決着をつけたい二人 123
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします!
コポコポとユキユキから音がする。
頭上の蝿どもが一斉に降りて来た。
まるで、天が落ちて来たのかと錯覚するような光景だ。
「つまり……女どもが俺の満月を勝手に取り合いしているんだな……余計な事を……」
ユキユキが、ふるふると怒りに震えていた。
「やめろ、ユキユキ!
変な誤解を生むようなことを言うな!」
俺は叫んだ。
なぜか『目玉の邪妖精』が踊り出す。
「俺のダチを惑わすんじゃねえ!
『暴食』!」
天が渦巻く。それは蝿の槍だったが、一本や二本の話ではなく、まるで逆さにした剣山だ。
そして、その槍の数十本が、俺以外のみんなにそれぞれ向かっていく。
「ユキユキ! やめろぉぉぉっ!」
俺の叫びが天へと消えて行く。
黒雲の天が落ちて、屋上がベルゼブブの蝿に埋め尽くされる。
「全て喰らい尽くせぇぇぇっ!」
俺に負けじと叫ぶユキユキの下半身がベルゼブブの蝿を取り込んで、巨大な一匹の蝿になっていく。
溜め込んだ異世界の変異エネルギーが、一気にユキユキの肉体を変えていく。
「切り裂け! 『北風の竜巻』!
舐めないでよね!
日生さんの『想波』があれば、一人でも数倍の力が使えるんだから!」
黒雲に包まれた一部が爆発したかのように巻き上がって、御倉が姿を現す。
「回れ、『彫刻刀槍』!
そうや!
日生くんとの愛があれば、私らは無敵なんやから!」
彫刻刀槍を振り回す此川さんが、やはり蝿を吹き飛ばして姿を現す。
「閃け! 『木刀ボールペン』!
満月くん、安心して!
『想波』は想いの力。
私たちの想いは、結城くんにだって負けないんだからっ!」
亜厂の一振り毎に、ベルゼブブの蝿が数十匹ずつまとめて真っ二つになっていく。
俺はその屋上に見えた三つの光に安心するものの、真名森先生の『目玉の邪妖精』が黒雲に包まれた場所に反応がなくて焦る。
だが、それは杞憂だった。
俺の目の前に一本の血色の剣が立ち上がったからだ。
その名は……『初めての共同作業』。
真名森先生がその血で作るメスのような形の剣だ。
「真名森先生! 無事だったんですね!」
俺は『初めての共同作業』を握りしめた。
心做しか、血刀が全体的に光っているようにも感じる。
「くっ……話が違うぞ、ベルゼブブ!
もっと力を貸せ!」
「やめろ、ユキユキ!
戻れなくなるぞ!」
「いいんだよ!
昔に戻れないなら……戻る必要なんかないだろ!」
「なに言ってんだ!
俺たちを取り巻く状況は変わったかもしれないけど、それで壊れるような関係だったのかよ!」
「……いいんだ。
俺が今、求めているのは、満月と昔みたいに仲良くすることじゃない。
俺は、女どもと戦いたい訳じゃない!
満月。お前だ!
お前を越えたいんだ!」
俺は深く息を吐いた。
「……じゃあ、俺とだけ戦えよ。
今の俺はみんなから力を借りてる状態だ。
俺が俺だけの力で戦うから、他のやつを襲うのはやめろよ」
「いいぜ。俺とベルゼブブ、満月とベリアル。
これだけだ。
それなら、条件は同じだろ」
「分かった。それでやろう……」
黒雲が空へと昇った。
従者? 蝿の力は使わないということだろうか。
俺も皆との契約を切った。
「日生くん!」
此川さんは信じられないという顔をして。
「日生さん……」
御倉は心配そうな声をあげて。
「満月くん、力は繋がってなくても、想いは繋がってるから!」
亜厂は精神論で俺を励ました。
ちょっと確信めいた動きで頷くが、精神論なんだよなぁ……と俺は苦笑するしかない。
ちなみに、『初めての共同作業』は、元の『目玉の邪妖精』になって、黒雲を睨みつけていた。
不正は許さない、とでも言うかのようだった。
俺の中に、預けていた『想波』が帰って来る。
下半身を巨大な蝿にしたユキユキは、蝿の複眼の間、眉間から生えたみたいになっている。
「『魔王の刃』……」
その手には、魔力で作ったかのような黒い剣が握られる。
俺はもう一度、掛け声と共に『想波』の鎧と剣を生み出す。
「……変身!」
それが始まりの合図だった。




