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髪を解いた組木さん 4

本日、二話目です。

まだの方は一話目からお願いします!


 組木くみきさんに促されて、黒塗りの車の一台に乗る。

 後部座席のとなりに座った組木さんが、髪を纏めていたバレッタを外し、サングラスを外し、疲れたように頭を振る。

 車の中が女性の髪の良い匂いに包まれて、俺はまたもやドギマギしてしまう。それから組木さんは、自身の携帯に入った画像を見せてくる。


 公安部外事第六課、TS対策室、特殊機動捜査班、CAP、組木麟くみき りん


「任務の性質上、バッヂも名刺も持てないのよね。

 だから、こういう形で見せて、証拠にならないけれど、信じられる人だけが信じるナニカになっちゃうんだけど……」


「はあ……」


 気のない返事。仕方がないじゃないか。

 それっぽく作った偽物です、と言われれば、そうかもなと思える作りなんだから。


「ちなみに、亜厂あかりも同じ所属よ」


「ええと、TSってのは?」


戦術的(タクティカル)超自然(スピリチュアル)という意味よ」


「あれ? 超自然だとスーパーナチュラルでは?」


 拙い英語知識をなんとか発揮してみる。


「別にそっちでもいいわね。私たちは素直に転《Ten》生《Sei》とか、僭称的にスピリチュアルって呼んでるから。

 もしかしたら、スーパーナチュラルかもね」


 なんだか分からない、超自然的な霊魂とかそこら辺をTSという二文字に入れ込んでいるということらしい。


「まあ、分からないけど、分からないなりに分かっていることもあるのよ。

 簡単に言えば、私たちの相手は昔で言う獣憑きとか悪魔憑き。

 実態は異世界からの転生者。

 私たちは彼らを『再構築者(リビルダー)』と呼んでいるわ」


「リビルダー……」


 俺は口の中でソレを呟きながら、噛み締める。


「人間の体に魂とか精神が乗り移って、元の人間を閉じ込め、その体を好き勝手に弄るやつ。

 それが『再構築者(リビルダー)』よ。

 人が魔法みたいに光を集めて、火の玉を飛ばしたり、無から有を生み出すなんて、普通じゃないでしょ」


 林先輩という人の状態はまさに悪魔憑きと呼びたくなるものだった。

 たしかに、本来の林先輩には、火の玉を生み出す能力なんて無いのかもしれない。

 だとしたら、あの『ハボリム』ってやつが他人の体の中に、勝手に魔法袋とか超能力器官とか、そういう類いのナニカを、『ハボリム』が住んでいた世界では当たり前の物を、こっちの世界で再構築しているってことなのかもしれない。



「あの、林先輩って人はどうなるんでしょうか?」


「運が良かったのよね!

 あの子は自分で自分の体を取り戻せた。

 それに相手がどこの異世界から来たのか分かってる。

 そうなると、『ハボリム』の魂を吸引して、特定の機械に封印。

 体は元の状態になるように切除とか成形手術をして、数ヶ月は掛かるけど、元の生活に戻れるわ」


 俺は、なんだか少しだけホッとする。


「『ハボリム』は送還に応じれば、元の世界に強制送還。応じなければ、そのまま封印でしょうね。

 精神体なら、強制退去で次元の狭間をさ迷うハメになるけど、アイツの世界とは協定があるから、大丈夫だと思うわ」


「はあ……」


 魂を機械で吸引とか、掃除機みたいなものがあるんだろうか?

 それに協定があるって異世界と?

