キング・田中 111
「なあ、亜厂さんが俺は普通だって?」
なるべく、距離を離すべく、田中くんを旧校舎の校庭へと誘導する。
「ああ……どうだったかな?
言ってたような、言ってなかったような……もしかして俺の勘違いだったかも……」
口から出た適当な嘘に絡まれても困る。
俺は時間がないのもあって、早く、早くと妙に焦って、なんとも覚束無い答えを返す。
「何も見えてないんだな、あの女……」
「え……?」
田中くんは亜厂に惚れていたという認識だったが、違っただろうか。
いや、『再構築者』によって認識が歪められている?
その可能性は充分に有り得ることだ。
「俺がいかに偉大で、いかに貴き存在なのか、分からせてやらないと……お前にもな!」
田中くんが前を行く俺の肩をいきなり掴んだ。
嫌な予感がしていた俺は、肩を掴まれると同時に、前回り受身の要領で逃げた。
「ふふふ……何を恐れる?
兎は兎らしく、飛び跳ねてみせようとでも言うのか?」
田中くんはあくまでも尊大に、歩きながら俺を追う。
「お前は誰だ!」
充分に距離を取り、田中くんを引きつけながらの逃避行だ。
「もちろん、俺は田中だ!
お前には俺が普通に見えるか?
違うだろ?
兎は兎らしく、俺に跪いて、頭を垂れろ!
気が向いたら、許してやらないこともないぞ!」
言いながら歩く田中くんの首の左右が膨れ上がる。
何かの病気だろうか。
もう少しで『本校舎』を抜ける。
俺は外へ通じる扉を跳ね開けるように外に躍り出た。
「ははは、跳ねろ、跳ねろ!
ほら、追いつくぞ!
『王の行進』」
田中くんは両手を上にあげたまま、滑るように移動した。
閉まりかかっていた扉が何かの力場にぶつかって、ひしゃげ、吹き飛んだ。
距離が急激に縮まる。
『本校舎』と『旧校舎』の間の小さなスペース。
旧校舎校庭まであと少しだが、魔法を使い始めた以上、ここまでだろう。
「田中くんじゃないよな……。
中に居るのは誰だ?」
「何を言っている?
俺は田中だ。キング・バエル・田中と崇めよ!」
───バエルとは、また大物を呼んだものだ。
王が動くとなれば、死の王子も動くか?───
「死の王子?」
ベリアルの知り合いということは、エルパンデモンの住人ということだ。
───エウリノーム。どちらもベルゼブブの両腕と言ったところだ。
どちらも穢らわしき悪魔よ。死ぬなよ───
ベリアルの言動からは、自分は関わりたくないという意思を感じる。
ヤバい相手だと思ったほうがいいだろう。
「田中くん……まあ、合わないタイプだとは思ったけど……もしかして自尊心が肥大しすぎて、変なのを呼び込んじゃった?」
「……ふん。逃げ回るだけの兎ならば、良かったのにな。
その反抗的な目は気に入らないな。
潰してやろうか?」
「たぶん、王様になりたかったのかね。
一回、分からせてやるよ!
変身!」
カムナブレスをスタートさせる。
キング・バエル・田中との戦闘が始まるのだった。




