決着する二人 124
567でダウンしておりました。
ようやく復活です。
つ、辛かったっす……。
俺の元に戻って来た『想波』はそれなりに大きなモノだ。
鎧を作り、剣を作り、まだ充分な量がある。
これなら、ユキユキと戦える。
「満月ぃぃぃっ!」
ユキユキは巨大な蝿と化した下半身の機動力を活かして、空中から猛スピードで魔力の剣を振り下ろして来る。
下手に受ければ、こちらの剣が砕けるほどのパワーが込められた一撃だ。
俺は『想波噴流』を小出しにして、高速フェイントをかけてから離脱する。
だが、ユキユキはバスケ部期待のホープだ。
俺の中途半端なフェイントはユキユキに通じない。
『想波』の剣と腕の鎧で二重に身を守るものの、剣は砕け、腕の鎧にもひびが入る。
「そんな見え見えのフェイント……無駄だよ」
「くっそ……別に今のが最高速って訳じゃねえぞ!」
俺はもう一度、『想波』の剣を伸ばし、ひび割れを補強する。
「ははっ! 今の満月なら、力押しでも勝てる!」
嬉しそうにユキユキがUターンしてくる。
空か……『想波噴流』である程度の空中機動は可能だが、蝿の羽根の機動力には勝てない。
フェイントも効かない。
そういえば、ユキユキが試合でフェイントに惑わされないコツみたいな話をしていた。
なんだったか……そうだ、視線と足元を見るだ。
フェイントをかけてくる相手は、本来、行きたい方向の逆に身体を振る。
だが、それはフェイントである以上、どうしても次の動きのための準備がどこかに現れる。
だから、その準備を捕まえれば、フェイントに惑わされることはないと自信ありげに語っていた。
つまり、俺がフェイントをかけようとしても、それはバレていると思った方がいい。
しかし、正攻法は悪手だ。
パワーで勝てず、スピードで勝てない。
それならば、策を弄する以外に俺の生きる道はないのだ。
俺はユキユキを迎え撃つべく、体勢を整える。
ユキユキは宣言通り、正面からの力押しだ。
まともに喰らえば、鎧が壊れるだけでは済まない。
姑息だろうがなんだろうが、とにかくユキユキの思惑を外さなければ、俺は吹き飛ばされて終わりだ。
「勝たせてもらうぞ、満月!」
一瞬の攻防。
ユキユキが通り過ぎた後に、くるくると空を舞った俺の腕が、ぼとりと落ちた。
しかし、ユキユキの下半身の蝿は俺の剣を正面から受けて、ボロボロだ。
ユキユキの下半身の蝿はまともに動けなくなった。
「肉を切らせて骨を断つってやつか……」
チラリ、とユキユキが空を見上げる。
従者である蝿を取り込めば、ユキユキの下半身の蝿はまたたく間に回復するのだろう。
だが、ユキユキは唇をギュッと噛んで視線を俺に戻した。
ユキユキの中で、違うと感じたのだろう。
下半身の蝿がヨタヨタとこちらに向かって来る。
俺は落ちている自分の腕を拾うと、それを魔力でくっつけた。
操り人形になっている時と違って、痛みがダイレクトで、叫びたくて仕方がないが、それを意地だけで我慢する。
全身に凍らせた鉄棒が入ったかのように、冷や汗が、だらだらと出ているが、ユキユキに悟られまいと必死だった。
お互いにしばし無言の時間が続く。
ユキユキだって痛みを感じているはずだ。
時折、うっ……とか堪える声が聞こえる。
だと言うのに、ユキユキは口を開いた。
「腕がくっつくのかよ……」
「そういう魔力の使い方もあるってことだよ……」
俺もどうにか言葉を返す。
「ずりぃなぁ……」
「そういうもんだろ。
ユキユキはキャラクリで失敗したんだよ」
「だから、負けを認めろって?」
「説得はもう諦めたよ」
「ああ、分かってるよな」
ユキユキが笑う。
俺は笑えない。
ユキユキが最後の気力を振り絞るように、突進してくる。
それに合わせて、俺は背面の『想波噴流』を起動するのだった。
今ならスピードで勝てる。
これが最後のチャンスだと思った。
狙うは下半身の蝿だ。
完全に潰せば、さすがに頑固なユキユキも、負けを認めるしかなくなるはずだ。
「ぬうううりゃああっ!」
ユキユキの手にある魔力の剣が、どんどん肥大化していく。
しまった、と思う。
下半身の蝿がほぼ使い物にならなくなった時点で、ユキユキの狙いは相討ちになっていたのだろう。
「勝てなくても、負けねえ!」
巨大な魔力の剣で、俺を上から押し潰さんとする。
俺は『想波噴流』の出力を上げる。
出力を上げるといっても、機械操作をしたりする訳ではなく、ただ送り込む『想波』を増やすだけだ。
全身に装着している『想波噴流』の噴出孔が悲鳴を上げたように鳴いた。
『想波』は想いの力。
俺の想いで、その出力は上がる。
ユキユキの魔力剣の下を一瞬で駆け抜け、全身でぶつかるように、ユキユキの胸の中へと飛び込んだ。
ユキユキが俺に押されて飛ぶ。
その背中からは俺の剣が突き出ていた。




