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走る|日生《ひなせ》|満月《みづき》 10


 屋上から階段を三段飛ばしに駆け下りる。

 いきなり動き出した殿がどこへ行くのか見届けないと。


 ずだんっ!


 勢い良く階段を降りきると、音を聞きつけた殿に見つかった。


 やべっ!


「ああ、君、階段は飛ばないようにね。

 危ないから……」


「え、あ……すいません……」


「うん。分かってくれるなら、いいんだ……」


 ぞわわ!

 俺の背筋が気持ち悪さに震える。


 たしかにおかしい。

 前までの殿なら、「いい度胸してるな、一年生。罰としてトイレ掃除だ」くらいのことは言う。

 それが妙な猫なで声で「君……」なんて呼ばれると、変な汗が出そうだ。


 殿はそれだけ言うと、俺を無視して『専門学習棟』へと向かう。


 ウチの学校は現在、取り壊し待ちの『旧校舎』、各クラス教室が入った『本棟』、図書室や音楽室、家庭科室、PC室などの『専門学習棟』、食堂、室内プール、体育館、武道館などの『総合体育棟』、各部活の部室が集まった『部室棟』、本棟から廊下で繋がった、職員室、事務室、購買部などがある『事務棟』の六つが基本としてある。

 他にも、倉庫や青空劇場、旧体育館、旧事務棟、裏山の神社、校庭などあるが、とりあえずそれらは置いておくとして、歩く方向は『専門学習棟』だ。

 そこには『日本史資料室』などもあるので、殿がそちらに向かうのは、おかしな事ではない。


 俺は殿に無視されたのをいいことに、隠れながら殿を尾行する。


 殿は五十代とは思えぬ健脚で『専門学習棟』の階段を登っていく。

 上にあるのは『日本史資料室』なので、おそらくそこに向かっているのだろう。


 俺は音を頼りに一階で待つ。


 人が少なくなった放課後の『専門学習棟』は、下手に尾行すると、すぐにバレる。


 階段を上がって、すぐのところで扉が開く音がする。

 やはり『日本史資料室』だろう。

 扉が閉まる音が聞こえてから、俺はこそこそと階段を上がる。

 二階だ。

 すぐに『日本史資料室』がある。

 辺りに人気はない。


 俺は『日本史資料室』の扉に耳をつけた。


「……殿田、……実験結果……怒り……削って……成功……次は……そのくだらない……哀しみ……みようか?」


 誰かが殿に話し掛けていた。男の声だ。

 なんだかマッドサイエンティストじみたことを言っている。


 これは、殿とは別の男が『再構築者(リビルダー)』ということだろうか?


 亜厂と此川さんに連絡しておこう、と携帯を取り出す。

 思考入力に未だ慣れない俺は、携帯をポチポチするしかない。

 と、焦ったのか、俺の手から携帯が滑り落ちた。


 ゴトッ、カラカラ……。


「誰だ!」


 誰何の声が響く。

 まずい!


 携帯を拾うと同時に俺は逃げ出した。


「待て!」


 階段を三段飛ばしで降りる。

 ばたばたと相手も階段を降りて来る。

 踊り場の折り返しで顔を見られないように背けつつターン。

 後ろに携帯を向けて、『転生者診断アプリ』で写真を撮りまくる。

 階段終わり、廊下をダッシュ、『本棟』に渡り、職員室を目指し、『事務棟』方面へ曲がる。

 足音が少し遠い。

 写真を撮るのはやめて、本格的に逃げにかかる。

 職員室前を全力ダッシュ、もう一度『本棟』へ戻り、今度は階段だ。

 大抵の学校がそうであるように、一棟に階段はふたつ。外階段も含めれば四つ、これはベランダの両端に付けられている。


 一瞬だけ二階を確認する。

 扉が開いている教室が見えない。


 三階に向かう。自分のクラスならば扉が閉まっていても鍵は掛かっていないのが確定しているからだ。


 息が上がって来る。


 くそう、俺の力が覚醒していれば、こんなに、ぜひぜひ、と息をしなくても、もっと早く走れるのに!


 そんな亜厂の操り人形と化した時のことを思い出しながら、体力の限界に挑戦する。


 1ーC。あった。扉を開け、入って閉めるのもそこそこに、ベランダに向かう。

 窓を開け放ち、ベランダを端まで駆けて、今度は下へ。

 体力の続く限り、あちらへ、こちらへと走って、どうにか撒いた。


 ここは……『総合体育棟』、つまりは体育館の裏か……。


「はひゅ……はひゅ……」


 俺は携帯を取り出し、写真を確認する。

 ひどい手ブレだ。

 片方の眉毛と髪の毛だけの写真。印を結んでいるような片手だけの写真。二枚だけだ。

 あとは天井とか、手すり、階段らしきブレ写真なんかが写っている。

 しかし、身体の一部だけが写っている写真は、共に八十二パーセントと八十四パーセントで、八十パーセント超の数値が出ている。

 決まりだ。


 俺は『転生者診断アプリ』の確認ボタンを押した。

 すると、画面内に幾つかのボタンが出る。

 すぐに応援呼び出し、至急連絡の要あり、待機願う、など項目が並んでいる。


 これはいざという時にすぐに押せるように、位置を覚えておかなくてはならないな。


 今は……待機願うボタンにしておこう。


 同時に先程、写した写真にオーラのようなものが浮かび上がった。


 うーん……頭の上のリングっぽいオーラは分かるかも……。


 それから、此川さんと亜厂の共通SNSにメッセージを送る。


───リビルダーを見つけたけど、写真を撮るのに失敗。ちょっと追われた───


───今、どこですか?───


───今は安全なん?───


───たぶん撒いたと思う。今は体育館裏。もう走れねえ───


 俺はそこまで書いて、大きく息を吐くのだった。



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