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ため息を吐く日生《ひなせ》満月《みづき》 30


 俺がエルパンデモンの『再構築者(リビルダー)』ベリアルに取り憑かれたことは、まずは内緒だった。

 理由は簡単だ。

 他のDDを動揺させないため。


 これから『エルパンデモン大戦』と呼ばれることになる大掛かりな『再構築者(リビルダー)』の大量転生を控えているため、精神的動揺を抑えたいらしい。


 ただ、そうなると今回の『再構築者(リビルダー)』、ベリアルの行方が問題となるが、これは急遽、組木くみきさんが他地域から呼び寄せた『妄想(デリュージョン)想士(デザイアー)』が倒したということにするらしい。


 亜厂、此川さん、真名森先生はその間、無駄に走り回ることになるが、これは目を瞑れと言い含められてしまった。


 明後日には転校して来るらしい。

 ただし、俺たちと合流するのは、その翌日で、組木さんに計画があるらしい。


 帰り道、契約を済ませた段階ですでに月が昇っている。

 俺は朧月夜と満月の顔を目まぐるしく覗かせる空を見上げて、先程の舌戦を思い出して、ため息を吐いた。


───日生ひなせ満月みづきよ。

 契約があるからな。魔術を見てやろう。

 日生満月は何を使う?───


「使えねえんだよ……」


 俺は不貞腐れて言った。

 この声が頭の中に響くということが、俺の中にベリアルという『再構築者(リビルダー)』が居るという証拠だ。


───『(キイ)』だったか、ソレは魔法の入口、それも玄関先を覗き見るための道具に過ぎない。

 日生満月の望むモノでよかろう───


「え? それってなんでもいいってことか?」


 どうも俺たちの使う『欲望(デザイア)』はエルパンデモンから見て、魔法と魔術程度の違いという認識のようだ。

 魔法と魔術がどう違うのかは知らないが、おそらくかまぼことちくわ、似たようなモノなのだろう。


 そして、肉体の作りからして、魔法が使えるエルパンデモンの住人にとっては、俺に『欲望(デザイア)』を教えることくらい、なんでもないことらしい。


「じゃあ、指をさすとか?」


 簡単なものがいい。しかも、一瞬で発動できれば、俺は一瞬で上級能力者の仲間入りだろう。


───念じて指してみよ───


 近くの石ころに向けて、指鉄砲を作る。


 これは俺のモノだ。俺という認識を拡げて行く。俺の身体から外へ、外の全ては俺と繋がっていて、つまり、そこらの石ころだって、俺なのだ。


「動け!」


───くくくっ……ははははははっ!

 日生満月よ。まさか、そうなのか……。

 日生満月は随分と珍しいタイプだな……───


 石ころは動かない。


「どういう意味だよ……」


───日生満月の魂の在り方の問題だ。

 日生満月ならば、魔術どころか、魔法すら使える素質がある───


「それは『欲望(デザイア)』より魔法の方が上ってことか?」


 ヤバい! 上級を超えて、超上級能力者になっちゃうのか、俺!


───ああ、有る物を我がモノとし、それを己が意のままに変質させ操るのが魔術ならば、無から有を生み出すのが魔法だ。

 己さえあれば、日生満月は最高の魔法使いにもなれただろう……───


「なんで過去形なんだよ……」


───日生満月には、日生満月が無いのだ───


「ど、どういう意味だ?」


───そのままの意味だ。日生満月は石ころのモノにはなれても、石ころは日生満月のモノにはならん。

 なにしろ、日生満月がいないのだからな───


「……くそ。もっと分かりやすく話せよ」


───たしか、前に日生満月は躊躇なく他人のために身体を差し出したな。

 全てはそこに集約される。

 日生満月の本質は世界になることはあっても、世界を自分にすることはできない。

 魔術士としては根本的な欠陥だ。

 己が無いのだ。どうして己が無い者に、他のナニカを己のモノにできるというのだ。

 素質だけは本物だ。しかし、日生満月は魔術士にはなれない。

 そういう魂のことをタカ・マガハラで的確に表現する言葉がある。『ヒルコ』というのだ───


「ヒルコ……」


───まさか、『ヒルコ』に取り憑くとは、私も奇異な体験をしたものだ───


「ま、待て……それじゃあ、俺は……」


───魔術は使えぬ───


「け、契約違反だ!」


───契約内容に日生満月の仕事を手伝うことはあっても、日生満月が魔術を使えるようにする、は無いな───


「そんな……」


───諦めよ。そういう魂なのだ───


「あ、待てよ、俺には魔法使いの才能が……」


───許可があるなら、喜んで肉体を改造してやろう───


「う……ないない。誰が許可するか!」


 ただでさえ俺の身体はすでにちょっとだけ改造されている。

 あの全身の皮の内側がもぞもぞするような不快感はそのせいだと聞いている。

 『再構築者(リビルダー)』の肉体改造は不可逆だ。

 今のところ、俺の身体に違和感はないが、肉体改造されてしまえば、治すのに長期入院が必要になる。

 つまり、それを許す訳にはいかないのだ。


───おや、それは残念……───


 ちっとも残念じゃなさそうにベリアルは言う。


「くそっ……もう、黙っとけよ」


───ああ、いいとも───


 パタリ、ベリアルの声は聞こえなくなった。

 聞き分けのいいフリをして、こちらを騙そうとでもいうのだろうか。

 俺は騙されない。


 それにしても『ヒルコ』か……。

 『欲望(デザイア)』ひとつ使えないDDなのか、俺は……。


 『想波(カムナ)』はある。それは『転生者診断アプリ』で証明されている。


 人生の脇役です、と誰かに突きつけられたようで、俺はまた、ため息と共に空の月を見上げるのだった。



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