発現を語る真名森美也子 27
昨日は間違えて投稿しまして、今日は遅れるっていう……。
今回のお話で、書き溜めが尽きました。
くぅ……頑張れ、自分!
真名森先生はいつもの尿検査紙コップで俺たちにお茶を振る舞いながら語る。
「ほのかちゃんのお話聞いてたらね、なんとなく自分がふわぁって空に浮かんでいるような気がしたの。
それで、わたし自身が雨になったり、砂になったり、すっごく面白くて……気づいたら、わたしになってて……たぶん『鍵』は分かったと思うの!」
「ああ、たしかに私の時もそんな感じやったわ……ふっ、と分かる瞬間ってそんなもんやよね!」
此川さんの同意に亜厂も、ウンウンと頷いている。
「……分からねえ。
いや、その、ふわぁってなる感覚はなんとなく分かるけど、その後がまったく分からねえ……」
俺は頭を抱えた。
最近の修行では、前に亜厂に聞いた話を元に、循環の中に身を置いて、ひとつずつ考えていく。
『妄想☆想士』としての覚醒はそこが始まり、らしい。
続けていけば、ある時ふと真名森先生のように、理解できてしまうもの、らしい。
そうして、『鍵』が見つかれば、後は色々試してみるしかない。
思い入れのあるものの方が、自分と親和性が高く、好きに操れる可能性が高いが、稀にまったく関係ないモノが自分のモノになる場合もある。
ダメだ。様々な循環を考えて、それをひとつずつ思考の中で追っていくという作業を続けているが、俺の『鍵』は見つからない。
『欲望』のためのパワーの源、『想波』を感じることはできたが、それは亜厂に操られている最中のことで、それ以降、俺の中の『想波』を感じることはできない。
いきなり出てきた年上の後輩に、いきなり追い越されました。
此川さんとの恋愛問題に加えて、真名森先生による追い越され問題。
なんとも頭が痛くなりそうだ。
「それで、みゃーこちゃん先生の『鍵』というのは?」
亜厂が聞く。
昼休みの半分ほどの時間で、真名森先生が呼ばれたがっている愛称で呼ぶほどに仲良くなってしまったようだ。
俺と此川さんの距離は未だ「ひなせくん」「此川さん」だというのに。
「たぶんね……コレだと思うの……」
そう言って真名森先生が取り出したのは、一本のカッターナイフだ。
「いや、真名森先生。
『鍵』ってのは、思い入れのある品とは、また別でですね……」
俺が先輩風を吹かせて説明しようとすると、真名森先生は被せるように言う。
「もし、苦手だったら目を瞑っておいてね!」
そうして真名森先生は、カッターナイフで自分の指先を少し傷つけた。
血が流れる。
糸を引くように、とろりと垂れた真名森先生の血液が、まるで生きているかのように、どんどん溢れ出していく。
真名森先生が揺れていた。
その顔は真っ青だ。
人間は身体の三分の一の血液を失うと危ないとか聞いたことがある。
床に垂れた真名森先生の血は、指先の小さな傷からは考えられない出血量だ。
真名森先生の揺れが激しくなる。
「あ、危ない!」
真名森先生が倒れる。それを俺はなんとか受け止めた。
「あ、はは……ごめんね……満月くん……」
儚い笑顔で真名森先生は息も絶え絶えだ。
「此川さん! 真名森先生の出血がヤバい!」
俺が叫ぶが、此川さんも亜厂も、視線は拡がる血溜まりへと向けられている。
血が動いている。血溜まりが拡がるのではなく、立体的に動いて、そこにはサンタの帽子を被った髭の痩せこけた小人が立ちあがる。
「なんだ……」
「『欲望』やね……」
「みゃーこちゃん先生、それを操って自分の中に戻せますか?」
二人が冷静に言う。
「うん……ちょっと、待ってね……」
血色の小人が次第に小さくなっていく。
それと同時に、真名森先生の顔色に血の気が戻ってくる。
よく見ると、小人と真名森先生はとても細い血の糸で繋がっている。
小人がすっかりなくなった頃、俺に抱きとめられていた真名森先生が、俺の胸に指先を当てて『の』の字を書いた。
「みづきくん、もう大丈夫だから離してくれていいよ!
あんまりこのままだと、みゃーこもドキドキしちゃう……」
「あ、いや、違……見とれてただけで……」
「真名森先生になん……?」
此川さんのジト目が俺に突き刺さる。
「……さっきの小人にだよねっ? ね!」
亜厂が取り繕うようにフォローしてくれるが、こういうのはフォローすれば、するだけ妙に俺の変態度が上がる。
「嘘やで、わたしだって分かってるよ!」
此川さんが、一転して笑顔を見せてくる。
俺は務めて冷静に、真名森先生から離れた。
此川さんは、あれ、ノリ間違ったかな、という顔をしていた。
普段なら、俺も頭に血が上って、慌てふためく場面だが、此川さんのジト目で、一瞬にして冷静というか、背中の冷たい汗を感じたのだ。
おそらく、俺と亜厂だけが知っている教育係交代の理由。
おかげで此川さんがノリを間違えた風になってしまった。
申し訳ない。
「あれれ〜?
みづきくんってば、隅に置けないなあ〜!
もしかして、どっちかと付き合ってるの〜?」
真名森先生が爆弾を落とした。
俺たちは、三人同時に「いやいやいや……」と変な笑顔で否定した。
否定というか、否定にならない曖昧ななにかだ。
此川さんは、俺と付き合いたいと思ってくれているが返事を待つように言われているし、俺は亜厂が気になっているが、此川さんの告白に揺れる自分がいるのも事実で、そうなると、この亜厂に向けた感情は恋愛のモノなのかどうか自信がない。
亜厂はどうなんだろう?
俺と付き合っているという疑いが迷惑だが、俺のことを考えて強く否定しないとか、そんなところだろうか。
「ふ〜ん……なんか、青春なのいいなぁ!」
真名森先生は俺たちを見て、ニヤニヤしていた。
そんな日常に波乱がありつつも、平和な数日が過ぎていく。
真名森先生は『欲望』が発現したことによって、仕事終わりに『TS研究所』で訓練する日々が始まり、随分と忙しそうになった。
亜厂と此川さんも人脈作りに忙しく、俺だけが一人取り残されたように屋上で訓練を続ける。
そんな中でも、此川さんはたまに屋上にやって来ては、俺が唯一『想波』を感じられた、亜厂の『生太刀・生弓矢』と同じ状況を作ろうと尽力してくれる。
尽力してくれるということは、未だ成功していないということだった。
俺を操るまでは今まで通り。
そこから俺に俺のコントロールを返してもらうのだが、それが難しいらしい。
亜厂とはぶっつけ本番でできただけに、此川さんはムキになった。
俺も何が違うのかと考えるが、違いと言えば亜厂の軽いキスくらいのものだ。
それを此川さんに言うのは難しいので、此川さんの『鍵』である『名前を書く』という行為を姓だけもう一度書いてもらったり、名だけにしてみたりと色々やってみたが、全て失敗に終わっていた。
そうして、ある授業中、俺たちの携帯に『TS研究所』からの警告メッセージが届くのだった。




