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旧校舎の怪 20


「……そうですか。分かりました。

 お友達にも聞いてみますね。

 ……いえ、学校外では会ったことがないもので、お役に立てず、申し訳ありません。

 はい、では、失礼致します……」


 亜厂が電話を切った。

 担任に聞いて、福田くんの親御さんに連絡をとったのだ。

 家には帰ってないらしい。


「う〜ん、ダメみたいやね……」


「福田くんはクラス内では声が大きい方だけど、特定の誰かと仲が良いって話は聞かないからな……」


 此川さんと俺は、一緒に肩をすくめる。

 これで連絡がつくとは最初から思っておらず、あくまでもダメ元のチャレンジだ。

 落胆は少ない。


 放課後、すでに日が暗くなる寸前だ。

 結果として、今日の調査は全て空振り、いよいよ旧校舎に挑むしかない。


 もう少し暗くなれば、旧校舎に併設された校庭を使っている女子部の面々も帰る。

 あまり大っぴらに捜査ができないから、この時間まで待つしかなかった。


 花冷えが厳しく、屋上で待っているのは辛かったが、ホットのコーンスープでなんとか耐えた。

 完全下校のアナウンスが流れる。

 この後の時間は、教師からの特別な許可がないと学校内に残ることはできない。

 もちろん、許可なんて俺たちにはない。


 これも国防のためだ。


 そう自分に言い聞かせて、もう少し耐える。


「こらー完全下校、過ぎてるぞー!」


 体育科の教師が校門のところで叫んでいて、ばたばたと最後の生徒たちが帰っていく。

 校門が重い音を立てて閉じられる。

 体育科の教師は職員室に戻る。

 職員である先生方は、もう少し学校内で仕事があるようだ。


 ここからは静かに動かないとな。


 俺たちは屋上から降りて、そっと『本棟』を抜け出す。

 外履きは先に用意してある。


 『本棟』を出て、外回りで『旧校舎』へ。

 『旧校舎』は使われなくなって久しいため、蔦や雑草に覆われ、寂れた雰囲気を持っている。


 携帯のライトを点けて、『旧校舎』を照らす。


「さすがにドアが開いてるなんてことは……ないよな。やっぱり……」


 『旧校舎』のドアは鍵が掛かっている。


「手分けして開いてる窓がないか調べるか……」


 俺が提案のために振り向くと、亜厂と此川さんは、二人で抱き合って、ぷるぷると首で否定する。


「えーと……」


 俺のなんとも言えない呆れ顔を見た、此川さんが慌てて説明する。


「いや、分かってんで。もしかしたら『再構築者(リビルダー)』が潜んでるかもしれんから、調べに来てるんやろ。でもな、こんな暗い時間に調べるのが、そもそも間違いやったんちゃうかなって……」


「外が明るい時間帯は、校庭に部活の子がいるから無理だって結論になったよねぇ」


「せめて三人。三人で行動しよ。

 相手が『再構築者(リビルダー)』ならいいけど、そうじゃなかったら、私も松利まつりちゃんも無力だから……」


「……まあ、仕方ないか」


 俺が折れると、あからさまに二人がほっとする。


 一階の窓を一枚ずつ調べていく。

 どこか鍵が掛かっていない窓があったりしないだろうか?

 ガタガタと建付けが悪い窓はあるが、さすがに開いている窓はなさそうだ。

 ただ、いちおう、全部調べてみないと、この時間まで待った意味がない。

 校庭に面している窓は全滅。

 廊下側の窓はどうだろう?


 廊下側の窓は植え込みの植物が野放図に繁茂していたりして、近づくのが困難だ。

 困難でも調べない訳にはいかないので、藪の中を掻き分け、窓に近づく。


 ガタガタ。ダメだ。


 次は? ガサガサ。ガタガタ。小枝に引っ掛かり、葉っぱまみれになって、俺はちょっとムキになっていた。


「なかなか見つからへんね」


 此川さんが薮の外から眺めて、言ってくる。


「そういうのは薮の中に来てから言ってくれないかな?」


 イヤミのひとつくらいは許してもらおう。

 今、窓を調べてるのは俺だけで、女子二人はそれを遠巻きに見ているだけなのだ。


「はっはっはっ、いやぁ、ひなせくんって捜査官の鑑やと思うわ……」


「はいはい、言ってろ……」


「うぅ……そうだよね……ううぅ……えいっ!」


 亜厂は俺の言葉を重く受け止めてしまったらしい。

 薮の中に飛び込んで来た。

 外はもう日が落ちて暗く、思い切るのはいいが、せめて慎重に……。


「ちょ……亜厂、危な……」


 俺は慌てて亜厂を受け止める。

 何故、跳ぶ!


 亜厂を受け止めた俺の身体は、校舎に凭れるようにして、ぐにぃ……と。


「うぇ……壁板が腐ってる……」


 校舎は木製で、どうやら一部だけだが、薮に隠れて日が当たらない部分が腐っていた。

 ぬるぬるで気持ち悪い。


「なに? 大丈夫なん?」


「壁板が腐ってて、体重かけたら貫通した」


「ああ、あっちの木が高く伸びてる方は、ここら辺に日陰を作ってしまうんやな……」


 此川さんが納得したように言った。

 その時だ。


「ちょっとー、誰かいるのー?」


 急に光が伸びて来る。


「あ、ヤバ……隠れて……」


 此川さんが小さく叱咤した。

 俺は亜厂の身体を持ち上げて、抜けた壁板から『旧校舎』の中へ。

 その後ろを俺も続く。

 光が薮の中を揺れて、此川さんを照らし出す。


「あ〜、いけないんだ!」


「あ、ま、真名森先生、ごめんなさい……」


 どうやら、相手は真名森先生だったらしい。

 此川さんが、後ろ手に「行け、行け」と示す。

 俺と亜厂は息を殺して待つのだった。



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