1ーC、福田《ふくだ》|充《みつる》 16
「日生満月……」
「うあっ、はい!」
担任の教師が点呼を取っている。
「福田充……福田、休みか……誰か、福田から何か聞いてる者はいるか?」
「……」
「ふう……後で連絡取らなきゃな……」
福田くんはお休みらしい。サボりだろうか。
いや、今の福田くんは真名森先生にご執心だ。サボるとは思えない。
担任教師は点呼が終わると、簡単な連絡事項の説明をして、朝のホームルームが終わる。
「……ったく、福田のやつめ……」と呟きながら、担任は教室を出ていった。
授業開始までの休み時間、ユキユキが俺の座席に話に来る。
「福田が休むなんて、変だな?」
「うん? なんでだ?」
ユキユキが首を傾げるので、俺は聞き返す。
「いや、昨日、真名森先生に相談に行っただろ。
それで真名森先生って、意外と話しやすくてさ、やま先輩の何が怖いのか、とかそんな話まで聞いてくれて、今日、昼休みにもう一度行くことになってるんだよ。
それで、昨日は福田が、今日も絶対ついて行く、ってうるさかったから……」
「普通に風邪でも引いたとか?」
「いや、例え高熱が出ていたとしても福田は来るよ。
昨日、真名森先生を前にした福田は、福田じゃないくらいに骨抜きな感じだった。
アイツ、エロい質問ひとつしないで、ずっとモジモジしてたんだ。
おかしいよ……」
ユキユキの人物評、特に男に対しては結構、信頼できる。
女の子を前にすると、泣かせてしまうのではないかと色々、我慢してしまうユキユキだが、男に対しては、そういう心配がない分、コイツは良く観てる。鼻が利くのだ。
ん? だとすると、真名森先生ってのは、ちょっと怪しくないか?
『TS研究所』から警告が来たのは、ついさっきのことだが、この警告の精度はどれくらいなんだろう。
もし、昨日の内に真名森先生に『再構築者』が取り憑いたとして、福田くんが被害に合っていたら?
殿の件があるだけに、福田くんがエロい質問ひとつしないというのは、引っ掛かる。
「なあ、昼休み、俺もユキユキについて行っていいか?」
「へえ、満月も真名森先生に興味あるのか。ちょっと意外だな……」
「ばっか、そんなんじゃねえよ。
ユキユキがまともに話せる女性とか貴重だろ。
ちょっと見てみたいじゃん」
「そうか? 亜厂さんとも、普通に話せるぞ。
なあ、俺、普通だよな?」
「へあ? あ、結城くん?
うん、普通じゃないかな?」
「だろう。ほら、別に女が全部ダメな訳じゃないぞ」
どうだ、とばかりにユキユキが胸を張る。
「そ、それより日生くん、やっぱり日生くんも真名森先生みたいな、大人の女性が好みなのかな?」
ぐん、と亜厂がこちらに身を乗り出してくる。
おう、なんで圧をかけるのか?
いちおう、仕事としてってのは、ユキユキの前じゃ言えないしな。
「あ、いや、だからユキユキが……」
「満月は、ああいうタイプ好きだよな。
ほら、ゲームでも色っぽいお姉さんとか好きじゃん」
おおう、ユキユキよ、ゲームの話を持ち出すのは、どうなのよ?
そりゃ、ゲームの話だろ、と言おうとしたが、亜厂は何故か、ぐいぐい来る。
「そうなの? 色っぽいお姉さん。真名森先生って、そういうタイプ?」
次の標的はユキユキか。
「ああ、福田とかそれでやられちまったようなもんだしな。
ちょっとあざとかわいい系って言うか、仕草がな……。
でも、話してみると、こっちの話は親身になって聞いてくれるし、意外とさばさばしてる所もあって、話しやすいぜ」
「色っぽくて、あざとかわいい……中身はさばさば……」
ユキユキの話だけ聞いていると、ちょっと男に都合良さそうというか。裏を返せば、男を翻弄してしまうタイプのようにも聞こえる。
そんな話をしていたら、始業のベルが鳴る。
ユキユキは、「んじゃ、あとで」と自分の席に戻って行った。
チラリ、亜厂を見ると、何故か凄い形相で睨まれた。
俺、なんかした?
亜厂が何に怒っているのか分からないまま、時間は昼休みになってしまう。
まあ、警告が出た以上、此川さんも亜厂も情報収集に奔走することになる。
友達が少ない俺は、休み時間、せめてクラス内の知り合いの様子くらいはと、目を光らせておく。
必然的に、亜厂と話す機会は放課後になってしまう。
今日の昼休みは、ユキユキと一緒に真名森先生に会いに行くしな。
そして、昼休みな訳だ。




