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混乱する結城裕貴 122


 ギャリギャリと音を立て、俺の鎧が削れる。

 ボロボロだ。

 『想波(カムナ)』の剣も折れた。

 ベリアルの幻覚魔法は通じない。

 唯一、残されたのは回復魔法と亜厂たちの操り人形になることで得られる回復くらいだが、それでユキユキにどうやって勝てるというのか。


 また、蝿の槍だ。

 馬鹿の一つ覚えだが、それ以上の技を出す必要を感じないのだろう。


「もう粘るなよ。

 越えさせてくれよ!」


 ユキユキはそう言いながらも、また、蝿の槍だ。

 もろに当たれば、確実な死が待っているが、少しでもズラせれば、まだ戦える。

 目が慣れて来てしまって、左腕一本を犠牲にすればズラせそうだと分かる。


 楽になってもいいのでは……とも思う。

 こんなにもユキユキが切望しているのなら、それを叶えてやるのも親友の努めかもしれない。

 俺が死ぬことで、ユキユキが満足できるのなら……。


「穿て! 『彫刻刀槍(グングニール)』!!」


 俺が諦めかけた時、蝿の槍を穿ち貫く勢いで此川さんの『彫刻刀槍(グングニール)』が蝿の槍を縦に引き裂いた。


「このっ……邪魔をするなっ!

 『魔王の賛歌』!」


 ユキユキが咄嗟に手を挙げ、別の魔法を放とうとする。


「結城くん! 満月くんは親友でしょ!

 舞え! 『木刀ボールペン(トツカノツルギ)』!」


 亜厂の『木刀ボールペン(トツカノツルギ)』が竜巻状に集まり始めた蝿を追い散らす。


「亜厂さん……」


 ユキユキが亜厂を見て、驚いたように呟く。


「ベルゼブブ! 観念なさい!」


 此川さんと亜厂を風で包み、屋上まで移動させたのは御倉だった。


 しゅるり、と俺の身体を支える血の色の『目玉の邪妖精(イビルアイ)』は真名森先生の『欲望(デザイア)』だ。


「もう安心やで。春日部隊長が呼んでくれた応援が続々、来とるんよ」


 此川さんが俺の手を取って立たせてくれる。


「あ、もう! すぐそうやって美味しいところ、取ろうとする!」


 亜厂が反対の手を掴む。


「私は三番目だし……二人みたいにはできないかな……」


 御倉がそれを遠巻きにして、少し悲しそうな顔を見せる。


「御倉ちゃん、ずるいなぁ……。

 そうやって、積極的になれない姿を見せて気を引こうとしてるやろ!」


 此川さんが御倉に指を突きつける。


 俺の身体を支える『目玉の邪妖精(イビルアイ)』たちが、興味深そうに三人を観察している。


「え〜、そんなことないよぉ。

 でも、日生さんはちょっと奥手っぽい子の方が好きかな、とは思うけど……えへっ!」


「き、きき、琴ちゃん!

 それは、ズルっこじゃないかな?

 満月くんのために、一生懸命、積極的になった方が良いよってアドバイスくれたの、琴ちゃんだよね!?」


 亜厂が顔を真っ赤にしていた。


「だって、ほら、ほのちゃんは緊張すると逃げちゃうから、多少は積極的にしないとでしょ?」


「あ、う……ううっ……」


 どうやら、別の意味で亜厂の顔色は紅くなったようだった。


「……どういうことだよ?

 なあ、満月……?」


「ええと……」


「彼女一号、参上!」


 俺がなんと説明したものかと迷っていると、此川さんがとんでもないことを言い出した。


「ごめんね……好きな人がいるって言ったでしょ。

 その……満月くんなの……」


 亜厂の顔がますます紅くなる。

 そして、亜厂は俺の腕にギュッと抱き着いた。


 俺の知らない所でユキユキは亜厂に告白でもしたんだろうか。


「待ってくれ……でも、その子が彼女って……」


「私も彼女だから!」


 御倉が声を張った。


「はっ……?」


 ユキユキが、ぽかーんと口を開けた。


「三股?」


「まあ、今のところは……?」


 此川さんが答える。


「うん、真名森先生とは、今度、きっちり話し合うから……」


 ちらっと亜厂が『目玉の邪妖精(イビルアイ)』を見る。


「真名森先生……?」


 ユキユキは混乱しているようだった。


「ええと……その……俺たちは簡単に言えば、テラの戦士ってやつで……」


 俺がなんとかこの混乱に終止符を打とうと、言葉を発した直後。

 ユキユキは急に笑い始める。


「ふっ……ははっ、はははははっ……なんだよ……急に満月の付き合いが悪くなったと思ったら……四股……亜厂さんに……真名森先生まで……」


「いや、真名森先生は違うと思うぞ……」


 俺は慌てて口にする。


「美也子ちゃんは油断できひん!」


「今は興味本位でも、みゃー子ちゃんに日生さんが靡いちゃう可能性は、あ、あるかもだし!」


「だから、みんなでちゃんと話し合うといいと思う!」


 此川さんは叫び出す。御倉は何やら想像力が先行しているようだ。亜厂は建設的なのか消極的なのか、良く分からない意見を言い出した。


「……ああ。なるほど……」


 その間、まるでフリーズしたように動きを止めていたユキユキが、納得したように頷いた。


「満月の中にいるベリアルってやつは、色魔で変態の悪魔なのか……。

 亜厂さん。こんなこと言いたくはないが……満月は悪魔に取り憑かれているんだ……しかも、その悪魔は幻覚の魔法を使う。

 おそらく、みんなその魔法で……」


「違うよ!」「知っとる」「それより前だよ、私たちが日生さんを好きになったのは……」


「は……?」


 ユキユキはもう一度、フリーズしてしまうのだった。



やっぱり陽性だったじゃんよー。

伝染らないように細心の注意をして、頑張りましょう!


本年、最後ですね。

皆様、良いお年をー!

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