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密室の四人 106

今になって、昨日の投稿設定の間違いに気づきました。

ももも、申し訳ございませんm(_ _)m


 場所は第二中隊、第一班のバンの中、狭い後部座席を取っ払った、狭い空間。


「全員、来い!」


 砂藤さとう班長の鶴のひと声で、俺たち四人はPCやら装備品が詰め込まれた狭いバンの後部の空間に向かい合わせで、床に直座りしていた。

 手には、それぞれ温かい缶コーヒーが渡され、「痴話喧嘩は隠れてやれ!」と砂藤班長がドアを閉めた。


 四人だけの密室。気まずい……。


「えと……」


 何か言わなければと音を出してみるが、何を言えばいいのか言葉に詰まる。

 すると、正面右手にいる此川さんが口火を切った。


「なんで逃げたん?」


「逃げっ……」


 逃げた訳じゃないなどと言い訳しようとしたが、実際、俺の行動は逃げだ。

 騙された、とか、気持ちを弄んだ、とか言われるのが怖くて、反省という名の逃げを打った。


「……いや……はい……」


 言い返しようもない。


「はい、じゃなくて、なんでなん? って聞いてるんやけど?」


「ごめん……そりゃ怒るよな……」


「誰も怒ってるなんて言ってへんやん!」


 此川さんは怒ったように言う。


「う〜……う〜……」


 俺の右横に並ぶ亜厂は、俺の右腕を抱え込んだまま、何故か幼児退行して、俺の右肩に頭突きを入れて来る。

 地味に痛いが、これも自分の招いた事態だと我慢する。


「ほのちゃん……松っちゃんも、日生さんに会ったら、なるべく責めないって話したじゃん……」


 御倉がなんとか仲を取りなそうとしてくれるが、此川さんは、あからさまに、ぷいっと横を向いた。


「だって……いつまでも帰って来ぃひんやんか……」


「え、そこ?」


「はあ? もう三か月以上やん!

 夏休みも文化祭も、体育祭も終わってんやで!

 主要なイベントに日生くんがおらんくて、楽しめるわけないやろー!」


「え、ご、ごめん……」


 なんだろう? 俺は困惑していた。

 嘘をついていたこと、『妄想(デリュージョン)想士(デザイアー)』として一人で戦えない弱さ、そういった部分を責められると思っていたが、此川さんが語ったのは、そういうことではなかった。

 だからといって、嘘や弱さが許されるとは思えない。

 だから。


「その……俺の嘘とか、弱さとか……」


「そんなのどうでもいいのっ!」


 亜厂が急に大きな声を出した。

 俺は驚いて、そちらを見る。

 亜厂はその大きな瞳を潤ませて、じっと俺を見ていた。


「ねえ、私たちのこと嫌いだった?」


「嫌い? そんなはずないだろ……」


「だって、好きだったら離れたくないもん……」


「つまり、好きじゃなくなったから、学校を休学したって思ったのか?」


 亜厂が首を振って否定する。


「ずっとメッセージ、未読無視してる」


「違う、違う……俺は自分で言うのもなんだけど、流されやすいんだ……その……俺の弱さで人が死んだんだ……DDとして一人前に戦えるようになるまでは、強くなるために時間を使おうと思ったんだ……」


 沈黙が場を支配する。


 ずるい言い方だったかもしれない。

 でも、本心だ。


「……それで日生さんは強くなれたの?」


 御倉が聞いてくる。


「分からない……でも、この境遇を受け入れることはできた……かな」


 ほんの三か月で鍛えられる力なんて、たかが知れてる。

 戦う力のほとんどは、外林ほかばやし研究員の作ってくれたカムナブレスとベリアルから託された幻覚魔法だ。

 周りが用意してくれた力しかない。

 でも……。


「誰かの力を借りられるのが俺の力なのだとしたら、それが俺の力だ」


「私、貸すよ!」


 亜厂が真っ直ぐに俺を見つめていた。


「私だって、貸すよ!」


 御倉が負けじと俺ににじり寄る。


「ずるいなぁ……そんなすぐに許してもうたら、お詫びデート狙ってた私がバカみたいやんか……」


「お詫びデート!?」「お詫びデート……」


 此川さんの言葉に御倉と亜厂が考え込む。


「デ、デート……」


 俺にはデートなんてハードルが高過ぎる!

 どう答えるのが正解なのか、必死に考える。


 すると、すすすっと寄って来た此川さんが俺の左腕を巻き取った。


「あかん、かなぁ?」


「は、初めてだから、楽しませられるか分からないけど……」


「はい、はい、私も!」「私も!」


「あ、じゃあ、みんなで……」


「「「ダメ〜!!」」」


 三人が口を揃えて言った。


「う、うん……。

 了解です……」


 それなら、まずは学校に来ないとね、と御倉が言って、未読無視良くない、と亜厂に上目遣いでお願いされ、此川さんは、ニコニコ顔で俺の肩に凭れかかってくる。


 俺はいつも、誰かに救われる。


 死んだ人たちへの責任は消えないが、その暗く陰鬱な影に少しだけ光が差し込んで来たように思えたのだった。



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