宿直の真名森美也子 21
『旧校舎』を探りに来て、此川さんが真名森先生に見つかった。
俺と亜厂は『旧校舎』の壁板が腐っていたため、そこから『旧校舎』の中へ。
今は息を殺して、此川さんを見守っている。
「あの、実はこの辺りで落し物をしまして……」
此川さんが嘘の言い訳を述べる。
「ええ、何か大事なもの?
どんな形?」
「あ、えっと……これくらいのキーホルダーなんですけど……もう少し、向こうかな?
おじいちゃんのプレゼントで……」
おや? 真名森先生は此川さんを叱るどころか、事情を聞くことにしたようだ。
「うーん……大事なものだったら焦る気持ちは分かるけど、もう夜だしなぁ……どうしても今じゃなきゃダメとかあったりする?」
「ああ、いえ、確かに大事なものなんですけど、失くすと思ってなかったから、焦ってしまって……」
「そっかぁ……じゃあ、先生と一緒にあと一時間だけ探してみよっか!」
「わ、わぁ……本当ですか!
嬉しいなあ……」
此川さんが棒読み気味に答える。
こりゃ、ダメだ。
「ところで、あの、先生はなんで?」
「今日、他の先生がどうしてものご用事で、宿直を代わったのよ!
それで見回りに来たら、此川さんを見つけたってわけ!
それで、どんなキーホルダーなの?」
「あ、えっと……あ、青い鳥のキーホルダーなんですけど……」
「へぇ、幸せは実は近くにある、なんてね!」
真名森先生はそんなことを言いながら、此川さんと離れて行く。
「なんだか優しい先生……」
「ああ、福田くんがハマるのもちょっと分かるよな……」
亜厂が感想を言うのに、俺も追随する。
何にしろ、此川さんが怒られなくて良かった。
「日生くんは、色っぽいお姉さんだからでしょ……」
亜厂が頬を膨らませて、悪戯っぽく言う。
「いやいや、それはゲームの中だけで……ユキユキもなんであそこでゲームキャラの話とか持ち出すのかなぁ……参ったよ……」
俺はちょっと必死に取り繕った。
「ふぇ? ゲームキャラ?」
「うん、ゲームキャラの色っぽいお姉さんって、大抵、良いサブシナリオが用意されてるんだよ。
それですぐ好きになっちゃうんだよ」
「サブシナリオ……」
「レジェンドシリーズとかフェアリークエストシリーズとか……」
「あ、そ、そうなんだ!」
「あと初期に主人公に突っかかって来るキャラとか愛おしいね」
「へ、へぇ……あの、真名森先生は?」
「あの先生、言動はアレだけど、ユキユキのこと、色眼鏡無しでちゃんと見てくれてたし、そういう意味では信頼してもいい先生かなって……言動はアレだけどね」
「うん。たしかに良い先生だよね」
「まあ、それはそうと、此川さんが真名森先生を引きつけてくれている間に、『再構築者』を探しちゃおうぜ」
「あ、そうだよね!」
俺たちは『旧校舎』の中を歩き始める。
服の肘の辺りが突っ張る。
なんだ? と思って見ると、亜厂が俺の服の袖を摘んでいた。
「えっと……ごめん、ちょっとだけ……」
「お、おう……」
くっ……、か、可愛い……いやいや、今はそれどころじゃない。
自分に言い聞かせて、辺りに神経を張り巡らせる。
ポロン〜♪
「はっ?」「ひっ!」
ピアノの音が鳴る。
「あ〜、俺たちが壁壊したから、そのせいだったり?」
「あ、だよね、だよね……」
「たぶん、二階だよな。いちおう、確認しとこう」
『旧校舎』は中央に階段がひとつ。
木造なので、歩くたびに、ギッ、ギッ、と音がする。
不気味な雰囲気、かび臭い、背中は腐った壁板のせいで、ちょっと湿っている。
全体的に不快感マックスだが、俺の意識は外とあと、少しだけ突っ張る肘に集中していて、不快感は忘れることができた。
二階に上がる。
教室の上に貼られたプレートに『音楽室』があった。
暗幕が張られ、中の様子が見えない。
「ふぅ〜……さすがにちょっと緊張するな」
教室の外からは何も見えない。
風の通り道もないような気がする。
ただ、壁板を壊したことで、例えばその瞬間、ピアノの上に立て掛けてあったネジが転がったりして、それが鍵盤を鳴らした。
そういうオチも有り得る。
ドアに手を掛ける。
ガタ、ガタガタ……鍵は掛かっていないが建付けが悪いのか、簡単に開いてくれない。
閑散とした廊下に、ドアのガタガタが響く。
妙に汗を掻いてしまう。
ガラガラ……。
引っ掛かりを抜けたのか、ドアが開いていく。
ん? 糸?
糸のようなものが見えた気がした。
下から上へと消えたような……。
「見た?」
亜厂に聞いてみる。
ぎゅうっと袖を引っ張られる。
俺の二の腕に頭を擦りつけて、イヤイヤと頭を振っている。
「こりゃ、見てないか……」
辺りを見回してもそれ以外で気になることはなさそうだ。
ちなみにピアノは蓋が閉まっていた。
鳴るはずのないピアノと上に引っ込んでいった糸。
なんだか嫌な予感がする。
「何、やめて! 変なこと言わないで……」
「いや、今、なんか糸みたいなものが……」
「ひぃっ!」
「いや、あんまりそれじゃ、話にならないんだけど……はぁ……仕方ない。
上に行こう……」
まずいなぁ。『再構築者』が潜んでいたとしても、これで戦えるんだろうか……。
ただ、この場に此川さんが居ても、同じことになりそうで、俺は深くため息を吐くのだった。




