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一瞬のベリアル 34


 野球部の部室は一階の一番奥にある。


 『部室棟』は基本的に外から出入りできる作りになっている。


「ここに?」


 亜厂が聞く。


「ああ、『再構築者(リビルダー)』の匂いがぷんぷんしている……」


 マネージャーたちが離れたのを見計らって、俺と亜厂は野球部部室に近づいた。


「ふふ……日生くん、動物的な何かに目覚めたかんじだね!

 でも、発現したての『欲望(デザイア)』は思わぬ事故が起きたりするから、ここからは私が前ね」


「なるほど、積極的な女は嫌いじゃない……ここは譲るとしよう……」


「ちょ……もう、変な言い方禁止だよ!

 なんだか汗かいちゃう……」


 そう言いながら、亜厂はボールペンにキスをして、そっと野球部部室のドアノブに手を掛けた。


 アイコンタクト。

 俺が小さく頷く。


 音を立てないように、亜厂が慎重にドアノブを回していく。

 瞬間、俺が動いた。

 亜厂を抱き締めるようにして横っ飛びする。


 スチール製のドアが爆発で吹き飛ぶ。


「ほほっ! ワシの自然罠魔法に嗅覚が働くか!

 少しは遊べそうじゃな」


「魔法とは片腹痛い。貴様のは魔術だろうが……」


 ゆらり、俺が立ち上がる。

 魔法と魔術。ベリアルの説明によると、無から有を生み出すのが魔法。有るものの性質を変化させるのが魔術。

 つまり、今の一条先輩が使ったのは、何かを媒介にして発動させたモノということらしい。


「うぅ……」


 亜厂が目を瞑って痛みに耐えている。

 咄嗟のことで、『想波防御(カムナシールド)』を張れなかったか。


 俺の指が空中に複雑な紋様を描いていく。

 描き慣れているのか、指の動きは早い。


「げぇ……まさか、その紋様……貴方様は……」


「問答無用だ……」


 俺が空中に描いた紋様に手のひらを当てる。

 すると、紋様から光が降り注ぐ。

 雲の切れ間から差し込む太陽の光の柱のような、柔らかく美しい光だ。

 コイツ、悪魔のくせに全体的にキザったらしい部分が透けて見える……。


「ひぃぎゃぁぁぁーっ!」


 一条先輩が溶けていく。

 俺の魂がそのおぞましさに震える。


───や、やめろぉぉぉ!───


 思わず叫んでしまう。

 俺が紋様から手を離すと、紋様は空中で解けて消えた。


「邪魔をする気か?」


───お前こそ、一条先輩を殺す気か!───


「ふむ……生かして返すと?

 その気になれば、またこちらの世界に来ればいい話だぞ?」


───お前なら封印だって、できるだろ!───


「わざわざ危険で面倒な手順を踏むのか?」


───お前からしたら価値の無い命かもな……でも、殺して終わりなら、お前と面倒な契約を結んで協力したりしないだろ!───


「やれやれ……たしかに無価値な尊い命だ。

 封印するなら、身体を替えねばな……」


 途端に身体の主導権が俺に返って来る。


───残念ながら、私に『想波(カムナ)』とやらは動かせないからな……───


 ベリアルがやっているのは、あくまでも魔法であって、『想波(カムナ)』を魔術っぽいエネルギーとして認識しているが、利用はできないということらしい。


 そんなことを考えていると、一条先輩が爛れた口を動かして、なにやら呟き出した。


「ぐ、くく、くほ……こんはほほろで……魔ほ秘めひもほよ、ふぉらふの名のもほに、魔をへんげんせほ……」


「日生くん、後は私が!」


 起き上がった亜厂が俺を庇うように前に出る。


「きゃあっ!」


 一条先輩の手に握られた石が光る。


 俺の目に映るのは、石から放たれた光が門を作り、それを抜けて一条先輩がどこかへ消えるところだった。


 自然罠魔法? 魔術? とやらで空間転移したようだった。


「逃げた……なんだか変異が異常に進んでませんでした?」


「あ〜……ちょっと『欲望(デザイア)』の制御が効かなくて、やり過ぎたかも……」


「だから言ったのに……でも、お手柄ですよ、日生くん!

 あの状態なら、もうほとんど抵抗は無理じゃないかな? 見つけて一気に封印しちゃいましょう!」


「いや、どこに逃げたか分からないし……」


「学校のどこかに絶対いる!

 すぐに見つかるよ!」


 そう亜厂は言って、組木さんたち大人組に連絡を入れる。

 組木さんたちは既に応援に向かっているはずで、そのまま学校を封鎖、亜厂は俺たちDDで捜索を提案していた。


 ついで、と言ってはなんだが、亜厂は組木さんに俺が『欲望(デザイア)』に目覚めたことを興奮気味に報告していた。


「……みゃー子ちゃんとも違う特殊なヤツで、凄いんです!

 髪が真っ白になって、ちょっと野性的っていうか……性格も変になるみたいで……はい、はい、は? いえ、そういうのはないんですけど……とにかく、TS研究所で不可能って言われた事象をひっくり返したんですよ!

 凄いじゃないですか! チョーびっくりですよ!」


 遠巻きにどこかの部活のマネージャーたちが俺たちをおっかなびっくりと見ている。


 俺をかっこいいとか褒めてた人たちだ。

 爆発音で寄って来てしまったのだろう。


 組木さんたちが到着するまで、引き留めておかないと。


 俺はベリアルの口調を参考に、ちょっとキメキメでマネージャーさんたちの前に立った。


「いやあ、お嬢さんたち、怪我はないかな?

 安心していい……」


「ねえ、悪戯じゃ済まないわよ……」


「キモっ……なに、コイツ……」


 俺は静かに泣いた……。



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