第96話 リリ
いつも読んで下さり有難うございます!
いったいどういう意味ですかと問う前に、答えはやってきた。
「たっだいまー!!ダーリン元気にお留守番してたー!?あら!アナタ達がピピちゃんの言っていたお客さん?随分と沢山いるのねー!!外からお客さんが来たってだけでも一大事なのに、4人もいるなんて、皆がソワソワしちゃうわけだわー!!」
「何言ってるかは分からねェが、ヤベェのが来たな」
ヘラ、言って良いことと悪いことがある。……いやでも、“色々と凄い”人なのは間違いない。
「リリ、挨拶が」
「あら、うっかりしていたわ。流石ダーリン。皆さん初めまして!ニャラの妻、リリです!ダーリンったら全然喋らないから意思疎通が難しいでしょ?でも怖がらないで!根はすっごく良い人なの!ホントよ?たとえば─」
「待て待て、先ずは部屋に」
「分かったわ!そうねぇ、愛しの子供たちが使っていた部屋が2つあるから、ちょっと狭いかもしれないけれど2人ずつで別れてもらおうかしら!着いて来て!!」
脳が全ての情報を処理し切る前に、パタパタと居間の奥に消えてしまったリリさんからニャラさんに目を移す。
「……儂は2年で慣れた」
口数を足して4で割ればいい具合になるんじゃないですか?という感想は、口にせずとも本人が十分に理解していそうだ。
「お言葉に甘えさせて頂きますね」
「あぁ」
「皆さん、暫くの間はこの家の空き部屋を貸してもらえるそうです。それから、今の方はニャラさんの妻にあたるリリさんで、何を言っていたかというとですね」
どこからどこまで話すべきか、取捨選択がめんどくさ……悩ましいな。
「コバヤシ、大丈夫だ。アレの通訳は骨が折れるだろう」
「何となく良い人そうってことだけは伝わったわ!」
良かった。余程重要な話でない限り、リリさんの話は通訳しないことにさせてもらおう。普通にしんどい。
「あ~、まぁ、そのくらいの認識で問題無いと思います。奥に向かいましょう」
早く行かないと戻って来てしまいそうだ。
「あ!来た来た!こっちとこっちがそれぞれアタシとダーリンの部屋で、あっちとそっちが息子たちの使っていた部屋よ!くつろぐのはちょっと難しいかもしれないけれど、好きなように使ってちょうだい!」
「有難うございます。リリさん」
「やぁねぇ、ダーリンが追い出してないんだもの、きっと大事なお客さんなんでしょ?これくらい当然よ!」
絶対の信頼を置いているんだな。羨ましい関係だ。
「そう言えば、僕が魚人族の言葉を話せることには驚かないんですね。ピピさんから聞いていたんですか?」
「……あ!言われてみれば!アナタ、魚人族なの!?とてもそうは見えないけれど、でも人は見た目で判断してはいけないものね……。じゃあどこの集落から来たの?後ろの方達とはどういうご関係?もしかして、皆さん魚人族だったりするのかしら!?」
こっちがボールを1つ投げたら3つ4つ投げ返してくるタイプの人だ。こちらの手の数をちゃんと見てほしい。
「僕は人族で、魚人族の言葉は……色々あって最近話せるようになったばかりなんです。因みに、一番背の高い彼女が人族で、こちらがハーフエルフ、後ろにいるのがエルフです」
「あらそうなの!凄いわね!とてもそうは思えないくらい流暢じゃない!それに、人族もハーフエルフもエルフも初めて見たわ!鱗とエラが有るか無いかくらいしか違わないのね~!……あ、ごめんなさい!つい話し過ぎちゃったわね!いっつもそうなのよ。ダーリンにもよく言われるの。ともかく、アタシはご飯の支度をするから、部屋で待っていてもらえるかしら?腕によりをかけちゃうから、楽しみにしていてちょうだい!」
「は、はい」
パタパタと忙しなく走り出したかと思ったら、リリさんはこちらに振り返りこう言った。
「ピピちゃんが明日の朝迎えに来るみたい!体術の稽古がしたいんですって?凄いのねー!あのピピちゃんから教えてもらえる程には強いってことかしら!」
返事を聞く前に、今度こそ居間の方へ行ってしまった。
「つ、疲れた……」
「お疲れ様、小林ちゃん」
「有難う」
「今まで出会ったヤツの中で一番怖かったぜ」
「ヘラさんが魚人族の言語を話せなくて良かったと心の底から思っています」
「確かに、凄い人だったな。コバヤシ、貴様は気付いていたか?」
おぉ、セリンさんも気になっていたのか。
「あ?何の話だ?」
「魔力ですよ」
「はァ?メチャクチャにしょぼかったじゃねェか。あんなんが森に入ったらあっという間に養分確定だ」
果たしてそう言い切れるのか、怪しいところだ。
「ヘラ、貴様はもう少し魔力感知を鍛えた方が良い。ご自慢の“匂い”とやらに頼り過ぎると、いつか痛い目をみる」
「どういう意味だよ」
放っておくと突沸しそうだ。とっとと答えを教えておこう。
家に入ってきた瞬間に凄い人だと思った、その理由を。
「ブレが一切ありませんでした。もし見た目通り、一般人並の魔力量しかない場合、ブレは酷いものです。感情に左右されて大きく揺らぎます」
そこまで言われて、廊下の向こうを鋭く睨むヘラ。
「……ナニモンだよ。アイツ」
「喧嘩売らないで下さいよ。お願いですから」
「テメェはオレを何だと思ってんだ」
“全筋”だと思っているよ、とは絶対に言わない。というか言えない。
「……次その目でオレを見たら問答無用でぶん殴るからな」
クソ、どうして俺の目はこうまで口ほどに物を言うんだ!
「あ、明日からピピさんが体術の稽古をつけてくれるそうですよ。ヘラさんもどうですか?」
「混ざるに決まってんだろ。それから、今ので誤魔化せたと思うなよ?次はねェからな。オレはこの部屋で寝る。飯が出来たら起こせ」
危なかった。
「コバヤシ、貴様はもう少し表情を制御する訓練をした方がいい」
「僕もそう思います」
「ねぇ、話を遮るようで悪いんだけど、アタシと小林ちゃんが同じ部屋でいいかしら?」
「そうだな。それが良い気がする」
「了解だ」
それから部屋に荷物を置き、20分後に晩御飯をご馳走してもらった。
がっつり魚料理だった。ネルー湖に生息する魚型の魔物らしい。
何となく、食べ辛かった。
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