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百眼の装飾のアドラメレク 37


「ぬおおおりゃー!」


 無限の体力任せの大振りパンチ。

 山県さんに恨みは無いが、取り憑いたエルパンデモンの『再構築者(リビルダー)』にはある。

 ベリアルが言うところのアドラメレク。


 此川さんが作ってくれる『想波防御(カムナシールド)』で包まれた拳がアドラメレクを襲う。


「ひぃ……寄るな!」


 軽く振られた山県さんの細腕に弾かれた俺の拳が有り得ない力で大きく動く。


「なんっ……」


「はっ……お、おお、もうこれほどに馴染むのか……ひ、ひひ……なんだ、思うよりも簡単だったな……」


 自身の両手を眺めて山県さんが笑う。


「馬鹿力かよ!」


 もう一度、俺は拳を振るう。


「これだけ馴染むのならば、もう怖いものなどないなぁ」


 ひひひ……と笑いながら山県さんがデコピンの要領で指を弾く。

 俺の拳と正面衝突した山県さんのデコピンで、俺の拳は解体作業用の鉄球でも当たったのかという程に、身体ごと持っていかれた。


 壁にぶつかり、衝撃が体内で爆発する。

 『想波防御(カムナシールド)』があっても、体内にダメージが来ている。

 口の中に血が逆流してきて、たらり、と垂れた。


「日生くん!」


 亜厂の悲鳴が聞こえる。

 俺は歯を食いしばりながら立ち上がる。


「大丈夫……大したことない……」


 此川さんから『欲望(デザイア)』が流れ込んで来るのを感じる。

 熱いくらいのエネルギーの塊だ。


「せや、ひなせくんは絶対に死なさへん!

 さあ、山県さん……解放したる。『雷撃槍グングニール』!」


「うん! 松利ちゃんだもんね!

 なら、私は全力で!」


 二人の必殺攻撃。『(キイ)』を使った全力遠隔射撃か。

 これなら、アドラメレクがいかに怪力でも、ひとたまりもないだろう。


「こちらを見ていていいのか? 『百眼の虚飾』!」


 孔雀の尾羽が光る。


「幻覚攻撃だ、見るな!」


 そう声を掛けたものの、俺の周囲は暗闇に沈む。

 こんな一瞬で……そう思うが、幻覚でもなんでもない。


「なんや? 暗闇?」


「わわわ、ど、どうしよう……見ちゃった……」


「ひひひ、見えんだろう!」


 アドラメレクが嬉しそうに舌なめずりして言う。


 あれ? 見えるんだが……。

 もしかして、俺には幻覚の効きが薄かった?


 短時間とはいえ、エルパンデモン式の肉体改造を受け入れたからだろうか。

 周囲は暗闇に包まれたものの、俺にはアドラメレクが、そろり、そろりと動く様が見えている。


「……バレバレなんだよ!」


 ダッシュからの飛び蹴りをかまそうとして、全身を嫌悪感が襲う。

 うっ……この嫌悪感、不快感は感覚が鈍る『フリッグの約束 』の中でも、リアルに感じることができる。

 ベリアルめ、なんでこんな時に。


 ダッシュの途中で失速する。


 それでも、アドラメレクの行動を許す訳にはいかない。

 フラフラの体当たりでも、なんとか当てなくちゃ、と突き進む。


 いや、しかし、俺の鼻はソレを捉えた。


 違う。これは血の匂いだ。エルパンデモンのやつの匂いじゃない。

 だとすると、真名森先生の『目玉の邪妖精(イビルアイ)』。


「ベリアルめ……ちゃんと働くつもりか……」


 俺はムカつきながら感謝するという、複雑な心境で呟く。

 ベリアルの肉体改造は、声が届かないことを見越した警告として働いた。

 おかげで、というと業腹だが、匂いに集中するという原点に立ち帰れた。


 この幻覚の中では、方向感覚も狂うらしい。


 俺は『目玉の邪妖精(イビルアイ)』を掴んだ。

 たぶん、真名森先生には幻覚が効いていないはずだ。


 証拠は、一度目の幻覚の時、真名森先生の『目玉の邪妖精(イビルアイ)』だけが潰されていたこと。

 あの時、真名森先生だけがアドラメレクに挑みかかって、潰された。

 おそらく、そういうことだったのだろう。


 手にした『目玉の邪妖精(イビルアイ)』は、全く見当違いな方向へと進んでいく。


「真名森先生、俺には見えてない。導いてくれ!」


 にゅるり、と『目玉の邪妖精(イビルアイ)』が形を変えていくのが分かる。

 手に馴染むナイフのような形。

 球形ではなく先端がある形なのだと思う。


 方角を示すのにちょうど良い形なのだろう。


 俺は真名森先生の導きに従って進む。

 匂いが濃くなる。


 俺の手の平の中で、変形した『目玉の邪妖精(イビルアイ)』が分かりやすく棘を出す。

 痛い棘じゃない。ちょっと手の平に爪で文字でも書かれているような、こそばゆい感覚。

 それに合わせて、手を動かすと何かを受け止めた。


 ずしり、と重い。


 アドラメレクの怪力だろう。

 片手では無理なので、両手で『目玉の邪妖精(イビルアイ)』を持つ。

 真名森先生から棘の指示が出る。

 アドラメレクの怪力が逸れる。

 さらに指示。

 アドラメレクの怪力を受け止めるためには、なるべく力を抜いて、ぶつかった瞬間に重みを感じる方へ全力を込めないと難しい。


 真名森先生の導くままに、そして、匂いがするままに、俺は腕を振るった。


 受けて、流し、また、受けて。


 一撃入れられれば、幻覚は溶けるようになくなる。

 その一撃のために、俺は匂いと手の平の導きに集中した。


 そして、ついにその時が来た。

 真名森先生の導きがより細かく、複雑になっていく。

 その導きが言うのだ。


 今、振り下ろして!


「ここかっ!」


「ひ、ひぎゃあああっ……」


 周囲の明るさが戻る。

 俺の手には血に塗れた……いや、血でできた巨大なメスが握られていた。


 倒れ込む山県さんの肩口から腰にかけて、袈裟がけに大きな傷が入っていた。


「大人しく封印されるんだな……その身体はひとつしかないぞ……」


「や、やめ……やめひぃぃぃっ!」


 アドラメレクにとって、よほど相性が良かったのだろう。


 俺の携帯にアドラメレクは封印されることを選んだのだった。



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