底の日生満月 108
スクールカースト底辺に落ちた。
元々、下の方だったが、なんとなく空気みたいな存在になった。
ただ、スクールカースト頂点の亜厂やユキユキは、居なかった時間を埋めるかのように話しかけてくる。
みんな、二人の動向が気になって仕方ないらしいが、俺だけがその場にいないような扱いだ。
ユキユキをカラオケに誘いにきた加藤さんは、雑誌を見せて、どのガジェットが欲しいだとか必死に説明するユキユキに、そもそも高校生の俺たちにコレ必要か、と反論する俺の横合いから、俺の言葉を遮るように割って入ってくる。
「ああ、じゃあ、満月も……」
バスケ部は現在、開店休業状態でまともに練習ができる状態にない。
一部の部員同士での自主練習がせいぜいらしい。
そのおかげで時間ができたユキユキは、最近ではクラスメイトと遊ぶ余裕もできたということだった。
「俺はパス……」
放課後のDDは忙しい。
加藤さんはとても満足そうな笑顔をユキユキに見せる。
はい、空気、空気。
なんとなく話も中断したので、「トイレ行ってくる」と声をかけるも、加藤さんの「今回は結城くんと趣味が合いそうな、りさとまゆと山下くんと高木くんと……」という、いかに今回のカラオケに情熱を傾けているかという熱弁の前に、ユキユキはまともに返事もできない。
まあ、いいかとトイレに向かう。
ただ、俺の底辺エピソードはこれだけではない。
「なあ、日生……」
廊下に出た俺を追いかけて、話しかけて来たのは、クラスメイトの田中くんだ。
「なに? トイレ行ってからでもいいか?」
田中くんは、いきなり肩を組んでくる。
なんとなく嫌な感じだ。
「なあ、亜厂さんと仲良くしてもらってるみたいだけどさ。
それが同情なのは、分かってるよな?」
田中くんは俺の身体に体重をかけるようにして、それとなく動きを封じてくる。
「あー……意外と陰湿なタイプ?」
「は? お前には他にお似合いのお友達がいるだろって言ってんだけど?」
「うんうん……ごめんな。
友達は自分で決めることにしてんだ」
なんだか馬鹿らしくなって、トイレに向かう。
これでも三か月、みっちり身体を動かしてきているので、田中くんの体重くらいはどうってことない。
田中くんは、彼のプレッシャーが俺に通じないと分かると、小さく舌打ちして離れていった。
人が変わったといえば『再構築者』の関与を疑いたくなるが、コレに関しては、俺が環境を変えてしまったからできた変化だ。
なんでもかんでも『再構築者』のせいにする訳にはいかない。
そんなこんなでDD的には平和な、学生的には一部を除いて関係修復困難な一週間が過ぎた頃、俺たちの携帯に『TS研究所』からの警告メッセージが届いた。
TS研究所︰警告、県外から『ベルゼブブの蝿』が発見、『学校』に向けて大移動が始まっています。
想士各員、注意されたし!
「なんで……」
俺は思わず呟く。
昼夜問わずの監視と徹底的な駆除によって、ベルゼブブの蝿は県内での封じ込めに成功していたはずだった。
そのはずなのに、結果として県外でベルゼブブの蝿が繁殖していたらしい。
春日部隊長の言によれば、県外からのベルゼブブの蝿、発見報告はなしで、順調に駆除も進んでいるはずだった。
隣りの亜厂と思わず顔を見合わせる。
亜厂は駆除に関わっておらず、俺に詳しい話を聞きたそうにしている。
しかし、今はまだ授業中だ。
それに、メッセージが警告に留まっているということは、まだしばらく時間がある。
俺は口パクで、分からない、聞いてみると亜厂に伝える。
「日生ぇ! 授業中だぞ、携帯いじるなぁ!」
クラスメイトの誰かが、教師の真似をして、俺を注意してきた。
教師の視線が俺に向かう。
俺はすかさず携帯を隠した。
「ごほん! 日生は後で職員室に来るように」
「はい……」
実際、『TS研究所』に連絡を一本入れれば、お咎めなしになる特権があるが、まずは受け入れたフリをしておく。
だが、亜厂はそれを聞いて、いきなり立ち上がった。
「先生、私も携帯を使いました!」
亜厂は、これで俺だけが罰せられるのはおかしいと思ったようだ。
教師は大して興味がなさそうに、では、亜厂も後ほど職員室に来るように、と言って、黒板へと向かった。
なんとも言えない表情になる俺。
ありがたいが、亜厂まで標的になってしまわないかと気が気じゃない。
そんな時、校内放送が鳴り始めた。
ピンポンパンポン〜♪
只今より、急遽、避難訓練を行います。
緊急連絡です。校内で火災が発生しました。
先生方は生徒たちを誘導して、体育館に避難してください。
繰り返します……
校長先生の声だった。
同時に、『TS研究所』からも追加のメッセージが入る。
TS研究所︰緊急。完成間近の新規、地下鉄路線内で『ベルゼブブの蝿』の繁殖と接近を確認。
『学校』では、緊急の避難訓練として、生徒を体育館に移動するよう指示済み。
緊急のため、想士各員は真名森想士の指示の元、体育館防衛の任に就くこと。
「すいませ〜ん。亜厂さんと日生くんは……あ、居た居た!」
俺たちがメッセージを読んでいる間に、真名森先生が教室に来ていた。
真名森先生は、担当教師と小声で二、三言、会話を交わしたと思うと、俺たちを手で呼んだ。
教室の外には、既に御倉と此川さんが待っているのだった。
土曜日は急遽、お休みしてしまって申し訳ございませんでした。
実は母が入院しました。誤嚥性肺炎だそうです。
幸い、今は快方に向かっているので、ようやくひと安心ですが、しばらく不定期になる可能性もあります。
なるべく定期掲載を守るつもりではありますが、母のお見舞い〈時期が時期なので、お届け物をするだけだったり、病院から呼ばれてお話を聞くだけだったりしますが……〉などもあるため、その時はあしからずm(_ _)m




