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旧校舎の怖い噂を語る此川《このかわ》松利《まつり》 19


 福田くんが連絡なく休んで三日。

 いよいよもって、福田くんが怪しくなってきた。

 亜厂が必死に連絡を取ろうとしたが、連絡はつかず、学校内での捜査に進展はない。


 今までの傾向で言うと、『再構築者(リビルダー)』はゲート近くから離れるのを嫌うというのが統計として出ているらしい。

 つまり、裏山の神社だ。


 『TS研究所』によると、ゲートから出る特殊なエネルギー波が、『再構築者(リビルダー)』の魂と肉体の擦り合わせに適しているからではないか、という研究結果が出ている。

 他人、ましてや身体の作りが違う肉体を乗っ取って、元の世界の身体を作ろうというんだから、簡単ではないのだろう。


 ただ、そうなると福田くんには当てはまらない。

 被害者説もまだまだ有り得る。


 『再構築者(リビルダー)』の習性として、もうひとつ。

 元の肉体の持ち主の動きをなるべく模倣するというのがある。

 肉体から記憶を読み取り、元の魂から記憶を受け継ぐのだ。

 この世界に溶け込むためにも、学校の人間に取り憑いた『再構築者(リビルダー)』は、学校に通う。

 ただし、一定以上に育ってしまった『再構築者(リビルダー)』は、ゲートのエネルギー波を必要とせず、好き勝手に動き出す。

 そうなると、被害は学校だけで収まらなくなる。


 警告からすでに三日。

 登下校や休み時間を使って、『転生者診断アプリ』で写真を撮りまくったが、反応はない。

 ちょっと手詰まりになって来た。


 昼休み、こそこそと屋上に上がった俺は、此川このかわさん、亜厂あかりと進捗を話し合う。


「なんか分かったこととかある?」


 此川さんが音頭を取る。


「福田くん、携帯の電源が切れてるみたい……」


 今の時代、固定電話は絶滅していて、基本的に連絡は個人だ。

 福田くんに連絡を取るなら、PCか携帯ということになる。

 PCにも返信がないらしい。

 担任なら保護者への連絡先も押さえているだろうし、そちらに聞いてみるくらいしか、やれることがない。


「んじゃ、亜厂ちゃんはこのまま担任の先生んとこな」


「そうですね」


「無作為に写真は撮りまくってるけど、未だ反応はないな」


 俺も報告しておく。


「ここまで噂ひとつ上がらないことを考えると、何か特殊なケースじゃないかって気がしてきました……」


「私もそう思って、人が変わった以外の噂も集めててん。

 そしたら、変な噂話を聞いたんよ……」


「噂話?」


「部活で旧校舎側の校庭を使っている女子野球部の子らに聞いたんやけど、夜七時、旧校舎三階の窓に映る、窓際の令嬢って噂なんやけど……」


「え、怖い話ですか……」


 亜厂が身構える。此川さんは急に神妙な顔になって話し始めた。


「うん。旧校舎側の校庭を使っているのって、女子野球部、女子サッカー部、陸上部の一部と女子テニス部やんか……そんでな、基本的に女の子ばっかやから、持ち回りでグラウンド整備とかするらしいんよ。

 普段は六時には部活も終わってしまうんやけど、グラウンド整備の子らだけは、夜間照明つけて、トンボで地面均したりしてから帰るんよ。

 普段から使ってるグラウンドだから、そんなに大変でもなくて、すぐ帰れるんやけど、今の時期って風が強かったりするやろ。

 そうすると、木が転がってたり、葉っぱ拾ったり、整備に時間がかかるねんて。

 時間はちょうど夜七時……。

 髪の長い子は気をつけなアカンねん……。

 何故なら、それを見るのは、みんな髪が長い子やねん。

 ふと、顔を上げると、旧校舎三階の窓で、見つけてしまうねんて。

 波打つ長い赤毛がこっちを覗いているんやて。

 その子は誰が名付けたか、窓際の令嬢って呼ばれてはるんやて……。

 そんでな、それを見た子は声を聞くんや……」


 すでに亜厂の手は、俺の腕を握って、ぎゅうっと力が込められている。

 俺は、話を聞くどころではなく、ひたすら俺の二の腕がちぎれませんように、と祈っていた。

 意外と力がある。


 此川さんは、たっぷりと間を取ってから、低い声で続ける。


「綺麗な黒髪、私の赤毛とどっちが綺麗?

 これな……赤毛って言うと、頭が血塗ちまみれになって死んで、黒髪って答えると、髪が燃えて火の赤に染まって死ぬねんて……」


「ふっぐぅぅぅ……」


「おがががが……」


「まあ、だとしたら、誰がこの話、伝えてんねん、って話なんやけどな。

 実際は、風に揺れた赤茶けたカーテンらしいんやけどな。ふふっ……」


「ふぅ……良かった……」


「いや、めっちゃ力、強い……」


 さすがに最後に叫ぶのを堪えた亜厂のパワーに俺は泣き言を言った。


「あはは、ひなせくん、可愛い女の子にしがみつかれるなんて、役得やなぁ」


「いや、それどころじゃないだろ。

 旧校舎は完全に戸締りされてるのに、カーテンが風に揺れてたら、問題あるって!」


「え?」


「あ……」


「それに、赤茶けたカーテンって、目に見えて赤茶のはずないんだよ。

 クリーム色は多少、日焼けしたところでクリーム色なんだから、赤毛に見間違えるのは無理があるって……」


 そうなのだ。今の話は矛盾だらけだ。


「あとひとつ。話が今の時期に限定されてるのも変じゃないか?

 風が強い日は今だけじゃない。

 それって、つまり、誰かが風に揺れるカーテンを見て、即興で作った噂話って可能性ないかな?

 特定の誰か。髪の長い子を脅かすための」


「ああ、そうや!

 いや、これ二年の先輩に聞いた噂話やねんけど、新入部員の子たちは覚悟が足りひんって言うとった!

 ウチの部活はマジでやってるから、チャラチャラしてんのが、許せへんって言うとった!」


 つまり、その二年の先輩は、これからそういう噂を流そうとしている訳だ。

 こりゃ、此川さんは噂の出処として利用されたのかも。

 マジでやってる部活でも、一年生なら、まだ髪の長い子もいるだろう。

 そして、グラウンド整備に駆り出されるのは、基本的に一年生。

 そういう噂話が流れれば、髪の長い子は、髪を切るかもしれない。


「ただ、火のないところに煙は立たない。

 旧校舎、調べてみないとまずいよな……」


「あ、えっとぉ……赤毛を見るのは髪の長い子やから……」


 ああ、そういえば此川さんも苦手なんだっけ。


「えぇ!? 無理、無理!

 それに、日生くんがそれは嘘だって言ったもん!」


「いや、亜厂。問題なのはカーテンが風に揺れることなんだ……どこかに風の通り道があるとすると、誰かが旧校舎に入れる可能性があるってことなんだから……」


「そうやで、亜厂。

 これは誰かが調べなアカンねん!」


「あ、松利まつりちゃん、ずるい!」


「いや、此川さん。これ、三人で行かなきゃダメだよ。

 もし、『再構築者(リビルダー)』が潜んでたら、俺は役に立たないんだから」


「あ……」


 残念ながら、未だ『欲望(デザイア)』は使えないのだ。

 修行は続けているんだけどな。


 俺たちは放課後、夜の旧校舎に挑むことになったのだった。



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