天田《あまだ》能斗《だいと》 12
本日、二話目です。まだの方は前話からお願いします!
亜厂が胸ポケットからボールペンを取り出し、そっとそれにくちづけをした。
「これは私の物。だから、大きくなるし、長くなる。硬くもなるし、強くなる……」
呪文のように亜厂が唱える。
少し珍しい木製のボールペンだ。
それが亜厂の言う通り、大きく長く、硬く強くなる。
手にしたソレは木刀のように見えるボールペンだ。
たしか『木刀ボールペン』とか呼んでいたはず。
「天田 能斗先輩。
聞こえますか!
聞こえるなら、頑張ってください!
自分の身体を好きに使われて、いいはずないです!」
「ちっ……よくも調べたものだ……まるで犬だな……」
「がるるるる……そういうこと言ってると、噛みつかれますよ」
亜厂は木刀ボールペンを構えながら、おどけて見せた。
「遠藤先輩って人から?」
俺は亜厂に聞く。
「うん。人が変わったとしたら、同じクラスの天田くんだろうって……トイレ掃除の常習犯なのに、急に真面目に勉強しだしたから、何かあったはずって疑ってたよ」
なるほど、それでコイツの名前が分かったってことか。
「それで、天田先輩。大人しく降参する気はありますか?
三対一ですよ?」
俺はイミエルに聞く。
素直にお縄につくなら、戦わないで済む。
その方がお互いにハッピーだからだ。
国外退去、いや、界外退去で済ませる方法もあるかもしれない。
「この神の御使いたる我に対して、降参するかだと……脆弱なる人風情が……わざわざ生かしておいてやった温情すら忘れおって……」
イミエルは俺を睨む。
「温情?
違うだろ、俺を生かしたのは、その方が此川さんの力を削げるからだ。
勝手にいいように解釈をねじ曲げるなよ」
俺は言い返した。コイツの頭の中が怖い。
「く、くくくっ……死んでから後悔するがいい!
【天より降る雷槍】!」
バシッ!
この御業は避けられない。
だが、俺は今の状態なら大丈夫だと確信めいた予感があった。
亜厂が掛けてくれた無限の体力。
此川さんに雷槍が効かなかったように、おそらく俺にも【想波防御】的な力があるはず。
俺の右肩に直撃したソレは、それでも鉛の塊を少し上から落としたような鈍痛を俺に与えるが、骨が折れるようなことはない。
いける! やはり、問題なかったことを確認して、俺は一気にイミエルとの距離を縮め、ぶん殴った。
イミエルは驚愕、という表情をしていた。
だから、その表情ごと力の限り歪ませてやった。
「な……ごぶぁっ……!」
「最初は此川さんの顔面だったよなぁ……」
俺は覚えている。
コイツは躊躇なく、此川さんの顔面を殴った。
「女の子に手を上げる、あろうことか、顔面狙いとか、どういう教育されてんだ、この脳内ヴァルハラ野郎が!」
よろめくイミエルの腹に、サッカーボールキックを捩じ込む。
「おンゴぉぉぉっ!」
今、オウンゴールって言った?
まあ、それはいいとして、ここからはストンピングの時間だ。
此川さんが受けた屈辱を思い知れ!
「日生くんっ!」
「止めないでくれ、亜厂。
コイツに此川さんが受けた屈辱を返すまでは……」
「そうじゃなくて、その『リビルダー』の出身はエルヘイブン。ヴァルハラじゃありません!」
え? そこ?
後で分かることだが、ある程度、異世界にも名称があるらしく、タカ・ヴァルハラという異世界もあるのだそうな。
タカ・ヴァルハラはウチの組織とそれなりに交流があるとかで、僭称的に使うのはよろしくない、ということらしい。
いや、知らんがな。
とにかく俺は、此川さんの倍返しに忙しい。
「もうええで、ひなせくん!」
声を掛けてきた此川さんが携帯を構えていた。
「『人払いアプリ』を反転させるとな、封印になんねん。
しっかり弱らせてからって但し書き付きやけどな!」
カシャリ!
写真を撮る気軽さで、天田先輩に向けて『反転人払いアプリ』を起動する。
その後、此川さんの携帯から細長い棒が一本、吐き出された。
その棒を拾って、此川さんが近づいて来て、見せてくれる。
「こん中にな、『リビルダー』の核が封印されんねん。
この棒、ひとつに一体分の『リビルダー』が入れられるやんか。
覚えといてやー」
なんか此川さんの顔が近い。
此川さんは、ちゃんと見るとキラキラしたどんぐり眼で、ちょっとリス顔をしている。
小動物みたいにちょこちょこ動くところを見ると、思わず抱き締めたい衝動に駆られてしまう。
まあ、それくらい魅力的だということだ。
なので、距離が近いのは嬉しい反面、自制できなくなりそうで困る。
「もう、松利ちゃん、日生くんの教育係は私なんだからね!」
何故か亜厂が不満そうだ。
「あれ〜?
もしかして亜厂、嫉妬してんの?」
「ち、違うよ……そうゆーんじゃないから……」
「ホンマか?」
「ほ、ほんまだもん!」
「う〜ん、ホンマか?」
「ほんま、ほんま!」
何故か俺の前で二人がイチャつき始めた。
空気が弛緩したからか、俺の中にあった亜厂のパワーが薄れて行くのを感じる。
天田という先輩を見る。
まるで憑き物が落ちたような顔で失神していた。
イミエルに乗っ取られていた時と顔つきが違うように見える。
これが本来の天田先輩ということなのだろう。
しばらくして、全身黒づくめの大人たちがやってくる。
亜厂と此川さんは大人たちに説明を始めていて、手持ち無沙汰な俺がぼーっとしていると、プロテクターに身を包んだ大人の一人が俺の前に棒を突き出してくる。
「はい、これ見て!」
あ、と思った時にはもう遅かった。
シュボンッ!
強烈な光が俺の目を直撃した。
「のおぉぉぉっ! 目があああァァァっ!」
「あ、違います、日生くんはDDで……」
巻き込まれた一般人と勘違いされた俺は『瞬間催眠装置』で目を焼かれたのだった。
こうして、俺の『妄想︎ ✩想士』としての初戦が幕を閉じたのだった。
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