 なんとも眉唾もの(うそくせえ)な話だ。


「ああ、信じられないって顔してるよね?」


「まあ……」


「あなたもこれから私たちの仲間になるから、先に言っておくけど……大の大人が今回の事件に二百人から参加していて、嘘は言わないわよ。

 それに、私たちの仲間になるのは確定事項で、すぐに国から命令が来るから、断れないのよ」


「は? 仲間?」


「そう、瞬間催眠装置ヒュプノライトに掛からなかったでしょ。

 つまり、妄想(デリュージョン)想士(デザイアー)になる素質があるってことで、そうなると自動的に私たちの管轄になるのよ」


 明日になれば分かると思う。

 そう言って俺は新しい制服を渡されて、解放された。




 翌日、学校に着く直前、俺の前に黒塗りの車が止まって、またもや組木さんが現れた。


「学校にお休みの許可は取ってあるから、乗って」


 俺は意味が分からず、多少、ごねたが、組木さんに押し切られて車に乗った。

 組木さんが公的機関としての確実な証拠を見せると言ったからだ。


 そして、車で連れられていったのは、警察官が門番をしている建物で、『TS研究所』と書かれた立派な物だった。


 ここで検査を受けなくてはならないとかで、変なヘルメットを被らされたり、脈を取られたりした。


「素質は充分、私の目に狂いはなかったわね。

 それじゃあ、確実な証拠に会ってもらおうかしら」


 この運命から逃れられない『証拠』とやらがあるらしい。

 そこで俺は『証拠』を見せられた。


「私が首相の伊福部です。

 また新たなDDデリュージョン・デザイアーに会えて嬉しく思います。

 国防の一翼を若い君たちに託すことしかできないのは、非常に遺憾ではありますが、どうか頑張っていただきたい!」


 メディアで良く見る、総理大臣。

 さすがに俺でも知っている『証拠』だ。

 会えたのは一瞬で、熱い握手は手が痛いくらいで、しかし、命令書というのを渡して、すぐに去ってしまったが、ここが国の機関で、俺が国防の一翼を担うことになるのは疑いようがなかった。


 それから、改めて組木さんから色々なことを教わる。


 妄想(デリュージョン)想士デザイアーというのは、『再構築者(リビルダー)』が現れたことによって、この世界の人間に発現した超能力の一種で、唯一、『再構築者(リビルダー)』に直接ダメージを与えられる力を持つ者のことらしい。


 この『再構築者(リビルダー)』というのは、精神生命体とか魂生命体なので、普通の武器を使うと肉体が砕ける、つまり乗っ取られた肉体が死亡してしまう、その場合、『再構築者(リビルダー)』は別の肉体を乗っ取ることで、こちらの世界に居座り続けることになるらしい。

 『再構築者(リビルダー)』は異世界からの転生者。

 こちらの世界のことわりとは違う理で動いている。


 具体的に言えば、この世界で生きていこうとする『再構築者(リビルダー)』は、欲望を満たそうとする。

 生き血を啜る、他者の魂を集める、特定の金属を集める、ただ好き勝手に振る舞うだけのやつもいる。

 また、元の世界に帰ろうとする『再構築者(リビルダー)』もいる。

 その場合、この世界の神にまつわる何かを求めたり、肉体の元の魂を絶望に追い込んで、精神エネルギーを搾取しようとするやつなんかがいるらしい。


 そう精神エネルギーだ。

 組木さんたちは『想波カムナ』と呼んでいる。

 『妄想(デリュージョン)想士(デザイアー)』が扱うのも精神エネルギーの一種、ということらしい。

 ごく端的に言うなら、『思い込み』と『葛藤』から生まれる精神の余剰エネルギーを現実に発露させて、扱うのが『妄想(デリュージョン)想士(デザイアー)』らしいが、現状の俺の感想は「……何言ってんの? 日本語でOK?」といったところだ。


「まあ、すぐには難しいと思うから、ゆっくりやって行けばいいわ。

 コツさえ掴めばすぐに使えるようになるから」


 俺の、ワカリマセン顔を確認して、組木さんはそう言った。


 なんだかんだで、俺の意志とは関係なく話が進んでいたが、正直、俺はワクワクしていた。


 どうだろう。貴方には特別な力があって、人々を守るために戦って欲しいと言われたら?


 俺は、俺の中の厨二心が大いに刺激され、少し鼻息が荒くなった。

 亜厂あかりの使った木刀ボールペン、見た目は少々アレだが、魔法パワー的な何かが自分の中に眠っているなんて、かなりヤヴァイ。


 しかも、公的機関のお墨付き。


 内緒だけどな。


 かっけーーー!!

 人知れず悪を倒す、正義のヒーローだ。


 俺は満足していた。

 これが能力を持つやつは全員、強制的にヒーローをやらなくちゃいけないとか、公的機関でありながら秘密を厳守しなきゃいけない理由だとか、バカな俺は何も考えずに、黙ってそれを受け入れたのだった。


今後の投稿について。

毎週、火曜日、木曜日、土曜日の朝七時を予定しております。〈月水金のつもりでしたが、リアル都合で変えましたm(_ _)m〉


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