その後 128
それから、俺は毒が回ってぶっ倒れた。
後を引き継いで、春日部隊長たちが動けるようにしてくれたのは、自身も貧血で死にそうな真名森先生だったらしい。
俺の毒は根が深く、全治二か月も掛かってしまった。しかも、その間、亜厂、此川さん、御倉に代わる代わる契約を結んでもらわないといけない生活を送った。ついでに言えば、留年確定である。
『TS研究所』の権力があれば、俺の留年くらいなんとかしてくれると思っていたが、組木さんは無情にも「無理」と答えた。
なんとなく、わざとなような気もした。
病院のベッドで俺はぼんやりと外を眺めていると、空の青さが目に沁みる。
俺たちが守った空だ。
蝿が覆った黒い空はもうない。
失ったものと守ったものを比べて考える。
病室の扉を叩く音が聞こえる。
返事も待たずに、扉は開いて、今日の担当が入って来る。
「おはよう、あなた。
私、学校行って来るからね!
はい、いってらっしゃいの、チューして!」
「今日も明るいな、御倉……」
「もう……そこは乗っかるとこでしょ!」
「昨日、組木さんから留年確定の報告をもらったところで、明るく振る舞えねえよ……」
「聞いた、聞いた!
もうあと何か月かで、日生さんとは先輩、後輩になっちゃうけど、私たちの間は今まで通り、タメ口でいいからね!」
「ああ、ありがとさん……」
俺は何とも言えない表情で答えた。
「んじゃ、いってらっしゃいのチューして!」
「治療のための契約な……」
「もう、ノリ悪いなぁ……」
言いながら、御倉が顔を近づけて来る。
「私たちの気持ちは変わってないからね……」
契約の瞬間、御倉はそう言って俺にコントロールを渡した。
俺たちのぬるま湯な関係は継続している。
───奥手もいいが、少しは先に進まぬと、愛想を尽かされる日も遠くはないぞ───
───黙れよ、ベリアル。お前、ベルゼブブを撃退したから、帰るんじゃないのかよ───
───契約は大祭が終わるまでだろう。
まだまだ魔王候補はいる。そいつらが全員、こちらの世界に来るのを諦めるまで、我が契約は終わらぬぞ───
───それは、いつか終わる時が来るものなのか?───
───さてな? 大祭という枠組みが壊れるまでは、大祭は続く……───
───俺、契約、間違えた……───
───はっはっはっ! 何をいまさら……。
間違えるのが日生満月の人生であろう……───
ベリアルの言う通り。
間違えながら進むのが俺の人生だ。
たぶん、これからもそれが変わることはないのだろう。
ユキユキが羨ましがった俺の人生。
まだまだ、間違いながら続く。
不器用だが、こうやって生きていくしかないのだろう。
俺は小さく嘆息して、また窓の外を眺める作業にもどるのだった。
了
これにて、日生満月の冒険は閉幕となります。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました。
なかなか上達しない文章でやきもきされた方もいるかと思われますが、最後までお読み下さり、感謝の気持ちでいっぱいです。
次回作は一カ月くらい書き溜めしてからになるかと思われます。
予定ではVRMMOでもう少しライトな感じになるかなぁって感じです。
よろしければ、見つけてやって下さいm(_ _)m
合言葉は『虹色戦士』です!〈まだそれしか決まってないとも言う……〉




