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復学する日生満月 107


 それから一週間後、『TS研究所』の英才たちから、休学中の勉強を教えてもらい、俺は復学した。

 たぶん、最低限の学力は補えたと思う。

 『TS研究所』の英才たちは、努力の人が多く、勉強のコツをたくさん教わった。

 かなりの詰め込みだが、少しだけ『知る』ことが楽しくなった。

 マンツーマンの学力保証は、家庭教師以上の効果がある。


 ひとつ発見があった。

 ベリアルは勉強好きだった。

 この世界のことわりを知るのが楽しくてたまらないらしい。


 俺の中のベリアルは、この世界を満喫しているようだ。


───大祭が終わって、エルパンデモンに帰れば、この知識も全て無駄になる。

 そう思うと、全てを知りたくなるものだ……くくくっ……───


 変態め……。


 秋の終わり。少しずつ寒暖の差が生まれてくる季節。

 日向は暖かく、日陰は吹き始めた北風が気になる。

 そんな中、久しぶりの登校だ。


満月みづき〜!」


 下駄箱で靴を履き替えていると、俺は後ろから抱き締められ、持ち上げられ、振り回される。


「おわっ! 待て待て……ユキユキ、振り回すな!」


 結城裕貴(ユキユキ)が喜びでおかしくなっている。


「お前、休学して自分探しの旅ってどこ行ってたんだよ〜!

 連絡も帰って来ないし、めちゃくちゃ心配したんだぞ〜!」


 そういうことになっていた。


「自転車で日本一周……」


「ベタか、お前……」


 ユキユキに真顔で問い掛けられる。


「まあ、色々あったんだよ……」


「……そうか。まあ、帰って来たからいいか。

 それで収穫はあったのか?」


 にこやかに問うて来るが、ユキユキの目は笑っていない。

 ここは真面目に答えるところだろう。


「あった。俺は周りに助けられないと生きられないらしい」


「ははっ、今さらかよ!」


「それが分からないくらい馬鹿だったんだよ」


「そうか……」


 そう言いながら、心做しかウキウキした様子でユキユキは教室へと歩いて行った。

 俺とユキユキの関係も少しだけ変わった。


「おはよう、会田!」


「おはようさん、ユッキー!

 あ、この前言ってた『アレ・ド・レエ』の新曲、聞いたぜ!」


「おう、そうか。良いだろ……」


「もう前奏からアレド節って感じでさぁ……」


 ユキユキは俺のいない間に、少しだけ他人と深く関わるようになったようだ。

 他のクラスメイトと積極的に挨拶している姿を見ると、感慨深くもあり、少し寂しくもある。


 俺の机はそのままになっていたらしい。

 かばんから机に教科書なんかを移し替えていると、隣りの亜厂が挨拶してくる。


「満月くん、おはよ!」


 それはもうニコニコな笑顔だ。


「ああ、おはよう、亜厂……」


 俺が挨拶を返すと、周囲の視線が一斉に俺に注がれた。

 ユキユキ以外の男からは、驚きと敵意。


「なんで亜厂さんがあんな親しげに……」「学校辞めたんじゃねえのかよ……ライバルが減ったと思ってたのに……」


 亜厂はクラスカーストで言う頂点。皆の人気者だ。

 底辺で休学を退学と勘違いされてしまう俺との差が三か月で浮き彫りになったらしい。


「あれ? 日生って帰って来たんだ……」「それより、ほのちゃんの態度、なんか違うよね」「そんな仲良かったっけ、あの二人?」


 女子からは好奇と奇異の視線が飛ぶ。

 クラス内で大して存在感のないやつが、三か月の空白期間を設けたら、そいつは退学かニート化したか、そういう話になるのも仕方ないのかもしれないし、そんなやつに親しげに話しかけるクラスカースト頂点の亜厂の動向が気になるのも納得だ。

 頂点は中心、底辺は隅っこ、このパワーバランスが崩れると、クラス内はカオス化して、頂点に近い者の発言力が発揮されなくなってしまう。

 それを危ぶむ者はそれなりにいる。


「ねえ、満月くん」


 亜厂はそんなパワーバランスなど気にならないのだろう。

 屈託なく話しかけて来る。


「ん?」


 あまり仲良し感が出ないように、素っ気なく返事をする。

 ある程度決まってしまったクラスカーストに異を唱えるつもりはなく、俺は底辺で周りから気にされない方が、DDとしては動きやすいと思ったからだ。

 そんな俺に亜厂は言う。


「えへへっ、呼んでみただけ!」


 くっそ可愛い! だが、それはイカン!

 クラス内でざわめきが広がった。


 みんなに対して、久しぶり、などと声をかける暇もなく、復学、即、敵対だった。

 教師も朝のホームルームで、俺の復学を話題に出したが、特に何かある訳ではなく、「分からないところがあれば、友人に聞くように……」と無責任な発言をして去っていった。


 任せて、とやる気を見せる亜厂と、その背中越しに俺へと圧を掛けて来る級友たち。


 クラス内の居心地は最悪の状態で、俺の復学はスタートしたのだった。



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