告白する此川松利 26
此川さんと二人だけの昼休み屋上。
正直、俺の頭の中は大混乱していた。
「つ、つつつ、付き合うってその、どこまで?」
可能性の話だ。ほら、亜厂の時みたいに『ファガナイン』で飲みたいドリンクがあるから、駅前までなんて可能性もある訳で……。
「どこまでって、えっちやなぁ、ひなせくん……」
「あ、いやいや、そういうことじゃなくてさ……」
「まあ、それはムードとか流れとかあるんちゃうかな……って、うわぁ、ちょっと顔赤くなるから、見んといて!」
此川さんが俺の頬に手を当てて、ぐい、と横に逸らす。
頬に紅が差すと言うんだろうか。
一瞬だけ見えた此川さんはたしかに真っ赤だ。
「ええと……その、なんで?」
そう、そこが問題だ。
正直言って、思い当たる節がない。
なんなら、此川さんの目の前で、救命措置とはいえ亜厂とキスをしている。
そんなやつを好きになるなんて、あるんだろうか?
「う、えとな……イミエルと戦った時あるやんか……あん時、ひなせくんのこと助けるつもりでわたしのモンにしたのに、イミエルの攻撃をわたしが受けて、ピンチになったやろ……そん時、ひなせくんて、命懸けでわたしに『想波』を返したやんか……それで……ああ、誰かのために命懸けの勝負ができる人なんやなって……」
「……」
なんと言うか、むず痒い。
正直、嬉しい。
ただ、その気持ちに応えられるかと言うと別だ。
此川さんのことは嫌いじゃない。むしろ、好きの方に分類される。
まだ出会ってからひと月に満たない付き合いだが、気立てが良くて、可愛くて、社交性も高く、気安く冗談が言い合える女の子なのだ、そんな子からの告白なんて、最高以外の何ものでもない。
ただ……。
「……あ」
「待って!
あんな。返事待ってくれへん!」
「お、おう……俺が?」
「へへ……そう、ひなせくんが待ってや。
なんかな……今のままじゃ玉砕しそうな気がすんねん。
だから、ひなせくんに振り向いてもらえるよう、頑張る時間が欲しいねん!
ダメ……かな……?」
「いや……」
俺も考える時間が欲しいと言おうと思ったところだ。
ある意味、渡りに船だった。
「ほっ……え、えへへ……いきなり変なこと言って、ごめんね……ただ、想ってしまったなら、伝えなあかんと思って……」
「あ、ああ、ありがとう……」
「うん、とりあえず、この話はここまでな。
ひなせくんも、いきなりの変更で戸惑ってるやろ。
なんで変更になったのか、組木さんも教えてくれへんし、ちょっと変な部分もあるけど、わたしにとってはラッキーやったわ!」
う……俺と亜厂のキスが問題で、なんて言えないだろ、この状況で。
俺は何も言えずに黙り込んだ。
それから、此川さんと話したのは、基本的に亜厂に教わったことと大差はない。
結果的に配置換えの理由は、俺の口から言えなかった。
無理だ。
此川さんと目が合う度に、満面の笑顔を見せられたら、言えない。
昼休みが終わり、自分のクラスに戻ると亜厂もちょうど戻って来たところだった。
目と目が合う。
なんとなく気まずい雰囲気がお互いに漂っていて、最近なら軽く微笑み合うはずが、それとなく目線を逸らした。
ぎこちない。
亜厂が目を逸らしたのはなんでだろうか。
もしかして、組木さんに言われて、俺が変態野郎なんじゃないかと疑っているとか?
あ、有り得る。
亜厂は少しばかり流され易い部分がある。
しかも、組木さんに全幅の信頼を置いている。
そんな組木さんが、「日生は変態野郎だから、近づくな」みたいなことを言っていたら……。
俺は強く頭を机に打ちつけるのだった。
ゴイン!
騒がしかった教室が静かになった。
……やっちまった。
周り中から視線を感じる。
ちらり、と覗くと亜厂が目を丸くして驚いていた。
俺は照れ隠しに苦笑を浮かべて、ユキユキから盛大に笑われる。
それから、亜厂も笑っていた。
救われた。クラスの二大有名人が笑えば、クラス全体が笑っていいという雰囲気になる。
何より亜厂の笑顔が見られて良かった。
先程の気まずい雰囲気が嘘のようだ。
俺は少しだけ安心するのだった。
放課後。四人で集まることになる。
真名森先生は保健室から離れられないとのことで、保健室に集まった。
そこで俺は重大な問題に直面することになる。
「えっとねぇ……ほのかちゃんに教えてもらって、私、なんとなく『鍵』が分かったかもしれない!」
は?
真名森先生がいきなり目覚めかかっていた。




