろう。

 いきなり発生した竜巻と、巻き込まれて壊れた石碑、何事かと注目した頃には竜巻は収まり、後には一条先輩が寝かされている。

 保健の真名森先生がやって来て、生徒たちを散らし、救急車がやって来る。


 組木さんは状況から見て、下手に記憶操作しない方が良いと判断した。


 御倉は来て初日に完璧な仕事をして、俺たちにその存在感を示すのだった。



 


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