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バガステ? バガッション? 14


 バーガーステーション。ファストフード店の老舗。

 一月から十二月までの名前を冠したバーガーが人気の素で、自分の誕生月バーガーを頼むもよし、その月ごとにバーガーを頼むもよし、毎日変えてもよしと、普遍的に愛されるハンバーガーショップである。


 例えば、俺が頼んだのは四月バーガー。

 山菜とわさびソースが入った、通な逸品である。

 山菜の歯応えと、ちょっと大人な苦味にわさびマヨネーズを絡めて食べるバーガーで、肉の甘みを引き立ててくれるのが、美味いのだ。

 わさびマヨネーズも辛味よりも香気が強調されていて、バンズ、肉、山菜と奇跡のマッチングをみせてくれる。


 亜厂が頼んだのは二月の白菜すき焼きバーガー。

 甘みのある白菜に牛のバラ肉、甘辛すき焼きソースとたまごソースのダブル掛け、さらに肉パティが入った、ザ・肉食というバーガー。

 バンズに練り込まれた胡麻の香りがまたたまらない。

 正直、俺も迷った。腹に余裕があるなら頼みたいくらいだ。


 此川さんは十一月バーガー。

 カニクリームコロッケとほうれん草のバター和え、シャキシャキレタスが味わえるバーガーだ。

 バーガーステーションは旬の食材を旬の時期に瞬間冷凍したものを使っているのが売りで、どれも美味い。


 亜厂と此川さんは、お互いにバーガーをシェアして舌鼓を打っている。


「……そういえば」


 と此川さん。


「亜厂って私より『想波(カムナ)』低いはずやのに、ひなせくんの防御、完璧やったやんか。

 あれ、どうやったん?」


「ああ、あれはね。

 日生くんの提案なんだけど、操作は日生くんで、身体の保護は私っていう風に、担当を分けたの」


 亜厂が答える。


「は? どうやって?」


 此川さんが目を丸くして驚いていた。

 そんな変なことだろうか?


「いや、そのまんまなんだ。

 此川さんに操られた時も、なんか凄いスーパーパワーで、『想波防御(カムナシールド)』的な光に包まれるだろ……」


「ああ、不思議な光な。

 カムナ・シールドって分かりやすくてええな」


「……それで、『想波防御(カムナシールド)』には、ふたつ効果がある。

 ひとつは、例のスーパーパワーで、もうひとつが、光で包んだものを操る力、だろ。

 俺が操られてた時に、それを嫌がると、亜厂や此川さんに負担が掛かる、でしょ?」


「分かってやってたんかーい!」


 此川さんが軽めのツッコミを入れる。


「だって、ああでもしなきゃ、此川さん、俺を守るためにもっと無茶なことしそうだったじゃないか……」


「う……あ、そうや!

 不思議やったんやけど、なんで意識あったん?」


「あ、そうそう……普通、私のモノになったら、意識とか認識とか、無くなっちゃうはずだよね?」


 此川さんの疑問に、亜厂も身を乗り出して同意を示す。

 二人から、何故、と迫られる俺だが、『想波(カムナ)』すらまともに感じられない俺に分かる訳がない。


「……それは分からないな。分からないけど、最初からそうだったから、としか言えないよ。

 ただ、話を戻すと、操る力とカムナシールドって別の作用な気がして……それなら分離できるんじゃないかなって、まあ、ただの思いつきだけど……」


「う〜ん……実際にできとる訳やしな……。

 はっ! そうや!」


 此川さんが手をポンと叩く。


「うん?」


「あ……えっとぉ……」


 そうや! と言ったくせに、此川さんが急にモジモジし始める。

 それから、亜厂に耳打ちを始めた。


「……」


「……」


「えーと、なんだろ?

 いきなり目の前で内緒話とか、俺は聞かない方がいい話なのかな……」


 いちおう、自分の存在をアピールしてみるが、二人の内緒話は終わらない。

 此川さんから「秘密があった方が女の子は魅力的やろ」的な話を前に言われたこともあって、俺は気になるものの、セットのフライドポテトを、もそもそと口に運ぶ。


 二人で顔を見合わせて、笑顔だったり、恥ずかしそうに俯いたり、ああ、女の子なんだなぁと、二人を見守ることしかできない。


 ようやく終わったのか、二人は笑顔でこちらを向いた。


「えーと、それで何の話やったっけ?」


「いや、今の内緒話の……」


 二人、完璧なユニゾン笑顔が鉄壁のガードにしか見えない。

 ダメだ。この話題はほじるな、と警告が出ているような気がする。


「ああ、いや、そういえば、二人はDDになってから長いの?」


「私は一年くらい?」


「場所はちゃうけど、私もそんなもんかな……」


 つまり、中三の頃には活動を始めてる訳か。


「日生くんは中学二年の終わりくらいに、変なテスト受けませんでした?

 全国一斉、健康診断とか言って、脳波を調べたり、それから面接があったり……」


「ああ、たしかにあった気がする……」


 黒塗りのバンの中に、色々な機械とベッドがあって、頭に電極をつけたり、血を抜かれたり、それから、何日か掛けて、一人ずつ保健室で、今の学校生活はどうだとか、将来の夢はあるかとか、どんなマンガやアニメが好きかとか、意味の分からない質問に答える健康診断というのが、たしかにあったのだ。


 学校行事で、これ何のためにやってんの? と思う行事はたまにあることで、授業潰れるんだ、ラッキーくらいにしか思わなかったが、まさかそれがDDの青田買いに繋がっているとは思わない。


 なるほど、基本的には、そこでDDの適性を調べているのだろう。


 俺は……当時は適性がなかったのか、それとも最近になって適性が備わったのか、良く分からない。


 それから、俺たちはあまり意味のない無駄話に時間を費やして、解散した。

 意味のない無駄話こそ、俺たちにとって重要で、だからこそ解散するのが名残惜しかったが、なんとなく全員がそう感じていることに納得して帰った。


 ん〜、甘酸っぱいぜ。


 俺は、まだもう少し話したそうにしている亜厂や此川さんの顔を思い浮かべながら、電車の中で一人、にやにやしていたのだった。



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