天使ハルポナ 101
「まずいな。駅の方向だ……このまま犯行に及ぶつもりか?」
砂藤班長が焦ったような声を出す。
時刻はそろそろ夜の十二時、終電まではまだ少しある。
○△駅は駅ビルが併設されたそれなりに発展した駅だ。
それは、つまり関係ない人々がまだ駅周辺にそれなりにいるということだ。
「くそっ、非常呼集だ!
交通安全でもなんでもいい、駅を中心に半径一キロメートルで非常線を張れ!」
砂藤班長が声を張り上げた。
隊員の一人が無線でそのことを『TS研究所』に送る。
「噂話ひとつでいきなり殺しに行くつもりか……なんのために?
……いや、日生想士の例もある……取り憑かれる前の人間の意思が強い場合もあるか……奇跡で殺せば現行法で逮捕できないのは、高校生でも分かる……ならば、我々の動きはまだバレてないと見ていいか……」
砂藤班長の呟きは自問自答の連続で、これは砂藤班長の癖のようなものだ。
こうやって、頭の中の情報を纏めているらしい。
車が進み、駅が近くなる。
主要道路では検問が敷かれている。
俺たちのバンは、検問で砂藤班長がバッヂを見せて通る。
高取くんを追う虫サイズの盗撮用ドローンは、検問を見て回り込み、検問のない小道から駅へと向かう高取くんを映している。
それを見た隊員から、小道も塞ぐように指示が飛ぶ。
急ごしらえの道路封鎖だ、全てをフォローするのは難しい。
「日生想士。応援の御倉想士が着くまで最短で二十分だ。
リビルダーの封印は無理に狙わなくていい。
好き勝手させるな。
周囲の人間は俺たちが保護する。いいな!」
一番近くの御倉でも二十分か。
やれるだろうか……いや、やるしかないのだ。
相手がハルポナだとすると、その目的は人間の魂を確保して、自分たちが都合良く操れるエルパンデモンのリビルダーを大祭で魔王に祭り上げることだ。
躊躇なく人間を殺すだろう。
検問を張る警察官は地元の人間だ。
駅前で有名な浮浪者はどこにいるか聞けば、すぐに答えは返って来る。
バスの停留所の裏にある階段のデッドスペース、そこにダンボールで囲いを作って寝起きしているらしい。
砂藤班長の指示でその近くまで接近、俺はカムナブレスを起動、班長たちは据え置きの防弾ベストと黒のヘルメット、電磁警棒という軽装で車を降りたのだった。
走ってバスの停留所、駅前ロータリーへと向かう。
まるで何事もなかったように、近づく高取くんが見える。
周囲にはバス待ちの客が数人、駅に向かい歩く人たちもいる。
「日生想士、先行しろ!」
俺は頷き、『想波噴射』で飛ぶようにそちらへと向かう。
高取くんが指鉄砲をダンボールの囲いへと向ける。
その指先から水晶のようなつぶてが放たれる。
それほど早いスピードではない、石を放り投げた程度のスピードだ。
ただし、距離は五メートルもない。
「くっ……おおおっ!」
俺の光の鎧に仕込まれた『想波噴射』が爆発的な推進力を発揮する。
腕から伸ばした『想波』の剣で、高取くんの水晶のつぶてを弾く。
弾かれた水晶のつぶては歩道の石畳に、スッと吸い込まれた後、ゴバッ! と音を立てて地面を捲りあげるように爆発、直径一メートルほどのクレーターを作り上げた。
周囲の視線がクレーターに集まる中、俺へと目線を向けた高取くんが小さく呟く。
「誰だ?」
「お前がハルポナか?」
質問を無視して、こちらからも問いかける。
高取くんは、すっと目を細めた。
俺の背後からは砂藤班長たちが警笛を鳴らしながら、叫ぶ。
「全員、離れろ!
爆弾魔だ! 逃げて近くの警察へ!」
どよめきが起こる。
「テラの戦士か?
これは天の裁きだ。我は天使ハルポナ。
邪魔だてするな……」
「それを許すなら、最初からここには現れねえよ!」
俺は緊張しつつも、そう宣言したのだった。




