人形を抱く春日部隊長 115
『本校舎』と『旧校舎』の間で、どうにかバエルを倒した俺は、砂藤班長たちが守る『専門学習棟』と『総合体育棟』を繋ぐ外廊下を目指そうとしたが、ふと、空を見上げて立ち止まる。
校庭に集まるベルゼブブの蝿の数が尋常じゃない。
あちらでは、亜厂が加藤さんと、本体を隠した真名森先生が『総合体育棟』を守るべくベルゼブブの蝿と戦っているはずだ。
心配になるが、あちらは信じて任せるしかない。
砂藤班長たちは、鍛えていても『欲望』が使えない一般人だ。
俺は外側を回って、外廊下を目指す。
けたたましいサイレンが響く。
正門側に、機動隊のTS専従班の面々が支援に入ったのだろう。
すぐにも、各方向に支援が入るはずだ。
走っていると、片手に木製の人形、片手に電磁警棒を握る春日部隊長が隊員を引き連れて走ってくるのが見える。
「隊長!」
「状況は!」
「バエルというエルパンデモンのリビルダーを送り返しました!
もう一体のリビルダーは、亜厂が校庭で相手をしているはずです!」
俺は大きな声で状況を報告する。
人形がその木製の口を動かす。
「バエル!
ならば、もう一人は死の王子エウリノーム!
死にたがりの巻き込みたがりめ!
あやつの性根は好かぬ」
「レライエ様、どういうことでしょう?」
春日部隊長が人形に聞く。
「死の王子は死を振り撒く。敵も味方もない。
あやつのソレは同情を引き、同調させ、病み膿み腐らせる。
我はソレを戦いとは認めぬ」
「ううむ……精神攻撃ということでしょうか?」
「戦いとは呼べぬ。
剣の想士は諦めるしかあるまい」
「は?
諦めるとか、馬鹿なこと言うな!」
TS専従班の軍師に収まったレライエに俺は思わず、異を唱える。
「人の身ではアレに抗えぬ。しかし、不正の器ならば、同情も同調もなかろう」
「日生想士、亜厂想士の援護に向かえ!
こちらは我らだけで支えてみせる!」
春日部隊長が胸を張って請け負ってくれる。
「すぐ戻ります、それまでお願いします!」
「ああ、任せておけ!
各員、巨大扇風機の搬入急げ!」
頼もしい言葉を背に、俺は亜厂の元へと走った。
「ベリアル、頼むぞ!」
───誰がやると言った?
本来、我が力の全ては日生満月に渡してある。
死の王子程度、我が力を使えばどうという
ことはない。
それとも、契約を使うか?───
ベリアルが一度だけ、無条件で俺に力を貸すという契約。
ここで使ってしまっていいものだろうか。
どうやらベリアルなりに、俺の力を信頼しているようにも感じる。
「いや、やっぱり自分でやる!」
───そうか───
素っ気ない返事だが、おそらくはこれで良かったのだろう。
俺の力で亜厂を助けることができるなら、そうしたいという想いもある。
ベルゼブブの蝿を掻い潜って、俺は校庭へと向かうのだった。




