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山狩りする日生満月 39


 夜の山狩りである。

 山狩りなんていうと少し物騒な聞こえ方をするかもしれないが、要は人海戦術を使った、昔からある人員捜索の手法だ。

 たくさんの人が二〜三メートルおきに並び、灯りを手に進むだけだ。


 時折、左右と連携して声を掛け合い、しらみ潰しに裏山を探索していく。


 もっとも、探しているのはエルパンデモンの『再構築者(リビルダー)』に取り憑かれた一条先輩なので、これは決して安全ではない。

 DDデリュージョン・デザイアーでない一般人にとっては、未だ魔術を残している可能性がある一条先輩は充分に危険な相手であり、例え防弾チョッキに強化プラスチックシールドを装備した機動隊員だとしても、命の保証はない作戦である。


 俺もヘルメットとシールドと連携用ライトを手に参加しているが、正直に言えば、逃げる邪魔になりそうで、着の身着のままで参加したいのが本音だ。


「点呼ー! 左右いるかー! い〜ち!」


「にー!」「さ〜ん!」


 音もなく誰かが殺されていた、なんてことがあるとシャレにならないので、数分ごとに点呼が入る。


 暗闇の裏山をライトがチラチラと照らしながら、機動隊員たちの点呼の声が響く。

 点呼が終わってしまえば、一分か二分か分からないが、まるで数十分かと思えるような静寂の時間がやってくる。


 木の裏、木の上、藪の中、何処かに違和感がないかと探していく。


 急に様々な電子音が全員のポケットから鳴り響く。

 全員の携帯がメッセージを受信したのだった。


 一瞬、びくりとしてしまった。


 それはTS研究所からで、新たな『再構築者(リビルダー)』の転生を告げるものだった。

 それも三件。

 一列に並ぶ俺たちだが、その瞬間、ざわりと列が大きく乱れたように感じる。


 エルパンデモンの大祭。

 こんなにも来るものかと背筋が寒くなる。


 全員のざわめきを正すように、点呼が始まる。


「点呼ー! 左右いるかー! い〜ち!」


「にー!」「さ〜ん!」「……」「おい、進藤……どうした? おい!」


 四番、進藤という人が膝から崩れ落ちて、空を見上げて口から泡をふいていた。


「あ……お……お……」


「おい!」


 五番の機動隊員が声を張り上げた瞬間、進藤隊員が跳んだ。

 地上から七メートルほどだろうか。

 跳んで逃げた。


「緊急連絡! 第二小隊進藤隊員に異常行動! 状況から見て『再構築者(リビルダー)』に取り憑かれたものと見えます!」


「DD、追ってくれ!」


 お、俺!?

 いや、一番近くに居るのは俺だ。


 俺は進藤隊員を追って走り出した。


 進藤隊員はおそらく今、取り憑かれたばかりのはずなのに、驚異的な身体能力を発揮する。

 向かうのは、やはり学校だ。


 俺は学校で待機している真名森先生に連絡を入れる。

 真名森先生の『欲望(デザイア)』は本体である真名森先生が攻撃されると弱い。

 そのため、保健室で待機になっていたのだ。


「真名森先生、機動隊員の人が新しいリビルダーに取り憑かれました!

 応援、お願いできますか?」


「大丈夫よ。それより満月くんは充分に気をつけてね!」


「はい、位置を言います。旧校舎グラウンドから本校舎の方に向かっています!」


 電話を切る。切ると同時に着信が入る。


「組木よ。山狩り部隊で『再構築者(リビルダー)』に取り憑かれた者がさらに一人出たわ。

 今、此川が向かっているわ。

 亜厂は逃げた三年生が見つかった時のために待機してる。

 日生くんは戦闘に参加せず、真名森さんが封印準備を整えるのを待ちなさい。

 封印準備ができたら、貴方の出番よ。

 ベリアルの助力があったみたいね。

 魔力にも限りがあるわ。あまり期待しないようにね」


「はい。既に限界と聞いています」


「分かったわ、詳しい話はあとで聞きます。

 とにかく今は、無理をしないように」


「分かりました!」


 この夜は長くなりそうだった。

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